百五十九話 オーガ戦士・終
幅広い剣身の直剣一本になったオーガ戦士と、メイスを構える俺。
大上段から剣を振り下ろすオーガ戦士に対し、俺はメイスのヘッドを真っ直ぐに突き出した。
俺のメイスのヘッドは十字架の形をしている。そしてオーガ戦士は俺より高身長だ。
だから俺がオーガ戦士の顔を目掛けてメイスを突き出せば、自然とオーガ戦士の剣を振る軌道を、メイスの十字架ヘッドの左右に伸びた棒の部分で防げる形になる。
ここでオーガが取れる選択肢は三つ。
攻撃失敗を受け入れ、剣を振り下ろしてメイスに当てて、次の攻撃に移る。
攻撃に変化をつける――剣の振り方を変えて、攻撃を続行する。
剣を振るうのを止めて、もう一度仕切り直す。
ここまで戦ってきた感触からすると、オーガ戦士の選ぶ選択は、メイスに剣を当てて次の攻撃に移るはず。
その俺の予想の通りに、オーガ戦士はメイスのヘッドに剣を叩きつけてから、剣による二撃目の体勢に入る。
俺から見て、左から右へと剣を振り抜く体勢。
その剣が走るであろう軌道へ、俺はメイスを操り十字架ヘッドを移動させる。
オーガによる二撃目も、メイスの十字架の横棒部分で防ぎ、そして剣の威力をいなして無力化させる。
二度も俺に防がれたからか、オーガ戦士は剣による連続攻撃をしてくる。
俺はメイスを適宜に動かし、剣による攻撃を防ぎ続け、威力をいなし続ける。
こうして防御一辺倒で戦い続けていると、オーガ戦士の攻撃が段々と荒々しいものになってくる。
その剣の攻撃の仕方は、まるで俺の腕の中からメイスを吹き飛ばそうとしているかのよう。
「意固地になっちゃってなあ」
俺が煽る言葉を出すと、オーガ戦士は侮られたと理解している様子で攻撃が一層荒くなる。
戦いの中で熱くなったら負けだって、アニメですらよく言うだろうに。
そんな感想を抱きつつ、俺はここで防御の仕方に変化をつけた。
いままでは、オーガ戦士の剣の剣身にメイスのヘッドの横棒を当てることで、防御していた。
しかし今度は、俺の方から一歩前へ踏み出しつつ、メイスのヘッドをオーガ戦士が剣を振るう手に向けて突き出した。
突き出したメイスと、剣を振るうオーガ戦士の手が衝突し、メイスがオーガ戦士の剣を握る右手の指を折った。
オーガ戦士は指が折れた痛みでか、思わずといった感じで体を硬直させている。
俺は素早くメイスを引き戻しつつ、その場で左へと旋回。その回転エネルギーを乗せた横振りの一撃を、オーガ戦士の脚へと叩き込んだ。
オーガ戦士の膝が砕ける感触がした。その直後、その立派な体格を支え切れなくなったのか、オーガ戦士は片膝をつくように座り込む。
殴り易い位置にまで下りてきたオーガ戦士の頭へ向けて、俺はメイスの渾身の一撃を放つ。
しかしオーガ戦士もタダではやられる気はないようで、両腕と剣で頭を防御する。
俺のメイスの攻撃は、オーガ戦士の頭を守る左腕に当たり、肉が潰れて骨が折れる感触が伝わってきた。
これで俺の攻撃を防いだことで、オーガ戦士の攻撃のターンに入る。
オーガ戦士は座り込んだ状態のまま、右腕一本で剣を振るって攻撃してきた。威力の乗っていない攻撃ではあるようだが、剣の刃による攻撃は危険だ。
俺は手の内でメイスを滑らせてヘッド近くを手で持ち、そして柄の部分でオーガ戦士の剣を受け止めた。
その際、少し横に押される感覚を受けて、俺は驚いた。
右手の指の一、二本を、先ほどメイスの突き出しで砕いたはずだ。その怪我があるはずなのに、オーガ戦士の右手は確りと剣を握って、俺へ攻撃してきた。
「もしかして」
俺が予感したのは、オーガ戦士には弱いながらも回復能力があるのではということ。
その予感が正しいことを示すように、先ほど砕いたオーガの膝のあたりが、元に戻ろうとしているかのようにゆっくりと蠢いていた。
これは素早く決着を付けないと、千日手やジリ貧になりそうだ。
俺は意を決して片手をメイスから離すと、その手をオーガ戦士の顔面に突きつけた。
「魔力弾」
五指の先から一発ずつ五連射された魔力弾が、オーガ戦士の顔面を至近距離から撃った。
魔力弾は、オーガ戦士の片目を潰し、前歯を圧し折り、口内に穴を穿つ。
顔面に大怪我を負い、オーガ戦士は気が遠くなった様子で後ろに倒れようとする。
しかし薄黒い煙に変わっていないのを見れば、まだ絶命していないことは明白だ。回復能力があると考えれば、多少顔を抉られたぐらいじゃ、致命傷にはならないよな。
俺はメイスを持ち直すと、この一撃で止めを刺す気で、メイスを力強く振るった。
メイスのヘッドはオーガ戦士の頭を叩き、直接的に半兜を叩き壊し、衝撃で内側の頭と首の骨を折った。
これが致命傷になったようで、オーガ戦士は薄黒い煙に変わって消えた。
そしてその煙の中から滲み出るように、ドロップ品と宝箱が出現した。
「ふう、戦闘終了だ。いやー、手強い相手だった」
オーガ『戦士』と名付けられただけあって、中々に戦闘技量が高い相手だった。
俺の得物が、十字槍めいた十字架ヘッドの長柄のメイスじゃなければ、防御するのでも大変な相手だったことだろう。




