百七十六話 探索終わりと魔槌進化
十一階層の深層域の未探索通路を全て調べ終えた。
見つけた宝箱の数は、隠し部屋にあった分を含めて、十個。
中身は、武器や宝飾品とかの換金するしかないものから、大きな魔石もあった。珍しいものだと、革張りの本が一冊あった。
本の中身は、見たこともない文字と、植物とその使い方がイラストがあった。
都市伝説界隈で有名なヴォイニッチ手稿を思わせる内容だけど、ぱっと見では薬草の調合レシピじゃないかという直感がある。
貴重そうな本なので手元に残しておこうかとも考えたけれど、本に描かれた薬草をダンジョン内で見たことがないことに気付いた。
「異世界の普遍的な草を使うレシピだとしたら、持っていても仕方がないよな」
もしかしたら、これから先のダンジョンの階層では、いまの石の通路型ではなく、草木が茂るフィールド型になるかもしれない。異世界ダンジョンもののラノベのように。
そのときがもしきたら、この本は有用になるだろう。
「けど、なーんか見る限り、薬効が低そうな調合法ばっかりなんだよなぁ」
本の末尾付近を開いて描かれている絵を見るが、そこにある絵はダンジョンで手に入る怪我治しポーションに似たもの。
作り方も、草を刻んで、鍋で似て、何かしらの儀式をしてから、付近で中身を越した液体を瓶詰めする、というありきたりなもの。
こんな簡単な作り方じゃ、俺が欲しがっている不老長寿の秘薬のレシピが書かれている可能性は低いよな。
「惜しいけど、売り払ってしまうか」
俺は次元収納からリアカーを出し、荷台に今日集めたモンスターのドロップ品と宝箱から回収した品物を入れていく。
その後で、今日半壊ロボットからドロップした魔石と、宝箱から出た大型の魔石とを地面に置く。
「さて、もうそろそろ進化してくれないかな、っと!」
魔槌で、床に並べた魔石を一つずつ壊していく。
壊れた魔石から溢れた光が、魔槌へと吸収される。
最後に大型の魔石を叩き割り、目を刺すほどの光量が魔槌に吸い込まれていき、そして魔槌に変化が訪れた。
魔槌全体が光る、進化の輝きだ。
俺は手で目を覆い、進化の光を直視しないようにしながら、進化が終わるのを待った。
一分ほど経った後で、輝きが収まったのを確認してから、俺は目を覆っていた手を外す。
そして進化を終えた魔槌はというと、ぱっと見では余り変化がなかった。
「うーん?」
違いを確認していて、ようやくヘッドの片側にあるバーナーが、一つから上下二本に変わっていることに気付いた。
しかし前との違いは、そのぐらいしか見取れなかった。
「爆発の威力が上がったとかか?」
俺は進化した魔槌に意識を込める。
以前の魔槌なら、ここから空振り二十回すると、バーナーに火が入った。
しかし今の魔槌は、俺が意識を込めた瞬間に、バーナーから火が噴出した。
「おおッ!? 空振りする必要がなくなったってことか!?」
俺は驚きながら、魔槌でダンジョンの壁を殴りつけた。
しかし魔槌のヘッドから爆発は起きず、自分で叩くよりも強い打撃を与えるだけに留まった。
「ん? どういうことだ?」
俺は疑問を持ちながら、もう一度、魔槌に意識を込めてみた。
すると再びバーナーに火が入った――ここで俺は、魔槌の上下二連のバーナーのうち、上の一つにしか火が入っていないことに気付いた。
「もしかして」
上のバーナーが火を噴いている状態で、俺は魔槌を空振りする。
一回、二回と続け、九回、十回と空振ったところで、下のバーナーから火が噴き出た。
二つのバーナーから火が出たことで魔槌の推進力は、以前のときの倍の勢いになった。
この状態の魔槌で壁に殴りつけてみたら、今度はちゃんと爆発した。
「なるほど。通常のハンマー攻撃、第一バーナーによる加速打撃、第二バーナー点火での爆発攻撃と、段階を踏めるようになったわけか。あと何気に、爆発させるのに必要な空振り回数も、二十回から十回に減っているな」
続いて俺は、進化した魔槌の最大攻撃出力を探ってみることにした。
十回空振りして第二バーナーが点火した後で、さらに空振りを続ける。
一つ空振りする度に、第一第二のバーナーの火の威力が増し、魔槌を操るのが難しくなる。
空振り十回追加した頃になると、俺は魔槌の柄を両手で握って、ハンマー投げの要領で振り回すことで、どうにか空振りさせられることができるようになる。
更に十回――第一バーナー点火から合計三十回空振りした頃になると、魔槌は俺の手から離れようとするようなバーナー噴射の威力を出し、抑えきれなくなった。
「このおお!」
これ以上は操っていられないと感じ、そして魔槌の威力上昇の限界には達していないとも直感しながらも、俺は魔槌をダンジョンの壁へと叩きつけた。
直後、もの凄い爆発が生まれ、俺の視界は一瞬だけ眩く光り輝いた後で、すっと真っ黒に変わる。聴覚も、爆発の出がかりの音が聞こえたかと思ったら、一切の音が消えた。
すわっ爆発で目と鼓膜が潰れたかと思ったが、視覚も聴覚も数秒して元に戻った。
どうやら俺が被っている頭骨兜が、過剰な光と音をシャットアウトしてくれたようだ。
この頭骨兜の機能のおかげで、爆発の規模や大きさを直接的に目にすることはできなかった。
しかしダンジョンの壁に描かれた、爆発で焼かれた痕を見れば、爆発の規模を予想すうることができる。
「あー。これは、かなり威力が増したなぁ」
ダンジョンの壁の焼け焦げた痕は、俺の体をすっぽり覆うどころか、更にもう一人のみ込んでも不思議じゃないほどの大きさをしていた。




