二百十九話 中ボスは機械仕掛け
十五階層に入ると、なんとも不思議な光景が広がっていた。
直径五十メートルほどの円筒形の部屋で、床と壁は全て金属板で覆われている。壁の所々には張り出したパイプもある。
差し詰め、金属製造工場の塔の中か、性能実験場の中といった風景だ。
その風景の中で、床の上には壊れた刀や置き盾や投げ槍が散乱していた。
先ほど階段で出くわした探索者たちの物資以上の物があるのを見るに、歴代の退けられてきた探索者の装備が残っているって感じがする。
そして、壊れた武器防具が散乱する部屋の真ん中に、中ボスが存在していた。
中ボスの見た目は、金色をベースに赤色の刺し色が入った、とても派手な鎧を着て、床に膝をついて項垂れている人物。左腕に長方形の盾が括りつけられていて、右手には鈍色をした剣身の大剣を握っている。
そんな観察をしている中で、中ボスは人型ではあるけど、人じゃないと確信した。
節立った指も、兜と胴体を繋ぐ首も、足首や膝や内ももも、明らかに機械的な造形をしている。
つまりこの中ボスは、ゴーレムやマネキン系のモンスターの上位種の、人型機械なんだろう。
さらによくよく観察すると、鎧にも盾にも細かな傷が沢山ついていた。
「数々の探索者を跳ね除けた功績の傷ってところか?」
十五階層を突破できないまま、一年ほど経過しているはずだ。
その一年で蓄積された傷が、ああも表面に留まる程度しかないと考えると、この中ボスの防御力の高さが恐ろしくなる。
「とりあえず、一当てといきますか」
今日のところは、とりあえず様子見だ。敵わないと感じたら、すぐに逃げよう。
そう決めて、白い渦のある場所から離れないように戦うことに決めた。
では、数々の探索者たちを退け続ける実力はいかに。
俺は中ボスの実力に興味を抱きながら、前へと進む。
人型機械っぽい中ボスは、俺の接近に気付いたのか、俯いた顔を持ち上げて立ち上がる。
ようやく全容が見ることが出来たが、全長二メートル越えの金鎧の人型機械となると威圧感がある。
中ボスは、兜を巡らして俺の方へと顔を向けると、その兜の目の部分に光が入った。
効果音で『ぐぽーん』と鳴ってそうな、そんな光り方だ。
「等身大スケールのロボットプラモデルじゃあるまいし!」
俺が魔槌を構えながら突進すると、機械仕掛けの中ボス――某作品からとってエクスマキナと呼ぶことにする――が四角い盾の先を向けてきた。
盾の影で見えにくいが、盾と腕の間に何かがある。
それを察知した瞬間、俺は突進を止めて、横に飛んだ。
直後、エクスマキナの盾から『バババン』と音が鳴り、俺がいた場所を何かが通過していった。
一瞬だけ見えたが、通り過ぎたモノは、基礎魔法の魔力弾だった。
「基礎魔法を使うのか!」
十四階層のモンスターもスキルか魔法かみたいな能力を使っていたので予想はしていたけど、このエクスマキナも確りとスキル持ちのようだ。
俺が警戒を一段階上げている間に、エクスマキナは右手の大剣を構える。機械仕掛けだからか、大きな剣を小枝のように扱っている。
更には大剣の剣身が、段々と赤味を帯びていく。剣の周囲の空気が揺らめいで見えるため、赤熱化しているんだと判断できる。
「つまり、腕部マシンガン付きの盾とヒートサーベル持ちの、鎧を着た人型機械ってわけか」
機体の色が違うし体型はエクスマキナの方がスリムだけど、『怯えろ竦め!』って声が聞こえてきそうな装備の相手だな。
あの赤熱化した剣を食らうのは明らかに拙いと分かるので――
「――なら遠距離戦で様子見だ。魔力弾!」
こちらから魔力弾を発射すると、俺が遠距離攻撃持ちだと分からなかったんだろう、エクスマキナは魔力弾を胴体部に食らった。
大きく鎧がへこんだのを見て、俺はもう一度魔力弾を発射することにした。
「魔力弾!」
再び五発の魔力弾が発射されたが、しかし二度は通じないようで、エクスマキナは盾で魔力弾を防いでみせた。しかも盾の前に、魔力盾を張る念の入れようでだ。
その後も何度か魔力弾を放つが、どれも盾で止められてしまった。
しかも、遠距離戦がお望みならと応えるように、エクスマキナの方からも魔力弾が撃ち返してくるようになった。
「ああもう、魔力盾!」
俺も魔力盾を展開して、エクスマキナの魔力弾を防ぐ。
このままでは、撃って防いでが続く千日手。
俺の方は様子見だからそれでもいいけど、エクスマキナの方は戦いに変化をつけに来た。
エクスマキナは魔力弾を撃つことを止めると、盾を構えてこちらに突進してきた。
「チッ。意外に足が速い!」
俺は距離を保とうとするが、エクスマキナの方の速力が上だ。
このままだと追いつかれるだけだと判断して、俺の方からも接近することにした。
お互いに接近し、エクスマキナの大剣の間合いに入った。
その瞬間、エクスマキナは赤熱化している剣で突きを放ってきた。
走る速度を乗せた高速の一撃。
だが俺は、その大剣の動きにだけ注視していたことで、どうにか紙一重で避けることに成功した。
しかし余りに紙一重だったので、革のジャケットの左腕の二の腕部分を焦がすことになってしまったけどな。
「ひとまず!」
俺は魔槌を振るい、エクスマキナの脛へと攻撃した。
しかし手に伝わってきたのは、まるで分厚い鋼鉄を叩いたかのような、打撃を硬質的に撥ね返してくる感触だった。
先ほど魔力弾が命中してへこんだことを考えると、明らかに道理に合わない硬さをしている。
「予想通り、物理攻撃に耐性がある鎧ってわけね!」
俺は一撃を与えた直後に、すぐに場所を離脱する。エクスマキナが俺に目掛けて、剣を振り直しているのが見えたからだ。
俺は離脱した勢いを残したまま、部屋の中にある白い渦まで跳び退いていった。
「今日は様子見だから、ここまでにしておくよ。じゃあな」
俺は魔槌を次元収納に入れると、すぐに白い渦の中へと飛び込んだ。
直後、俺の姿は東京ダンジョンの外に現れていた。
はてさて、今回戦ってみて掴んだデウスマキナの特徴は、物理攻撃に高い耐性を持つ鎧がある、基礎魔法を使ってくる、魔法攻撃は有効そうの三つ。
ということは、俺がデウスマキナに勝つためには、基礎魔法を主軸にした戦い方をする必要があるわけだ。
しかし相手は、同じ基礎魔法使い。
優位を取れるとまでは行かなさそうな気がする。
「ふむっ。他の手も考えるべきか」
俺はどう戦ったものかと考えながら、今日はもうダンジョン探索を切り上げることにしたのだった。




