十九話 防具完成
自分の体格より上のサイズのツナギに、イボガエルの革とドグウの手甲の装甲板を縫い付けるための準備ができた。
作る防具の参考デザインは、某銀河戦争アニメの装甲宇宙服。
先ずは、二の腕、上腕、太腿、脹脛の部分にイボガエルの革を縫い付ける。
身体の形に合うように、ツナギを着た状態で、イボガエルの革を待ち針で仮止めしてから、形を保てるよう気を付けながら電動ミシンで縫っていく。
一通り縫い上げて、待ち針を除去してから、改めて着てみて、各部の動きが阻害されていないかをチェックする。
付けたイボガエルの革分だけ服に重さがあるが、関節に革を縫い付けてないため、動き自体に支障はない。
腕と足の縫い付けは十分なので、今度は胴体部にイボガエルの革を縫う準備に入る。
脱ぎ着するとき楽なように、ツナギの真ん中を上下に走るファスナーを革で覆わないよう、ファスナーの横に沿って革を配置し待ち針で留めていく。
前面の仮置きが済んだら、今度は背面だ。
背面は全面とは逆に、急所となる背骨を守るよう、襟足から尻にかけての部分を覆うように、イボガエルの革を配置していく。
仮止めした革を電動ミシンで縫い終われば、チグハグに縫い合わされた緑色のパッチワークの見た目の防具が出来た。
「素人仕事丸出しな見た目だ。まあ、素人作りなんだから、当たり前だけど」
俺は出来栄えに肩を落としつつ、少ない数のドグウの手甲の装甲板をどこに貼り付けるかを考える。
「ドグウの手甲は三組。そこに掌ぐらいの小さい装甲板が片方三つずつで、三組の合計で十八枚。一枚は鉢金に使うとして、残りは十七枚」
十七という数は多い様に感じるが、装甲板の大きさは俺の掌より少し小さいほど。覆える場所には限りがある。
「両胸だけですら、保護するためには四枚使う。腹の上部まで覆う気なら、六枚必要だな」
現時点、前面の上半身の半分で六枚だ。
これで背面を尻まで覆うとなると十枚は必用。
これで合計が十六枚。
明らかに使い過ぎだ。
「背面は背骨だけ守るようにすれば、三枚で済ませられる。これで九枚。あと八枚使える」
前腕はドグウの手甲をつけるから、装甲板をつける候補から除外でいいな。
あと俺の武器はメイスだ。接近されると攻撃し辛いので、蹴りでモンスターを押し退けることが可能になれば、戦いが楽になりそうだ。
「蹴りを使うのなら、左右の脛と膝に一枚ずつ使うか」
これで四枚消費。残り四枚。
重点的につける部分は他にない感じだから、左右の肘に一枚ずつ、背中の左右の肩甲骨部分に一枚ずつにしよう。
装甲板をつける場所を決めたので、あとは超強力な接着剤で、ツナギに直接貼り付ける。
ツナギをハンガーにかけて、ラックに吊るし、アパートの窓を開けて接着剤が揮発する臭いを換気する。
接着剤が固まるのを待つ間、余ったイボガエルの革とドグウの手甲の装甲板一つを使い、鉢金を作る。
革を二枚使い、ミシンで端を縫い合わせ、額に巻ける長さにする。その革を額に巻き、眉から髪の生え際を覆うように装甲板を接着剤でくっ付ける。
そうして作った鉢金を額に巻いた姿を、洗面所で確認すると、タオルバンダナをつけた作業員のよう。
「……まあ、性能優先だから」
ツナギにイボガエルの革を縫い付けているときから、見た目は諦めている。
むしろ、この鉢金。付け心地を考えるのなら、革の裏地にタオル地を縫い付けた方がいいかもしれない。確実にダサくなるだろうが、もうどうにでもなれだ。
俺は一度窓を閉めると、アパートからチェーンの生活雑貨店へ移動し、吸水性と付け心地が良いという触れ込みのタオルを購入し、帰宅する。
部屋の中に接着剤の臭いが充満していたので、再び窓を開けてから、勝ってきたタオルと鉢金をミシンで縫い付け、余分なタオル地を裁ち鋏で除去した。
そんなこんなを経て、接着剤が乾燥してようやく、俺の手作り防具が完成した。
試しに、鉢金と装甲板と革を付けたツナギを装着。
鏡で確認したその姿は、素人が製作に失敗した、ニチアサ改造人間のコスプレのようだった。
「勘違いイキリ探索者を演じるなら、このダサい手作り防具を東京ダンジョンの役所で見せびらかすべきなんだろうけど……」
そのためには、少なくとも東京駅構内で、この格好になってから駅を出る必要がある。
こんな俺にでも多少はある、人から良く見られたいというプライドが、この格好で役所に行くことを拒否する。
「頑張れ、俺。これは必用なことなんだ。この格好を恥ずかしがってダンジョン内で着るような真似をすれば、今までのイキリ探索者の偽装が無駄になるんだぞ」
この格好を恥ずかしがるということは、まともな感性をしているということ。俺が考える勘違いイキリ探索者なら、そんな真っ当な感性を持っているはずがない。
むしろ、このダサい格好をカッコイイと勘違いして、嬉々として着るようなヤツでなければいけない。
俺は身を切られる思いを抱きながら、このダサい格好で役所に赴くことを決心したのだった。