百六十六話 罠を調べ
第十一階層を奥まで進むのは、時間がかかる。
それは罠をいちいち発動させて、隠し部屋じゃないか確認する必要があるからだ。
「空間把握の魔法も万能じゃないってわかったしな」
空間魔法スキルの空間把握は、空間というか空気が繋がっていない場所を調べることが難しい。
例えば、曲がり角の先の先まで空間把握の効力の限界に達するまで認識することはできるけど、手元にある密閉されたポテチ袋の中身を知ることはできない。
だから、隠蔽しつつも触れられる隠しスイッチの存在は薄っすらと認識できるけど、隠しスイッチを押さないと開かない隠し部屋を認識することは出来ない感じだ。
この仕様は空間魔法スキルのレベルが低いからなのか、それともレベルが上がってもこのままなのか。
「それに、まったく隠し部屋がないのなら無視して行けばいいんだけどさ」
そう俺が思い始めた時期に、三匹一組でモンスターが現れる区域にて、隠し部屋が見つかったのだから厭らしい。
これでますます、俺は罠をいちいち発動させないといけなくなった。
それでも魔法の地図を十階層で手に入れて、これまでの未探索通路の解明作業とは違って、いちいちアプリの地図に書き込む必要がなくなった分、楽は出来ている。
「モンスターは弱いから、単純に罠の確認だけが面倒なんだよなあ」
四匹一組の区域に入ったのだろう、モンスターたちが四匹かかりで襲ってくる。
しかし、どのモンスターも罠を踏んで発動させない設計を重視しているのか、単体戦力はオーガ戦士に比べるまでもなく低い。
どれも魔槌の一振りで一殺できてしまうので、倒し方を考える必要もなく倒せてしまう相手でしかない。
通常のドロップ品も、あまり高く売れそうにないものばかりなので、ドロップ品を拾って次元収納に入れるのも作業的な手つきになってしまう。
「んで、ようやく一本目の通路を奥の奥まで辿り着けたっと」
とりあえず到着できたことに、俺は安堵の息を吐いてから、周囲の探索に入る。
そうして初めて気付いたが、これまた厄介なことになっていた。
「なんでまた、通路の奥にだけ隠しスイッチが沢山配置されているんだか」
ここまでの通路では、隠しスイッチがぽつぽつと広い間隔で置かれていた。
しかし通路の奥の行き止まりには、隠しスイッチが四つも配置されていた。
これがゲームなら、正しい押し順をすれば、隠し部屋やら隠し宝箱やらが手に入るのだろうけど。
「押し順のヒントなんて見かけてないから、単純に一つずつ押してみて確認するだけでいいな」
俺は少し離れた位置から、基礎魔法の魔力球を放って、全ての隠しスイッチを押した。
その結果、全てのスイッチが罠であることが判明した。
ちなみに罠の種類は、鏃のない木の矢の射出、頭上から拳大の石の落下、香辛料らしき色の煙の噴出、そして落とし穴の先に返しの付いた棘だった。
「少しだけ、殺意高くなったか?」
今までの罠に比べると、下手したら探索者が死にかねない罠になっていた。
木の矢でも急所にあたれば危険だし、石が頭に直撃したら脳に障害が起こる可能性があるし、香辛料を吸い込んで呼吸困難になったり、落とし穴の棘なんて引き抜く際に傷口がズタズタになって傷が腐ることもあるだろう。
どうして行き止まりの隠しスイッチだけ、一段階殺意が高くなっているのか。
もしダンジョン製作者がいるとしたら、その目的はなんなのか。
仮に俺が、この通路の奥の奥にある隠しスイッチの罠に意味合いを持たせるとしたら、どんなことが考えられるのか。
「通路の奥にある宝箱や隠し部屋を開かせないためか、探索者に罠の危険度を更に周知させるためかな」
どれもあり得る考えだが、ここまでのダンジョンの仕組みから考えると、探索者に経験を積ませる方が有力じゃないだろうか。
十一階層よりも先の場所では、このぐらいの罠は普通にありますよと、事前に教えてあげる。
そういう優しさなんじゃないかって、俺は思う。
「まあ、本当にダンジョンを作った人――ラノベ的に言えば、ダンジョンマスターがいるならだな」
居るとも居ないとも分からない相手を考えるのは、無駄な事だったなと反省する。
そして俺は、次の未探索通路の奥へと向けて、歩きを再開した。




