二百一話 六匹一組の区域
六匹一組のモンスターと戦うようになって一番困ったのは、一手のミスの挽回が難しいことだった。
例えば、機械化グールの腹を殴りつけた際、致命傷を負わせることに失敗したときのこと。
手傷をわせた機械化グールは、今度は自分の番とばかりに、俺を攻め続けてきた。俺は必死に防御して打開を狙うが、そこに他のモンスターたちが参戦してきた。そうして俺は、しばらくの間、防御に徹するしかなくなった。
あのときは、窮地を打開すべく敵近くに入り込む努力をしたことで、モンスター同士に同士討ちをさせることに成功した。その同士討ちで止まった俺への攻撃の隙を突き、戦いの主導権を取り戻せたから、どうにかなったんだよな。
とまあ、この例は殊更に危なかったときのことだけど、こんな感じに一手のしくじりが後の戦いに響くことはよくあること。
しかし苦労に見合うだけの実入りは、ちゃんと用意されている。
それは、第十三階層浅層域の五匹一組の区域より、同じ階層の中層域の六匹一組の方が、明らかにレアドロップ品に出会う確率が高いこと。
体感だと、浅層域の方は十組から二十組で一つレアが、中層域の方だと五組から十組ぐらいで一つレアが出るという感じだ。
体感による最低数で比較しても、十組五十匹と五組三十匹とで、だいたい五割増しぐらいでレアドロップ品が出るという計算になる。ちなみに最大数同士なら倍違う計算だ。
五割増しは侮れない。
なにせ俺がドロップ率の変化に気付くぐらいに、戦闘をこなしていればポンポンとレアドロップ品と遭遇する感じで、むしろレアドロップ品の有難みが薄れそうな感じなんだよな。
ちなみにそれぞれのレアドロップ品は、重騎士スケルトンは赤黒い色をした骨の長槍、フレッシュゾンビからは指二本分ほどの細長い鏃が魔石になった矢。機械化グールは探索者向けの道具がランダムで出るためか、レアらしき特定のものは出ないようだ。
次元収納の判別と効果を表す機能を利用しての測定によると、赤黒い骨槍の名前は骨肉の槍で効果は使用者の体力と引き換えに貫通力を増すもの、魔石の矢の名前は属性矢で意識を込めて魔法を指定するとその属性が鏃に付与されるらしい。
骨肉の槍は、俺は槍を武器に使う気がないし、体力を吸う効果が怖いので、即座に次元収納の中へ。
属性矢の方は、試しに一本使ってみることにしてみた。
どんな魔法を使ってみようかと考えて、矢からの連想で雷魔法を指定してみることにした。
矢の軸を握り、意識を矢に集中しながら、稲光をイメージする。
魔槌のジェットバーナーが稼働するような感触がした直後、属性矢の鏃がバリバリと音を立てて稲光を発し始めた。
「うぉ!? 怖っわ!」
俺の手元で、バチバチと稲光が成り続けるのは、正直怖すぎる。
使う魔法を間違えたと、今度は使い慣れている治癒方術をイメージしてみる。
しかし属性矢は、相変わらずバチバチと音を立てるだけで、一向に治癒方術に切り替わらない。
「これはもしかして、一度指定したら取り消せないタイプなのか?」
俺は手の属性矢を次元収納へ仕舞い、新たな属性矢を取り出す。その際、雷の属性を灯した矢は、雷属性矢として別カウントになっていた。
俺は新たな属性矢を握ると、再び治癒方術をイメージした。
すると今度は、ちゃんと魔石の鏃に治癒方術らしい温かみのある淡い光が灯った。
これで、属性矢は一度属性を指定してしまうと、取り消せないことが分かった。
「更なる試しで!」
俺は治癒方術の光が灯る属性矢を足元に置くと、魔槌でその鏃を壊した。
鏃は魔石なので、壊せば壊したものを進化させる光が現れるはず。
しかし、この属性矢の鏃からは、光は一切出てこなかった。
「つまり、進化させる光を消費して、属性矢は魔法を発現しているという仮説が成り立つわけだ」
そうなると、属性矢の評価が難しくなる。
属性矢の鏃の大きさは、指二本分ほどの長さと厚みだ。魔石として見るなら、決して大きな部類じゃない。
魔石としては価値が乏しいので武器や防具の進化に使ってしまうよりも、属性矢として攻撃手段に使った方が絶対に得なはずだ。
でも俺はそれを承知で、魔槌を更に進化させたいし、弓矢を使う気はないからと、これから手に入った属性矢の鏃は全て魔槌の強化に消費することに決めた。
「それにしても、底意地が悪いよな。 フレッシュゾンビの通常ドロップの弩には、普通の矢に番えるような軸の長さがある属性矢は使えない。だから属性矢を使おうと思ったら、浅層域の弓マネキンから滑車付き複合弓を入手する必要があるなんて」
弓マネキンの複合弓と、フレッシュゾンビの属性矢。
これ二つでセットにしたら、かなり売れるんじゃなかろうか。属性矢の方は十本セットにすれば、挙って買い手がつきそうな気がする。
「いやいや、金策なんてしなくて良いんだって。いま俺の口座に、どれだけの金があると思ってんだ」
生活用の口座に二億円ぐらい入っているし、長期保有目的の株や投資信託数社に預けたものを含めると百億円を越えている。
弓と矢のセット販売なんて、する意味がない。
「金の事は忘れて、探索に集中するんだ、俺」
この六匹一組でモンスターが出る区域は、慣れてきても気が抜けない場所なんだぞと、自分に喝を入れる。
そうして気持ちを引き締め直したとろで、ハタと思いついた。
こうしてレアドロップ品の頻度が上がっているということは、もしかすると宝箱の中身も更新されているかもしれない。
これは期待できるかもしれないと、俺は浮足立ちそうになる気持ちを押さえつけて、未探索通路の解明作業に入っていくことにした。




