二百五話 金獅子狩り
第十三階層深層域にて、俺は金獅子狩りを実行すると決意した。
まずは金獅子のレアドロップ品を手にするために狩り続け、もしそれが獅子の革だったら、岩珍工房で制作する防具のために数を揃えるための乱獲をする所存だ。
レアドロップ品を狙うのなら、モンスターが数多く一度に現れる場所の方が、レアドロップ品の出現率がいい。
俺はズンズンと深層域の奥へと進んでいくことにした。
やる気に満ちている俺の前では、十三階層深層域のモンスターといえど、一匹二匹じゃ相手にならない。
けれど、四匹一組で少し進行速度が鈍り、五匹一組で辛勝が増え始め、六匹一組になって苦戦し始める。
やっぱりやる気だけで、数の多さに対抗することは難しかった。
「でも、六匹一組の場所で戦えているんだ。この場所で戦わない理由はないな」
俺は楽観的に構えることにして、六匹一組のモンスターを倒しまくることにした。
何時もモンスターと戦う際は、自分の戦闘技術を上げるために、極力スキルを制限していることも多い。例えばアンデット系との戦いなら、治癒方術を食らわせれば楽勝だけど、自分の身に危険が及んだり面倒な相手じゃない限りは、ちゃんと戦って倒してきた。
だが今回の目的は金獅子の乱獲なので、その自主制限を取っ払って、使える技術は全て使っていく。
通路の先に六匹の敵が見えた。
その瞬間に、俺は手指から魔力弾を放つ準備を整えていた。
「魔力弾」
発射された五発の魔力弾は、遠くにいるモンスターたちに命中した。
直後、バラバラと何かがまき散らされる音――魔力弾を食らった棘付きの蔓人が、反射的に周囲にマキビシをまき散らした音だ。
続けて、ドタドタと他のモンスターが暴れる音。恐らく、まき散らされてマキビシに当たってリ踏んだりした、金獅子かオーガ兵士が出している音だろう。
俺は敵が混乱している間に、右手で魔槌を空振りさせて爆発力を起動させる準備をしながら、左手では魔力弾を数多く打ち込んでいく。
「魔力弾、魔力弾、魔力弾」
魔力弾が着弾する度、バラバラとマキビシが撒かれる音がする。
でもモンスターたちも馬鹿ではない。
棘付き蔓人の近くにいてはマキビシを食らうと学習し、蔓人たちを撒かれたマキビシの群れの中央に残して、金獅子とオーガ兵士だけが俺へと走り寄ってくる。
内訳はオーガ兵士三匹に金獅子一匹。
金獅子の数が少ないことを残念に思いながら、俺は左手の平を少し先の床へと向ける。
「魔力球」
掌から打ち出されたバレーボール大の魔力の球は、地面にある罠のスイッチに当たって機構を作動させる。
果たしてどんな罠が作動するのかと見ていると、天井が開いて、上から大小の石が通路へと落ちてきた。
運の悪いことに、石が降ってくるのと同時に、先頭を走っていたオーガ兵士が石の落下場所に入り込んだ。
結果、オーガ兵士は頭を石に殴られて、地面に倒れた。そして倒れて晒された背中に、次から次へと石が降ってくる。
あれは痛そうだなと見ている間に、他三匹のモンスターが、振る石を迂回して俺に近づいてくる。
「それはそれは、ご苦労様!」
俺は、魔槌を握り直す。規定の空振りを終えて、二個のジェットバーナーから火を噴きヘッドに爆発力が顕現している、その魔槌を。
早くモンスターを倒させろと意思表示しているかのように、魔槌はジェットバーナーの推力で前へ進もうとする。
俺はその力を抑え込み、そして金獅子に向かうよう誘導して振るった。
魔槌は、自身の推力と俺の腕力とによって、素早く金獅子の側頭部に命中。直後、大爆発を起こした。
金獅子は頭の大半を爆発で吹っ飛ばされ、絶命。すぐに薄黒い煙に変わって消えた。残念なことに、通常ドロップの鬣のファーだ。
俺は、そのファーに近寄ると、足元に次元収納の白い渦を出現させることでファーを回収。そして後続のオーガ兵士二匹と向き直る。
魔力盾で片方の動きを阻害しつつ、もう片方を魔槌の素早く潰す。そちらを倒しえたら、もう片方も魔槌のヘッドで撲殺だ。
その二匹の処理を終えたら、降られた石の間から立ち上がろうとしている、最後のオーガ兵士の側頭部を魔槌で破壊して仕留めた。
こうして残ったのは、腕を伸ばしての攻撃かマキビシを撒くぐらいしか能のない、蔓人が二匹。
俺は下向きに左手を向けると、今度は下半身が隠れるくらいの大きさで遅い魔力球を発射した。
「魔力球」
魔力球は地面を擦りながら前へと進んでいき、進路上にあるマキビシを押し退けて突き進む。
その魔力球が通った道は、マキビシが一切ない場所になる。
俺はその通路を進み、蔓人へと近づいていく。
蔓人二匹は腕を伸ばして振るい、魔力球を破壊することで、俺の接近を阻止しようとする。
しかし魔力球は何度でも撃てる。
消される度に魔力球を発射していけば、やがては蔓人の近くに辿り着ける。
近づいてしまえば、後はこっちのもの。
思いっきり踏み込みながら渾身の力で魔槌で殴りつければ、一匹につき一度で倒すことが出来るんだから。
自重を止めて素早く倒すことに終始してみたが、もっと素早く倒せるやり方はある気がしていた。
「まったく。俺の目的は金獅子だ。どうせなら六匹全部、金獅子で来てくれないかな」
勝手な望みを言いながら、俺は次のモンスターたちを探していく。
こんな調子で、六匹一組のモンスターを乱獲していって、二十組目ぐらいで金獅子がレアで金獅子の毛革の敷物をドロップすることが分かった。
俺が睨んだ通り、金獅子は毛革をレアで残すことが分かった。
これで心置きなく、金獅子狙いの乱獲を続けることができる。