二百二十話 エクスマキナとの戦いに向けて
第十五階層の中ボス、エクスマキナ。
物理防御に特化しつつ、基礎魔法で魔法攻撃と魔法防御までしてくる敵だ。
お試しで戦ってみた感触からして、なるほど一年間も探索者たちを退けることはあると、俺は自宅で寝転がりながら納得していた。
「俺が仮に身体強化スキル持ちの探索者だとすると、突破法がパッとは思いつかないんだよなあ」
身体強化スキルをレベルカンストしていたとしても、エクスマキナは物理防御に特化しているため、単純な刀での攻撃は通用しない。
その証明は、エクスマキナの鎧に薄っすらとついていた傷の数々から分かる。
あの傷は、探索者たちが頑張って戦って、ようやく付けることが出来た損傷だ。
つまり、日本のトップの探索者が全力で戦っても、あれぐらいの傷をつけるのが精一杯ってことだ。
仮にエクスマキナの装甲をぶち抜ける新スキルを得たとしても、基礎魔法の魔力盾に阻まれて無効化される未来が予想できてしまう。
「魔力盾の存在も、攻略の難しさに拍車がかかっているんだよな」
俺の魔力弾がエクスマキナの装甲にかなりのダメージを与えたことから分かるように、エクスマキナは物理に強くて魔法に弱い性能のはずだ。
しかし魔力盾があることで、魔法的な攻撃にも強くなっている。
まさに、防御面に関してだけなら、隙がなさすぎる中ボスってわけ。
エクスマキナの武器も厄介だ。
片手で振ってくる、剣身が赤熱化する大剣。盾の裏に隠している、魔力弾発射機構。
どちらも直撃すれば、大怪我じゃ済まない危険な威力がある武器だ。
「普通の探索者は、打つ手なしだと思うけど」
でも俺が挑む前に十五階層に入っていった、あの探索者たちがいる。
彼らは突破できると信じて、エクスマキナに挑んだはずだ。
彼らが階段で広げていた物資を思い返してみる。
置き盾は、おそらく魔力弾の防御のため。
投げ槍は、魔力弾に対抗するための、遠距離武器だろう。
数多くあった刀は、エクスマキナと切り結ぶ際に、赤熱化した大剣で刀がダメになることを前提にして用意したんだろう。
あの物資から考えるに、探索者たちの作戦がなんだったかが窺い知れる。
「持久戦に持ち込む気だったってことかな」
どうしてそんな作戦にしたかは、予想がつく。
十四階層のアタックゴーレムは、戦闘駆動が長引くと、エネルギー切れを起こして弱体化する。
同じ系統のモンスターに見えるため、エクスマキナも長時間戦闘駆動させれば弱体化すると考えたんだろうな。
事実、魔力盾と魔力弾発射機構や赤熱化する大剣と、エネルギーを馬鹿食いする見た目の装備をしている。
時間をかけて戦えば弱体化すると考えてしまっても、不思議じゃない。
「だけど、そんな弱点を残しているんだろうか」
エクスマキナは中ボスだ。雑魚敵のような弱体化ギミックが搭載されているとは考えにくい。
仮にエクスマキナが、物理と魔法が全く効かない装甲を持っていたのなら、そういったギミックが用意されていても変じゃないとは思う。
しかしエクスマキナは、物理防御は凄いものの、魔法防御に関してはさほど強くはない。
あくまで俺の魔力弾を防げていた理由は、エクスマキナが魔力盾を使用して防いだから――つまり魔力盾さえ使わせなければ、魔力弾は普通にダメージを与えられる攻撃手段なんだ。
「ゲームで考えるとエクスマキナは、味方の一人がエクスマキナに魔力盾を発動させるような攻撃を行い、他の面々が魔力盾で守れていない部分に魔法攻撃を当てて倒すって感じの、味方との連携が攻略の鍵になる敵だよな」
攻略法は見えてきたが、生憎とソロな俺向けじゃない方法だな。
違う方法を考える必要がある。
なにせ、エクスマキナを倒さないことには、十六階層には行けない。
そして十六階層に行けないということは、俺が不老長寿の秘薬を手にする機会もやってこないってことでもある。
つまりエクスマキナを倒すことを諦めてしまったら、俺がダンジョンに入る意味がなかったってことになる。
「危険だけど、インファイトで魔法攻撃を接射するしかないか」
手が触れられる距離で戦えば、魔力盾の防御を掻い潜ることが出来るはず。
その際に問題になるのは、エクスマキナの赤熱化する大剣だ。
防御を掻い潜ったとしても、あの大剣を防ぐ術が、俺にはない。
「というか、日本鎧でも防げないだろ、アレは」
次元収納に鉄板みたいな物を入れて、攻撃を受けそうになったときに出す――ってのも、手仕事で作られた物品じゃないとモンスターに通用しないっていう、ダンジョンの特殊な物理法則のせいで使えない手だよな
というか、あの大剣を防げる防具が存在するのかが分からないし。
「魔力盾なら防げるか? いや、魔力盾で防いでしまうと、魔力弾で攻撃することが難しくなる」
魔力盾と魔力弾を同時に使えるのかという疑問が起こったが、なんとなく今の俺には難しいんじゃないかって気がする。
「魔力盾で大剣を防ぎつつ、魔槌の爆破能力を使って攻撃。これが一番丸い戦い方かな?」
なんかもう一工夫できそうな気がするけどと、俺は頭を悩ませる。
今までの中ボスたちを思い返すと、もっと楽な攻略法がありそうなんだよな。
第五階層のトレントは、火にかければ弱体化した。
十階層のオーガ戦士は、一対一で戦うのなら、純粋な技量勝負に持ち込めた。
だから十五階層のエクスマキナも、なんらかの方法を使えば弱体化できそうなんだよな。
だけどそれは、持久戦の後に得られる類じゃないはずだって直感もある。
なんか解決の糸口が何処かにありそうなんだけどなと考えていると、パッと思い浮かんだことがあった。
「魔石鏃の矢があったよな。意識を込めると、魔法効果が鏃から出る、あの矢」
十三階層に出るフレッシュゾンビ、そのレアドロップだった、アレだ。
俺は身体を起こして、あの矢が使えるかの検討に入る。
エクスマキナとの接近戦。大剣を魔力盾で防ぎ、魔石矢を突き刺して攻撃する。
「なかなか、良い手じゃないか?」
魔槌のように空振りチャージが必要ないから、連続攻撃が可能な点もありだ。
でも生憎と、俺が十三階層で手に入れた魔石矢は、試しに使って効果が発動させた一本を除き、全部売り払ってしまっている。
再回収しに行くしかないな、コレは。
どれだけの本数の矢が必要になるかわからないけど、とりあえず二十本ぐらい集まるまで、十三階層に行ってみるのもいいな。
「岩珍工房にお願いした防具の完成には、まだまだ時間があるしな」
俺はそう決めて、懸念が解消されて心は晴れたし今日は休日だしと、二度寝をすることを決めたのだった。




