百六十二話 お願いと新機能
第十階層を突破したが、第十一階層へ行くのは、少し待つ必要が出てきた。
それはなぜかというと、岩珍工房からヘルプメッセージが来たからだ。
メールに書かれていた文章はとても丁寧なものだったが、文章の装飾を外すと単純な話だった。
『断れない筋からの大量注文を受けてしまった。革が足りない。早急に送って欲しい。無茶を言う分、買い取り額は上げる。お願いします』
断れない筋というのがどういうものか気になるが、あえてボカしているってことは、俺に伝えると拙い件なんだろう。
反社会的勢力の方向も考えられるが、むしろ有名な探索者がらみの方が可能性が高いだろうな。
なにせ俺は、革を納品することで、革装備の制作順番を優先してもらっている。
他の岩珍工房に制作予約をしている人からしたら、横入りなんてふざけるなって言いたくなることは間違いない。
俺と岩珍工房愛用探索者間での騒動が考えられるから、岩珍工房は詳しい事情を話さないんだろう。俺が知らなければ、その探索者たちと関わりが出来るはずもないし。
「んで、革か……」
手っ取り早く数を稼ぐのなら、通常ドロップで革を落とすモンスターの方が良い。そして行きやすさも重要だ。
そう考えると、第六階層にでるオークとオオアルマジロが良い感じだろう。
オーク革は色々な用途に使えるし、アルマジロの硬革は一部の防御強度を上げるのに向いている。
「久々に使う魔槌の慣らし運転には、丁度良い相手だろうしな」
俺は自宅から出かけて、東京ダンジョンへ。そして入口から黒い渦へと入り、第六階層へと瞬時に移動。
そして浅層域にでるオオアルマジロから、ドロップ品の硬革を乱獲を始めることにした。
第六階層の浅い層域の奥。五匹のモンスターが同時に現れる区域にて、俺は魔槌を振るってモンスターを倒すことに集中していた。
空間魔法の空間把握と、十階層突破した際に得た自動記述地図使えば、どこにどんなモンスターがいるかの判定ができるので、オオアルマジロが多い組み合わせだけ狙って狩り回る。
そうしたズルをしてはいるものの、目当てであるオオアルマジロだけが集まる組などは少ないため、必然的に他二種のモンスターとの戦闘にもなる。だからオオアルマジロの硬革を数多く集めようとするればするほど、必然的に他のドロップ品も集まることになるわけだ。
これが他の探索者なら、不必要なドロップ品を放置することだろう。
しかし俺には、レベルが上がって容量の上限がなくなった次元収納スキルがある。そして拾い集めれば金になるのだから、集めない理由はない。
そして手に入ってしまうのだからと、変異グールの謎の丸薬について、レベルが上がって入手した次元収納の新機能を使ってみることにした。
「効果が分かるって話だったが」
使い心地はどんなものだろうと、俺が意識して次元収納の中にある変異グールの丸薬の効果の判別を行ってみた。
すると丸薬がどんな効能なのかが分かった。
ただし、とても簡素な感じでだ。
「丸薬・かぜ薬。丸薬・下剤。丸薬・糖。丸薬・胃腸薬。丸薬・目薬――って、飲む薬で目が潤うのかい!」
予想外の結果に思わず突っ込んでしまったが、こんな効果の判明の仕方は望んでなかったんだが。
試しに、次元収納の中に入れてある、十字の中央分に〇の装飾のヘッドがついたメイスを効果判定してみた。
『メイス・治癒方術の効果増幅』
どうやら、『簡易的な名称』・『簡単な効果の説明』って感じで分かるようになったようだな。
なぜ丸薬がかぜ薬やら下剤やらと説明が出るかは、端的に分かりやすい表現だからなんだろうな。
「これほど簡易な説明だと、効果が分かる機能はオマケってな感じだんだろうな」
より詳しい物品の名前や説明が欲しいのなら、それ相応のスキルを得ねばならないんだろう。ラノベでよく出てくる、鑑定とか識別とかのスキルがね。
俺としては、とりあえずの効果が分かるのだから、鑑定や識別のスキルは要らないな。
俺の目的である不老長寿の秘薬の効果を調べたら、多分『秘薬・不老長寿』で出るはずだろうしな。
「とりあえず、朝から昼までオオアルマジロの硬革集め。昼から夕方までオークの革集めってスケジュールにするか」
俺は魔槌の習熟することも含めて、この日は一日中モンスターを倒し回ったのだった。




