百五十二話 第九階層深層域での脅威
第九階層の深層域。その奥にある、モンスターが五匹一組で現れる区域。
俺はそこに至り、どうして第十階層の突破を目指しているはずの、探索者の多くがここに来ないかを悟った。
「単純に、凶悪に過ぎる!」
俺がいま戦っている相手は、キラーマンティス二匹、ホブゴブリン二匹、リビングナイト一匹の組み合わせだ。
そしてこの組み合わせが、この場所で最も驚異的な相手だということを、いままさに知っている最中だ。
キラーマンティスの鎌の攻撃は、剣豪もかくやという素早さで行われるため、予兆を見逃さないようにして事前に避ける体勢に入っておかなければならない。
ホブゴブリンは、盾と剣を使った実直的な戦い方なので、じっくりと腰を据えて対応する必要がある。
そしてリビングナイトは、骨馬の移動速度を使った突撃攻撃が強力なので、自由に動き回らせないよう気を付けなければいけない。
そう分かっているのだけど、そう対処できたら苦労はない。
俺がキラーマンティスの鎌を避けると、ホブゴブリンが盾を構えて近づいてきて俺の反撃を封じ、リビングナイトは踵を返して距離を取って突撃準備に入る。
かといってホブゴブリンを先に相手にしようとすると、盾の防御力で粘られている間に横合いからキラーマンティスが襲ってくるし、やっぱりリビングナイトは突撃準備を行う。
でもリビングナイトを倒そうとすると、 ホブゴブリンが間に割って入ってきてリビングナイトを守り、俺が打開に手間取っているとキラーマンティスが襲ってくる。
この三種類のモンスターの連係は巧みで、なかなかに突破できない。
「ホブゴブリンとキラーマンティスのどちらかでも一匹だけだったら、突破のしようはあるのに!」
モンスター側の戦法は、三種類のモンスターがいることで成り立っている。
だから強引にでも一種類のモンスターを排除できれば、手強さが一気に解消されるはずだ。
しかしモンスター側も馬鹿ではなく、俺が捨て身で一種類のモンスターを排除しようと動くと、他の二種が隙があると見て攻撃してくる。だから俺は、捨て身の攻撃を中断して防御するしかなくなる。
事ここに至り、俺は決断する。
本当は基礎魔法を使って戦いたいが、他の探索者が来る可能性はゼロではないため、本当に命の危険がない限り使う気はない。
では何を決断したのか。
それは次元収納に入れたままにしていた、あるものを使う事をだ。
「これでも、食らえ!」
俺は次元収納から、赤スライムのドロップ品――赤スライムの粘液が入った容器を、キラーマンティスの一匹に投げつけた。
キラーマンティスは鎌で容器を切り裂き、壊れた容器から跳び出した粘液がキラーマンティスにかかった。
赤スライムの粘液は、自然発火する危険物。
その粘液を浴びたキラーマンティスは、直後に全身火だるまになった。
急に炎上した味方に驚いたのか、モンスターたちの動きが一瞬止まった。
その隙を見逃す俺じゃない。
「うおおおおりやああああああ!」
俺は渾身の力で跳びかかり、リビングナイトの頭部にメイスを叩き込んだ。リビングナイト頭部が拉げ、薄黒い煙に変わった。
これで一種類のモンスターを排除。二種類となったモンスター側は、先ほどと同じ戦法は使えなくなった。
ここで戦いの流れを一気に引き寄せるべく、俺はホブゴブリンへと襲い掛かる。
「死ねえええええええええ!」
一撃目で盾を粉砕し、続く二撃目でホブゴブリンの頭を横から殴りつけて破砕させる。
ホブゴブリンが変じた薄黒い煙を突っ切り、もう一匹のホブゴブリンへ。
俺はメイスで上段から殴るぞとフェイントを入れると、ホブゴブリンは律義に盾で受け止めようとした。
まんまとフェイントに引っかかったホブゴブリンの腹へ、俺は渾身の力で蹴りを入れた。
蹴られたホブゴブリンは吹っ飛び、火だるまになった熱さで自失して暴れているキラーマンティスの方へ。そして暴れているキラーマンティスが振るった鎌が当たり、胴体を真っ二つにされて、ホブゴブリンは薄黒い煙に変わる。
これで残るは、無事なキラーマンティスと、炎上中のキラーマンティスの二匹――いや、火にまかれて呼吸ができなくなったのか、炎上していたキラーマンティスが薄黒い煙になって消えた。
一対一の状況なら、俺がキラーマンティスに負ける道理はない。
あっさりとメイスで叩き潰して勝利した。




