百六十話 色々と大変化
戦闘終了に伴う解放感と安堵感を抱いていると、俺の脳内にアナウンスが来た。
『次元収納の容量の制限がなくなった』『次元収納に物品効果判別機能が組み込まれた』『治癒方術の新たな術を覚えた』『基礎魔法の新たな魔法を覚えた』
一気にドバっと情報がきて、思わず混乱する。
「ちょっと待て。なんだよ行き成り、こんなにたくさん。ってか、メイスにも変化が来てるし!」
俺の手にあるメイスが輝き始めていた。
これは武器進化の光。
魔石を与えていないのにどうしてと驚いている間に、メイスの光がより一層強烈になり、目が明けていられなくなる。
目蓋を貫いて見えていた光が消え、恐る恐る目を開いてみると、メイスの姿が一変していた。
「ヘッド部分が十字架の内側に〇がついた、十字の先が突き出した島津家の家紋みたいな形になってる。そして全体的に大きくなって純白になってる」
メイスの柄の底を床に着けてみると、十字架に丸のヘッドの中央部分が俺のアタマの横にくる感じの大きさになっていた。
それよりなにより、このメイスから伝わってくる存在感。
もしかしてと、俺が意識をメイスに注入してみると、メイスのヘッドが薄っすらと輝き始めた。
「効果付きの魔武器になってる。ダンジョン産じゃなくても、進化させ続けれれば、効果付きになれるのか」
そして効果付きと変わったメイスの能力は何かは、触っているだけで薄っすらと、その効果を体感してバッチリと理解した。
「治癒方術全般の効果量の上昇か。実際、かけたままのリジェネレイトの効果が上がっているのが、疲労の回復速度から分かるな」
リジェネレイトの効果は、今までは気のせいかと思うほど徐々に回復する感じだったが、メイスの効果を発動させた今は急速に体力が回復していっている実感がある。
これは大変に有用な効果ではある。
だが、俺が望んでいた効果かというと、ちょっと違う。
「治癒方術は他人に隠しているスキルだから、大っぴらに使うことはないんだけどな。それにメイン武器だから、攻撃力上昇の方が良かった……」
贅沢な悩みだと分かっているが、そう愚痴らずにはいられなかった。
それに、何となくではあるが、メイスはこれが最終進化だっていう気がしている。
これ以上は、どう魔石をつぎ込んでも、意味はなさそうな予感がある。
俺は、それならと、メイン武器をメイスから魔槌へと変更することにした。
魔槌は、未だ進化を残している感じがあるので、最終進化へ至るまでこれから使い続けることにしたわけだ。
「そんで、次元収納の容量が無限になって、中に入れてある物の効果が分かる機能がついたと。あとは、治癒方術と基礎魔法の新しいのを覚えたと」
どんなことが出来るようになったかなと、それぞれのスキルに集中する。
そして、基礎魔法は兎も角として、治癒方術の方について頭を抱えたくなった。
「基礎魔法で魔力の盾が作れるようになったのは良かった。防御手段が増えたことで、戦いが楽になるからな。でも治癒方術。ちょっと自重しろ。なんだよ、治癒方術の効果を水に溶け込ませるメディシンと、体の欠損を治すハイヒールって。他人に知られたら、特大の厄介事に巻き込まれるぞ、コレ」
病気を治すだけのポーションが、先日に数十億円で売れたばっかりだぞ。
メディシンを使えば、同じ効果のポーションが作り放題になるだろうが。
つーかハイヒールの方も大概だ。欠損を治せるってことは、壊れた臓器を取り除いた後に使えば、健全な臓器を作り出す事ができるってことだろ。臓器移植待ちの人を救えるって、現代医療で引く手あまたになるじゃねえか。
「一層、誰にも知られるわけにはいかなくなった……」
俺は溜息をつきたい気分のまま、ドロップ品と宝箱のチェックに移る。
「オーガ戦士の通常ドロップは、昔話に出てくるような財貨だって話だったけど」
サンゴや反物や小判などの、分かりやすいお宝の詰め合わせだったはず。
しかし俺の足元に落ちているのは、オーガ戦士の頭部を白骨化させたようなもの。
大きく開いた虚ろな眼窩。額の二ヶ所から一本ずつ伸び出た角。食いしばっているかのように閉じられた尖った歯列。
見れば見るほど、オーガ戦士のガイコツのように見える。
これは一体なんだろうと拾って確認すると、頭蓋骨の中に内張りがあることが分かった。
その内張りは、柔らかくて通気性の良い素材のようだった。
この見た目と内張りの感触からして、考えられるものは一つだけだ。
「これ、もしかして兜か?」
まさかと思いつつ、俺は頭からドクロヘルメットを脱ぎ、代わりにオーガ戦士の頭骨な見た目の兜をかぶってみた。
頭にピッタリとはまるフィット感。深呼吸しても息が押し止められる感触のない呼吸のし易さ。まるで着けていないかのような通気性の良さ。そして革手袋をした拳で叩いてみた感じでわかる防御力。
このオーガ戦士の頭骨兜は、完全にドクロヘルメットの上位互換だった。
これで懸念点は一つだけ。
俺はスマホをジャケットの内側から取り出すと、インカメラの機能を使って、自分の見た目を確認した。
「へぇ。眼窩や口元から俺の顔が見えているんじゃないかと思ったけど、外側から見えないような特殊効果があるのか」
空いているはずの眼窩の部分は、全体が黒く塗りつぶされていて、俺の目が外側から見える感じにはなっていない。俺が喋る動きに合わて開閉する口も、大口を開けても奥は黒くなっていて、俺の口元が見えないようになっている。
これなら、俺の顔が頭骨兜から見えるということはないようだ。
そして、こんな装着者の顔が外から見られないような不思議機能があるってことは、この頭骨兜は明らかに効果付きの魔具だ。
俺が意識を集中すると、頭骨兜の真っ黒な二つの眼窩の中央に真っ赤な光点が生まれた。
あたかも、死者が蘇って、魂の目を眼窩に作ったかのように。
「これが鉄兜ならゴブリン置いてけなんだろうけどな」
ともあれ、中々カッコイイ見た目の変化に、俺は満足だ。
それと、効果を発現してみて、この頭骨兜の効果が何となくわかった。
身体強化に似た、別の強化系の効果だ。
「そういえば、次元収納に物品の能力を判別する機能がついたんだっけ」
試しに頭骨兜を入れて確かめてみると、効果は俺の予想通りの物だった。
頭骨兜が持つ効果は『鬼力強化』というもので、体への強い反動が起こるほどの強い身体強化を行うらしい。
オーガ戦士が肉体の修復機能を持っていたのを考えると、この鬼力は壊れる体を鬼の回復力で治すことを前提にした力なんだろうな。
「そして、リジェネレイトが使える、俺にも適した力であるわけだ」
でもわざわざ体を壊す必要はないので、この鬼力強化は切り札の一つとしておいておくことにしよう。
俺は頭骨兜を手元に出し、そして装着し直す。
「だが問題は、ますますモンスターじみた見た目になっているってところだよな」
今の俺の格好を何も知らない人が見たら、白骨化したオーガ戦士の頭を持つ、トカゲの鱗のような模様のある体の、背に毛が生えたモンスターの仮装に見えることだろう。
でも、性能優先で選んでコレなのだから仕方がないよな。
俺は、脱いで置いていたドクロヘルメットを次元収納の中に入れると、次に宝箱を空けることにした。
宝箱の中には二つ物が入っていた。
一つは、トレントを倒した際にも手に入れた、スキルを得られる巻物。
もう一つは、折りたたまれた紙だった。
巻物は効果が分かるので置いておくとして、俺は紙を次元収納にいれて効果判別をつかってみた。
すると、なかなかにダンジョン探索に使える地図であることが分かった。
「今まで行ったことのあるダンジョンの階層の構造が、地図に現れるのか」
俺は地図を次元収納から取り出し、広げる。
一見すると何も書かれていない、広げた新聞紙ほどの羊皮紙の紙でしかない。
しかし俺が『第九階層の地図をみたい』と念じると、一瞬にして紙の上に線が引かれて地図になった。俺が見つけた宝箱の位置や、見つけた隠し部屋の場所までバッチリ網羅されている。
俺はスマホのアプリで第九階層の地図を呼び出し、羊皮紙に現れた地図と比較してみた。
「少し違う点もあるけど、アプリの方は探索者の手書きを書き起こしたものだから、この地図の方が正しいんだろうな」
そしてこの魔法の地図があれば、いままでいちいち未探索通路をアプリの地図に手書きしていた作業が要らなくなる。
中々に嬉しい宝箱の出物に、俺は満足だ。
「さてさて、じゃあスキルを得るとしますか」
俺はスキルの巻物の紐を解き、そして広げた。
その瞬間、脳内にアナウンスが流れた。
『打撃強化、空間魔法、火魔法のうち、一つを選べ』
以前と比較すると、基礎魔法と身体強化が消えて、空間魔法と火魔法が追加された形だ。
基礎魔法は前に選んだから消えるのは当然だけど、どうして身体強化が候補から消えたんだろうか。
もしかして鬼力強化の頭骨兜を被っているから、効果が重複する感じのスキルは候補から外されたのだろうか。
理由に興味はあるが、この三つのうちなら、俺が選ぶスキルは決まっている。
「空間魔法を選ぶ」
『空間魔法を覚えた』
選んだスキルを宣言した直後、俺は空間魔法の使い方を理解した。
そして最初に覚えた空間魔法に肩透かしを食らった気分になった。
「空間把握の魔法。自分を中心に、ある程度の範囲内の空間にあるものを把握する。気配察知と似たような効果じゃないかよ。空間魔法っていうからには、空間断裂とか転移とか、そういうのを期待してたってのに……」
もしかしたらレベルアップしていけば、その手の魔法を手に入れられるかもしれないけど、でも初っ端が空間把握じゃ期待は薄いかもしれないな。
最後の空間魔法だけショッパイ結果だったけど、その他は大まか満足な結果だ。
俺は気持ちを入れ替えると、第十階層に入ってきた場所から見て、舞台を挟んで反対側にある入場口へと向かう。
そうして辿り着いた入場口には、第十一階層へと行くための黒い渦があった。
「十一階層に行ったら、今日はもうダンジョン探索は終了。個人的な打ち上げをする」
俺は今後の予定を宣言してから、黒い渦へと飛び込んだ。




