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二十話 前進

 東京駅のトイレ内で、ツナギの上に新作ツナギ防具を着る。

 アパート内でも試したけど、ワンサイズ大きいツナギを防具化したため、服の上から着ても動きに問題ないな。

 俺はタオルバンダナっぽい見た目の鉢金をつけ、防具を入れていたリュックを背負い、個室の外にでる。

 するとトイレ内で出くわした、恐らくは探索者であろう、剣道着姿の青年にギョッとした目で見られた。

 俺はダサい格好の気恥ずかしさから赤面しかけるが、イキリ探索者は狼狽えないと気持ちを固めて、この格好こそが最上なのだと表明するような堂々とした態度を取る。

 トイレ、駅構内、改札口、そして旧皇居外苑への道中で、ジロジロと他の探索者たちからの視線がくる。

 俺は堂々とした態度を続けながら、こちらを見てくる探索者たちの格好を伺う。

 俺をマジマジと見てくるが、お前らの格好も大概だぞ。剣道着と陣笠だったり、全身が日本甲冑だったり、虚無僧笠に格闘道着だったり、普通の場所ならコスプレでしかないからな。

 これだけ注目されているのなら、役所の中に行く必要はないな。これだけの人に見れれていたら噂が立つだろうからで、役所の中でまで注目されることを嫌がったわけじゃないからな。

 俺は心の中では荒れつつも、表の態度は自信満々に装って、東京ダンジョンの待機列に並び、そしてダンジョンの中へと入った。



 目標としていた新スキル、治癒方術を入手したので、今日からは本格的に迷宮の奥へと進むことに決めている。

 東京ダンジョンは政府が攻略を推奨していることもあり、インターネット上でダンジョンの先へ進むための道順が一般公開されている。

 事前に調べていたそれに従い、ダンジョンの通路を進んでいく。

 俺と同じで、ダンジョンの奥へと行こうとする探索者は多い。

 必然、多くの探索者が作る流れに従っていけば、自ずと奥へと進める。

 俺の先に居る探索者グループがイボガエルやドグウを数匹倒したところで、新たなモンスターが出現した。

 骨格標本のガイコツがそのまま動いているような、スケルトンというモンスターが一匹現れていた。

 そのスケルトンを、日本甲冑姿の探索者が日本刀で切りつけて、即座に倒す。薄黒い煙と共に消えたスケルトンの代わりに、スケルトンの大腿骨っぽいものが地面に落ちた。

 ドロップ品の骨は必用ないのか、その探索者のグループは無視して先に行ってしまう。

 拾わないのならと、俺が拾った。そしてイキリ探索者っぽい下種な笑みを浮かべつつ、儲けたと呟いてから次元収納へ。

 後続の探索者から白い目を向けられている気配があるが、他の探索者から忌避されるのは願ったり叶ったりなので、当然弁明せずに放置する。

 そして次に現れた分かれ道で、俺は探索者たちの流れから離脱することにした。

 このまま流れについていって、さらに奥まで行くのでも良かったが、新しいモンスターと戦ってみて、自分一人で戦えるかの確認は必用だ。



 俺は一人だけで通路を進みつつ、次元収納からメイスを取り出す。背中のリュックは逆に、次元収納の中へ。

 そうして戦う準備が整ったところで、通路の先にモンスターの影を見つけた。


「あれは、バッタか?」


 そのモンスターの名前は、トツゲキバッタ。名前の通りに、見た目は緑色のバッタだ。

 普通のバッタと違うのは、その大きさ。

 バッタなのに、小型犬ぐらいの大きさをしていた。

 その大きな虫という見た目は、虫嫌いな人なら悲鳴を上げて逃げるぐらいの迫力がある。

 俺がそんな観察をしていると、バッタの体勢がグッと沈みこんだ。

 跳びかかってくる前準備だと察知した次の瞬間には、こちらに跳んで突っ込んできた。

 その速度は砲弾並み――は言い過ぎだから、渾身の力で投げたドッジボールの速さがあった。

 俺は慌ててメイスの長い柄で受けたが、トツゲキバッタの体当たりの衝撃に面食らう。


「重ッ! 中身が詰まったゴム球かよ!」


 体当たりを防がれたトツゲキバッタは、一度二度と後ろへ跳んで距離を取ると、再びグッと大勢を低くする。

 しかし直線的に跳びかかってくると分かっているのなら、対処の仕方はある。

 俺はトツゲキバッタが跳び出した直後に、メイスのヘッドをその跳んでくる軌道上に配置した。

 トツゲキバッタは空中を跳び、そして当たり前のようにメイスに激突して、その顔面を拉げる運命を辿る。

 顔が潰れて地面で横倒れになったトツゲキバッタに、俺はメイスを振り下ろして止めを指した。

 薄黒い煙と共に消えたトツゲキバッタの跡には、団扇ほどの大きさの透明な昆虫の羽根が落ちていた。


「これ、買い取って貰えるのか?」


 力を込めて掴むと割れてしまいそうな薄い羽根を、とりあえず次元収納の中へと入れた。

 しかしこの一戦で、トツゲキバッタの倒し方が分かった。

 一番楽なのは、盾を装備して、トツゲキバッタの突撃に合わせてシールドバッシュを叩き込むことだろうな。

 俺の場合は、メイスのヘッドを盾にするだけでなく、両腕にある手甲で叩いたりすれば、同じ効果が期待できるだろう。

 通路を先へと進むと、今度は先ほども見たスケルトンと出くわす。

 カタカタと骨が打ち合う音を響かせながら、スケルトンが近づいてきた。

 スケルトンの歩みはゆっくりで、手に武器もなく、あまり脅威には感じない。

 しかし、スケルトンの手が届く範囲内に俺が入った瞬間、スケルトンの骨の手がもの凄い速さで翻った。

 俺は急いで退避し、攻撃を避けることに成功する。


「普通の動きは遅いけど、攻撃するときだけは動きが素早くなるタイプか」


 こういう手合いは、相手の間合いに入らないようにすればいい。

 俺はメイスの柄の端を両手で掴むと、思いっきり横振りして、ヘッド部分をスケルトンに命中させた。

 先ほど日本刀の一撃で倒されていたのを見た通りに、防御力はあまりないようで、この一撃で上半身の骨格がバラバラになって吹っ飛んだ。

 スケルトンの残りの骨は、操り糸を失った人形のように、その場にぐしゃっと崩れ、やがて薄黒い煙となって消えた。跡に出てきたのは、先ほどと同じ、大腿骨っぽい見た目の骨。

 俺はその骨を拾い、大腿骨の球関節が先になるよう、膝関節部分を手に持つ。


「大昔の人間は、動物の大腿骨を棍棒にしていたって話だったな」


 試しに骨をぶんぶんと振ってみると、片手持ちの鈍器として使えそうな感触があった。

 十分に骨を振る感触を確かめてから、次元収納へ仕舞おうとして、ゴロゴロという音が聞こえてきた。

 音は通路の先の方からしている。

 目を凝らして先を見てみると、ボーリング玉の大きさの岩が転がって来ていた。


「あれもモンスターだったな」


 確か、ローリングストーンっていう、転がりながら探索者の脛を狙って体当たりしてくる厭らしいモンスターだ。

 こちらへと転がってくるローリングストーンに対し、俺は左脚を前に出しつつ半身に構える。

 そして俺の左の足元へと突撃してきたローリングストーンを、当たる直前で左脚を持ち上げると靴裏で踏んで止める。

 ローリングストーンは諦め悪く、ぎゅるぎゅると靴の下で回転する。

 しかし俺が踏み付けを強くすると、回転が弱まり、やがて止まった。

 そうして動かなくなったローリングストーンへと、メイスをゴルフスイングする。

 メイスの一撃で真っ二つになり、ローリングストーンは薄黒い煙に変わって消えた。跡に現れたのは、手の内に納まるぐらいの黒色の石。


「ローリングストーンが落とすのは、鉄鉱石だったな」


 拾ってもってみると、なかなかに重量がある石だ。


「虫の羽根、大腿骨、鉄鉱石が通常ドロップだから、ここは探索者たちから人気がないんだったっけ」


 虫の羽根は薄くて壊れやすくて持ち運びに不便。大腿骨は欲しがる先がないために無価値。鉄鉱石も普通のものと大差ないため低価値。

 つまるところ、総じて価値がないドロップ品ばかり。

 戦って得る報酬がほぼ無価値なら、探索者たちの戦う意欲が上がるはずもない。

 

「逆にレアドロップは良い感じなんだっけ」


 それぞれのレアドロップは、トツゲキバッタの足肉、ローリングストーンの小宝石、スケルトンの骨棍棒。

 足肉はカニと鶏を合わせたような味がして美味しいらしく、美食家に高値で売れる。

 小宝石は、モンスターからのみ入手できる種類の宝石らしく、ローリングストーンのレアドロップはとても小さな宝石なのにも関わらず、宝石商が高値で求めている。

 スケルトンの骨棍棒は、一メートル半の白く真っ直ぐな骨の棒で、木製のように軽いにも関わらず鉄並みの強度があるため、探索者用の薙刀や槍の柄に加工できるため需要が高い。


「つまり通常ドロップは無価値だけど、レアドロップは高額取引対象品ってわけだ」


 そのレアドロップ狙いの探索者もいるという触れ込みだったが、いま俺がいる近くに他の探索者はいない。

 

「こっちの通路でも、三匹一緒に現れる場所の方が、レアドロップが出やすいのかもな」


 そっちに行ってみようかという誘惑はあるが、レアドロップを狙って金稼ぎする意味は、俺にはない。

 そのため俺は来た道を引き返して、探索者が作る次の層への流れに再び乗ることにした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 必要と必用って使い方に違いがあるんだよ 広い意味では大抵『必要』でいいから 場合にはよっては誤用になる必用は使わない方が良いですよ 単語登録し直した方がいい ここ迄で結構誤用がある
[良い点] イキリなら見栄えばっかり重視しそうだけど、設定的に見てくれだけの装備とかなさそうだし 甲冑+刀は人権ユニ◎ロ装備になってるからコッチの方がそれっぽいか。
[一言] 日本刀よりもメイスの方が倒しやすそうな敵多めかな?
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