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十八話 スキル成長&新スキル

 俺が探索者に成って二ヶ月が経過した。

 相変わらず、三勤一休で東京ダンジョンに通いつつ、浅い層のモンスターが三匹出る通路で戦う日々だ。

 これだけ戦い続けていると、探索者になった当初のような筋肉痛はなくなったうえ、モンスターとの戦闘という運動続きなこともあって肉体が引き締まってきた。

 洗面所の鏡に映っている自分の体は、会社員時代に比べて筋肉でガッシリしてきたが、身体の線は細くなったような感じがある。

 横向きで観察しても、少し出かかっていた腹がへっこんでいる。


「腹筋の線が出るのなんて、高校生以来じゃないか?」


 高校生のときに本格的な成長期が来て、どれだけ食べても腹が減る状態だった。そのため高校生時代は食べても脂肪が減る状況で、大した運動もしてないのに腹筋に割れ線が浮き出るぐらいだった。

 もっとも成長期が過ぎたあたりからは普通に脂肪がつくようになったので、腹筋の線もなくなったけど。

 そんな高校生時代と比べても、いまの俺の体は健康的に痩せているように見えた。


「ダンジョンに行っている日の食事は簡単に済ませているけど、休みの日は結構食べているんだけどな」


 格安アパートがある立地だからか、安くて腹いっぱいになれる飲食店が多く、俺はそんな店を愛用していた。

 以前にも行った、唐揚げお代わり自由な定食がある定食屋。サービスランチメニューがある、食べ放題の焼肉屋。野菜マシマシが可能なラーメン屋などなど。

 それらの店に昼に行き、腹がはち切れんばかりに食べて、帰宅して昼寝することが、休日の贅沢としている。

 つまり四日に一回は大食いをしているわけだが、こうして痩せてきているってことは、ダンジョンに行く三日間の消費カロリーの方が多いんだろうな。


「そんな俺の身体の品評は切り上げて、さっさと東京ダンジョンに行くべきだな」


 俺は何をやっているんだかと反省し、着替えの肌着とツナギを身に着けて腕に手甲を通すと、アパートを出て最寄り駅へと行くことにした。

 


 今日も今日とて、モンスター三匹を相手に、メイスを振り回す。

 メイスの振り方にも慣れたもので、力一杯にフルスイングしてもモンスターに命中させることが出来るようになっていた。


「どっ、こい、せッ!」


 掛け声でタイミングを合わせつつ、フルスイングでイボガエルを叩き潰す。そしてすぐに横へとフルスイングしてドグウを叩き割り、その回転の勢いを維持したまま俺自身の身体を一回転させるとコボルドの胴体へメイスのヘッドを叩き込んだ。


「革、粘土、球。通常ドロップだな」


 ドロップ品を次元収納に収め、さらにモンスターを探してうろつく。

 モンスターと出くわしたのなら、バシバシとモンスターをメイスでしばき、現れるドロップ品を次元収納へ。

 その行動を、繰り返し繰り返し行っていく。

 昼休憩の時間になったので、スーパーで買っていたものを次元収納から取り出して食べる。今回はトルティーヤのラップサンドだ。少しクセのある味だが、ピリ辛で美味しい。

 ペットボトルに入った水も次元収納から取り出して、水で喉を潤す。

 ラップサンドの包装紙とペットボトルを次元収納に入れ、さて活動再開と身体を動かそうとして、頭の中にアナウンスが流れた。


『次元収納の容量が上がった』


 このアナウンスに、俺は肩を落としてしまう。


「容量アップってことは、既存スキルのレベルアップか。今度は新スキルが入ると思ったんだけどなぁ……」


 少し気落ちしてしまうが、仕方がない。

 モンスターを倒して回る作業に戻るしかない。

 俺はモンスターをメイスでしばきながら、俺の腕に着けている手甲について考えていた。


「これを脱いで戦った方が、新スキルが生えるか?」


 多くのゲームにおいて、手の防具は鎧とは別枠である事が多い。そしてドグウの手甲は、金属製の防具ではない。

 だから魔法か治療のスキルを得るための障害にはならないと、俺は考えていた。

 だが、それは間違いなんじゃないだろうか。


「いや、待て。そうと決まったわけじゃない。そもそも新スキルが入手できていないんだ。手甲が問題じゃないかもしれない」


 もし手甲が魔法か治療のスキルを得る邪魔になっていたら、それはそれで別種の新スキルを入手出来ているはずだ。

 それにも関わらず新スキルを手にできていないという事は、また別の要因であることが考えられる。


「とりあえず、新スキルを手に入れるまでは、手甲はつけたままにしておこう」


 モンスターとの戦いでは、不意な攻撃を受ける状況が現れる。

 そんなとき手甲の有る無しで、怪我を受ける受けないが決まってくる。

 メイスで一撃で倒せるとはいえ、身の安全を考えるのなら、手甲ぐらいは装備していないと少し怖い。

 俺は疑問にザワつく気分を落ち着かせ、モンスターを倒して回る作業に戻った。

 余計なことを考えないようにモンスターを倒し、ドロップ品を次元収納へ。

 そんな行動を続けていき、出くわした三匹のモンスターのうちの一匹目をメイスで叩き潰した瞬間、頭の中にアナウンスが流れた。


『治癒方術を入手した』


 予想外のアナウンスに、俺は一瞬だけ戦いから思考が逸れてしまう。

 しかし次の瞬間には我を取り戻し、慌ててコボルドが振るったナイフを手甲で弾き、お返しにメイスで吹っ飛ばして倒す。

 残りのもう一匹もメイスで素早く倒すと、一息ついた。

 これで、さっきのアナウンスを冷静に考えることができる。


「治癒方術って言ってたよな。いや、さっき次元収納のレベルがアップしたばかりだっだが?」


 もしかして、スキルの成長と新スキルの入手は、別の裁定がされているのだろうか。

 俺は疑問に思いつつ、とりあえず新スキルである治癒方術を浸かってみようと、自分の胸に手を当てながらスキル名を言ってみることにした。


「治癒方術」


 俺の声に反応して、治癒方術のスキルが起動した感触がした。

 しかし何か現象が発動したわけじゃない。

 その理由もまた、治癒方術スキルが俺に教えてくれる。


「いま俺が使える治癒方術は、疲れを取るリフレッシュと、傷を治すヒールの二種類。それを選ばないと、治癒方術が発動しないわけか」


 俺がどちらを使おうか悩んでいると、治癒方術の起動が終わった感触がした。

 どうやら一定時間選ばずにおくと、自動的に使用が解除されるらしい。

 それならと、俺は怪我していないので、リフレッシュを使うことに決めた。


「治癒方術――リフレッシュ」


 自分にリフレッシュを使うと、身体がパッと光ったとおもった次の瞬間には、モンスターとの戦いで消費していた体力が戻ったような感触がした。同時に疲れからくる眠気も吹っ飛んでいる。

 だけど、メイスを振り続けたことで得てしまう筋肉の疲労感や、治癒方術を使った瞬間に失った感触がでたナニカは回復していない。


「本当に疲れを取るだけなのか」


 正直、微妙な効果だと感じる。

 しかし冷静に考えると、何日もダンジョンに潜るような前線の探索者だと、かなり有用な方術となる。


「疲れがなくなるのなら、戦闘後や移動中の休憩なんて要らなくなる。これは良いスキルだ」


 そして傷を治すヒールは、試すまでもなく、ゲームではド定番かつ必須の回復手段。

 戦闘能力の継続から致命傷の救命まで幅広くカバーできる、有能な力だ。


「問題は、どれぐらいの怪我を治せるかだよな」


 最初期に手に入るスキルが弱いことは、ゲームでは当たり前のこと。

 重傷だと、治せなかったり、何度も怪我を治す必用があったりする。

 ヒールで怪我を治す使用感を試してみるべきだとは思うが、不幸なことに怪我をしている人間はいない。


「うーん。モンスターにも、治癒方術は効くんだろうか?」


 モンスターにも適応されるのなら、倒さない程度に怪我をさせて、それを治癒方術で治すことで、回復する程度を測れるんだけど。

 ものは試しだ。

 人間と同じ二足歩行するナマモノということで、コボルドを探そう。

 幾つかモンスターを倒して、ようやくコボルドが出てきた。しかも幸運なことに、三匹ともコボルドだ。


「被検体が三匹。やるぞ、俺」


 まずはコボルドたちの片足を、メイスで粉砕する。

 折れた足では立てずに地面に転がるコボルドたち。

 俺はその中の一匹に、片手を向ける。


「治癒方術――ヒール」


 そう告げたものの、治癒方術が発動した感触はない。

 モンスターには適応されないのか? いや、もしかしたら使用する際ためには距離が遠いのかもしれない。

 俺は一歩ずつ近づきながら、ヒールの宣言を連発していく。


「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール――おっ」


 コボルドから三メートルほどの距離まで近づいたところで、治癒方術が発動した感触があった。

 コボルドの一体の怪我―ー折れた足のところに白い光が集まり、そして消えた。

 ちゃんと治癒方術が効いたのか見守っていると、ヒールをかけたコボルドが立ち上がる。

 これはちゃんと回復したかと思ったが、コボルドの歩き方が変だ。

 折って治療した方の足に体重をかけたくなさそうな動きから察するに、完全に折れた状態から、ヒビが入った状態の骨折にまでしか治っていない感じだ。


「なるほど。完全な骨折ぐらいに重傷だと、一度じゃ治せないわけか」


 俺は治験を得ると、傷を治したコボルドをメイスで叩いて倒してしまう。薄暗い煙と化した後、幸運なことにコボルドナイフを落とした。


「ちょっと残酷だけど、このナイフで切り傷や刺し傷を作って、どの程度治るか見てみるか」


 無意味に生き物を傷つける忌避感はあるが、この後の俺の安全のためにはしょうがないと割り切って、ナイフでコボルドを傷つけ、ヒールをかけてみる。

 それで判明したことは、一度のヒールで薄い切り傷なら十ヶ所ほどを一度に、深い切り傷なら三ヶ所ほど、ナイフの柄までの刺し傷だと一ヶ所が治せるということ。

 そしてヒールの効果は、軽傷よりも重傷の方に重点的に作用する事も分かった。

 もしかしたら直接手を当てれば、手を当てた場所の怪我を優先的に治す可能性はあるが、再びコボルドをナイフで刺してまで確認する意味は薄いだろう。

 俺は実験に協力してくれたコボルドたちをメイスで潰して卑金球に変えた後、冥福を祈るために念仏を上げる。


「――さて、これで回復手段が手に入った。チャートを一気に前に進められるぞ」


 そして治癒方術のスキルを得る条件の中に、手甲ぐらいの防具を身に着けるのことは問題ないことも判明した。

 ということは、イボガエルの革と、分解したドグウの手甲から得る装甲板で、装甲服のような物を作っても問題ない可能性が高まった。

 次元収納の中を確認すると、イボガエル革は十二分に量があり、ドグウの手甲も三組ある。

 装甲をつける部分は限られてしまうが、十分に装甲服を作ることが出来そうだ。


「帰り際に東京ダンジョン近くのホームセンターで、電動ミシンと糸とツナギを買って、明日は一日装甲服作りをするか」


 そうと決まれば、動き出すのは早い方がいい。

 俺は今日の東京ダンジョン探索を切り上げて、ダンジョンの出入口へと帰ることにしたのだった。


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