十七話 防具について
今日も今日とて、通勤ラッシュを避けた早朝に東京ダンジョンに入り、浅い層の三匹でてくる場所でモンスター狩りに勤しむ。
やはり三匹現れる場所は、二匹のところよりレアドロップが良いようで、小一時間ほどで一つ出ている。
そのレアドロップ――イボガエルの舌を次元収納に入れつつ、次のモンスターを探して歩く。
「メイスさえあれば、ここら辺のモンスターは瞬殺なんだよな。もう少しダンジョンの奥で戦うのもアリかもな」
俺がダンジョンに入っている目的は、不老長寿の秘薬を手にすること。
その目的を考えると、いつまでも浅い層で戦っている場合じゃない。
それなのに俺がここに通っているのは、もちろんオリジナルチャートのためだ。
「ゲーム的な考え方だと、鎧を着ていると得られないスキルとかありそうだしな」
そう、未だ発見されていないスキルを入手できる可能性を残すために、鎧なしで戦える場所にいるわけだ。
特に、俺がスキルで欲しいと思っていて、未だに発見されていない魔法スキルや治療スキル。
これらのスキルは、鎧を着ていたら出ないんじゃないかという疑いがある。
なにせ、この二年の間、日本だけでなく世界でも、魔法と治療のスキルを得たという情報がない。
もしかしたら発見はされていて、秘匿されているのかもしれない。
けれど、いまの誰もが情報を発信できて高速で情報が拡散される世の中において、情報が秘匿され続けることは難しい。
全世界で見れば、探索者の数は一億人に迫るほどいるのだ。一億人もいれば、魔法と治療のスキルを得た上で、功名心から周りにスキルを風潮する者が必ず出てくるはずだ。
それにも関わらず、そんな人物が居ないことが、未だに魔法と治療のスキルを誰も得ていないという証拠であると、俺は考えている。
「世界中のどこでも、探索者は真っ先に防具を作って着るよう徹底されているしな」
特に日本の場合は、日本鎧を作る技術者が残っていたこともあり、ダンジョンが現れて直ぐに大量に普及した。そのため、鎧に関しては入手しやすい状況になっている。
外国においても、武器を作るよりも、鎧の方が簡単に作れる。
薄い鉄板や廃車の車体鋼板を、身体の形に沿うようにハンマーで叩いて曲げて装甲板を作る。関節部の造形は難しいため、そこは省略することが主流だ。それら装甲板を、長袖の服に接着剤で張り合わせ、お手軽でお手製な鎧の出来上がりとなる。
はっきり言って不出来でお粗末な鎧でしかないけれど、曲りなりにもお手製の鎧であるため、モンスターの攻撃を防ぎ致命傷を免れる働きはあると言われている。
「そう考えると、日本の手縫製の服を着ている人なら、魔法や治療スキルが生えても不思議じゃないんだよな?」
手作業の行程が多い物品は、ダンジョン内ではモンスターに通用する物となる。それこそ糸紡ぎから機織り縫製まで手製の衣服だと、装甲板を叩いて作った鎧を超える防御力を超える防御力を持っている。
そのため日本の探索者の中には、総手製の剣道着や、手で藁を編んだ編み笠を防具に採用している人も多い。
それにも関わらず、魔法と治療のスキルが現れていない。
ということは、新しいスキルの入手方法は、おそらく複合的な要因が必用なのだろう。
だから魔法と治療のスキルは、俺がオリジナルチャートで組んでいる通りに、初期スキルに次元収納を選び、刃物ではなく打撃武器を装備し、そして鎧を着ずにモンスターと戦わなければ、生えないスキルなんじゃないだろうか。
そんなことをつらつらと考えつつ、俺はメイスを振るってモンスターを倒していく。
そして防具のことについて考えていたからか、イボガエルが落とした革を手にしたとき、インスピレーションが浮かんだ。
「この革って、防御力がどれぐらいあるんだ?」
レアドロップ品ではあるものの、コボルドナイフはモンスターを切り裂ける攻撃力を持っている。
では同じモンスタードロップ品のイボガエルの革は、それなりの防御力を持っているんじゃなかろうか。
そう思いついてしまっては、確かめるしかない。
この浅い層で一番攻撃力が高いのは、ナイフを装備しているコボルドだ。そのコボルドにイボガエルの革を切らせてみて、防御力を確かめてみよう。
幸いなことに、次に出くわした三匹のモンスターは、ドグウが二匹とコボルドが一匹の編成だ。ドグウを真っ先に始末すれば、コボルドで検証が出来る。
「というわけ、でッ! お前たちは退場、なッ!」
メイスを二回振るい、ドグウたちを瞬殺する。倒して出たのは、粘土と手甲が一つずつ。それらを即座に次元収納に入れる。
コボルドだけ残すことができたので、俺は次元収納からイボガエルの革を取り出し、左腕につけている手甲の上に革を結びつける。ハンカチ大とはいえ、少し厚みのある革なので、片手で結ぶのに少し苦労した。
そうして準備が整ったので、コボルドの攻撃を誘導し、そのナイフの軌道の上に革を巻いた手甲を掲げた。
ギンッと音が鳴り、ナイフが弾かれる。
俺は一度大きく下がると、攻撃を受けた革を手甲から外し、観察してみた。
「ナイフが当たったところに線が入っているけど、貫通はしてないな」
これでナイフの切りつけは防げることが分かった。
刺突されても防げるかの検証もしたいが、不幸なことにコボルドは腕を上下に動かす攻撃しかできないため検証不能だ。
「イボガエルの革を防具に使えるか?」
ゲーム的に考えるのなら、金属鎧と革鎧は別口だ。某ゲームにおいて装備が色々と制限されていたエルフでも、金属鎧はダメでも、革鎧は装備できていたしな。
それに、いま着ているツナギの表面にイボガエルの革を縫い付たなら、それは革の服だ。鎧扱いじゃないだろう。
「……まあ、新スキルが手に入るまで、防具は手甲だけにするか」
余計なことをして、新スキルを入手する条件をフイにしたくはないしな。
とりあえず、新スキルが手に入った後のため、イボガエルの革は売らずに残しておくことにしよう。ああ、ドグウの手甲も、分解すれば服に着ける装甲板に使えるだろうから、こちらも売らずにおこうかな。
そんな考えを巡らせながら、俺はモンスターを探して倒すことを続けていった。