百九十八話 重騎士スケルトン
機械化グールをもう一匹倒し、鉤付きロープをドロップ品として得てから、その次に出会ったモンスター。
それは、鎧を被った骨の馬と、その上に立派な鎧を着て槍を持ったスケルトンがいる。
第九階層に出たリビングナイトを思い起こすその見た目だけど、付けられた名前は重騎士スケルトンだ。
戦い方も見た目通りに、重装馬による突進を主体にしているんだろうな。
警戒する俺に対し、重騎士スケルトンは兜の面覆いを骨の手で下げると、その手で手綱を操って鎧を着た骨馬の鼻づらをこちらに向けてきた。
「早速かよ!」
毒づく俺に反応したかのように、骨馬は両前足を空中に浮かせてバタつかせた後、猛然とこちらに突進してきた。
その迫力に、魔槌だけで対処する気が早々にして失せた。
「基礎魔法、魔力球!」
俺の胸から上を覆うぐらいの大きさがある魔力の球を発射し、重騎士スケルトンが突進する妨害を狙う。
それと同時に、俺自身は通路の壁沿いへと走って移動していく。
重騎士スケルトンは、俺が放った魔力球を無視するかのように突進を続け、そして魔力球を骨馬の装甲が跳ね除けてしまう。
まさか少しの足止めもならないなんてと思いながら、次の手を打つ。
「魔力盾!」
俺が掲げた手の先で、魔力の盾が出現する。
その魔力盾に、重騎士スケルトンが接近して槍を繰り出してきた。
骨馬の走る勢いと槍を突き入れる威力が合わさり、魔力盾は薄紙で出来ていたんじゃないかと思えるほど、あっさりと破壊されてしまった。
しかし、俺が逃げ切る一瞬の時間を稼ぐ貢献はしてくれて、俺は無傷で重騎士スケルトンの初撃を回避することに成功した。
重騎士スケルトンは、通り過ぎた先で骨馬を反転させ、再び俺の方へと鼻づらを向けさせる。
だが今度は、直ぐに走っては来なかった。
それもそうだろう。俺の立っている場所は、ダンジョンの通路の壁際だ。
もし俺に突進攻撃をしようとするのなら、重騎士スケルトンも壁際を走ってくるしかない。
しかし壁際を走りながら少しでも骨馬の操作を誤れば、骨馬が被っている装甲や重騎士スケルトンの鎧や槍が壁に当たり、ひいては高速道路の分離帯に接触してしまった大型バイク乗りのような大事故に発展することだろう。
「さあ、どうする?」
これで重騎士スケルトンの取れる行動は二通り。
一つは、突進はせずにゆっくりと骨馬を歩かせて接近してから、槍で攻撃する。
もう一つは、危険を承知で壁際を走って突撃してくる。
果たして重騎士スケルトンが選んだのは、壁際を走っての突進だった。
「アンデッド系モンスターだから、命知らずな選択をしたってか?」
俺は、その選択を鼻で笑って、次の手を放つことにした。
「魔力球!」
俺は手から魔力の球を放ち、重騎士スケルトンへと向かわせる。
しかし先ほどの攻防のときとは違い、魔力球を直撃させるのが狙いじゃない。
俺が放った魔力球が描く軌道は、突進してくる重騎士スケルトンが接しそうになっているダンジョンの壁とは反対側にある、その横を通過するもの。
この魔力球に意識を取られ、骨馬が走る向きを損ねたり、重騎士スケルトンが手綱を操り間違えれば、あえなくダンジョンの壁に接触しての大惨事に発展だ。
もしそうならなくても、確実に俺に向かって真っ直ぐに突っ込んでくるよう、走る軌道の位置を狭めることができる。
そして重騎士スケルトンは、手綱を操り間違えることなく壁際を走り続け、俺へと着実に迫ってきた。保持している槍の穂先は、確実に俺の胸元に照準を合わせている。
「でも、俺を狙えるかな?」
俺は魔槌を胸元に抱えると、壁と床とが直角を作る通路の角っこに身を潜ませるようにして屈んだ。
重騎士スケルトンは、狙う位置が低くなったが、俺に槍を突き刺そうと動く。骨馬も、俺を踏みつけるために、足の動きを変える。
だが俺が抱え込んでいる魔槌のヘッドが、その両方の目論見を阻害していた。
重騎士スケルトンが槍を吐き込むには槍のヘッドが邪魔だし、骨馬が踏み付ける際の障害物にもなっている。
攻撃しても意味が薄いと知ってか、重騎士スケルトンの攻撃の動きが止まり、骨馬の走る軌道も俺の横を通り過ぎるものに変わる。
俺が狙った通りの行動を見て、俺は次の手に入った。
俺は抱えていた魔槌を手放すと、骨馬の足元へと放り込んだ。
魔槌の長い柄が骨馬の足に当たり、乱反射するように暴れ回った。
暴れる魔槌に足を取られ、骨馬は大きく体勢を崩して前倒しになる。その背中に重騎士スケルトンを乗せたまま。
倒れた骨馬に巻き込まれ、重騎士スケルトンもダンジョンの床に叩きつけれた。
この事故の衝撃は、立派な鎧を着ていて防げるようなものではないし、むしろ肉のない骨の身体だからこそダイレクトに骨身に伝わったはずだ。
その証拠に、骨馬は胸骨が砕けて前脚が動かせないようで、後ろ脚だけで銅以下立とうとしている。重騎士スケルトンも、左肩を繋ぐパーツが砕けたようで、左肩から先が床に落ちていた。
「速度を活かして攻撃してくる相手は、やっぱり事故を起こさせるに限る」
今回は戦っている場所の近くに罠がなかったので、こんな危険な真似をしなければならなかった。
だが落とし穴や天井からの落石などの罠を利用すれば、今回のような事故を重騎士スケルトンと骨馬に与えることは簡単そうだ。
正攻法とは言えない戦い方だけど、相手は重装の騎馬に乗った敵なのだから、どんな手を使っても勝てばよかろうなのだ。
「そういえば、さっき鉤付きのロープを入手していたっけ。あれを使えば、もっと楽に倒せたかもな」
骨馬の足にロープを絡みつけさせれば、魔槌を投げる代わりにできたのに。
ちょっと気付くのが遅れたことを反省しつつ、俺は床から魔槌を拾い上げて、半死半生――いやアンデッド系モンスターだから半壊れな重騎士スケルトンと骨馬に近寄る。
骨馬は立ち上がれないようなので、先に頭蓋骨を魔槌のヘッドで粉砕して薄黒い煙に変わえてやった。煙となって消えたが、骨馬は重騎士スケルトンの装備物扱いなんだろう、ドロップ品は出ない。
それならと、片手で槍を持つ重騎士スケルトンへ近づく。
重騎士スケルトンは諦め悪く、片手で槍を付き込んできた。
しかし馬上槍という重たい武器を片手で操ることは難しいようで、攻撃は精彩を欠いていた。
それこそ俺が魔槌で思いっきり槍を叩てみたところ、重騎士スケルトンの手から槍が落ちたぐらいに、保持して攻撃するので精一杯だったようだ。
「残念。次からは交通ルールを守って、人を轢かないようにしような」
俺は重騎士スケルトンに声をかけながら、魔槌で頭部を殴りつけた。重騎士スケルトンの兜がべっこりとへこみ、兜の隙間からバラバラと砕けた骨が転がり落ちた。
この一撃で致命傷を与えらえれたようで、重騎士スケルトンは薄黒い煙に変わって消え、ドロップ品を落とした。
それは馬に乗せる、鎧と鞍と鐙という重装一式だった。
「いや。これをドロップ品に出すのなら、重騎士スケルトンの方じゃなくて、骨馬の方を本体扱いにしろよ」
俺は文句を言いつつ、重装馬具一式を次元収納の中へと収めた。