百五十話 中層域を調べ終わり
中層域の五匹一組でモンスターが出る区域に到着した。
ここまで来れば他の探索者はいないだろうと考えていたのだけど、通路の上に浮遊武器のドロップ品が落ちているのを見て、それは甘い考えだと分かった。
「これはまた、未探索通路の解明が早く終わりそうだな……」
スマホの探索者用のアプリにある地図には描かれていないが、未探索通路の多くは奥まで探索されていると考えた方がいいだろうな。
俺は、不老長寿の秘薬がありそうにないなと溜息を吐き出しつつ、万が一の可能性を潰すために未探索通路の踏破を目指す。
そうして通路を歩いていると、五人組の探索者パーティーと出くわした。
探索者たちはモンスターと戦っているが、その様子が、今まで見てきた探索者パーティーとは少し違っている気がした。
なにが違うのだろうと考えながら見ていて、俺は気付いたことを小声で呟く。
「一対一でモンスターと戦っているようだよな。連係よりも、個人の技量を重視しているのか?」
今までの探索者たちは、防御役がモンスターを何匹か引き付けておき、その他の面々が強力して一匹のモンスターを攻撃するって行動が主だった。
しかし俺がいま見ている探索者たちは、それぞれがモンスターと一対一で戦っていた。それも陣笠姿の気配察知スキル持ちと思わしき人も、脇差を逆手に構えて攻防を繰り広げている。
よく見る探索者と違う行動に、俺は疑問を持つが、なんとなく理由に思い至る。
「第九階層にいる多くの探索者の目的は、十階層の中ボスを倒して先に進むことだったよな。なら、個人の技量が足りないから鍛えているってところか?」
技量を鍛える相手として考えると、第九階層の中層域にいるモンスターたちは適任だろうな。
浮遊武器を相手すれば、様々な武器への対処が身に付く。樹皮人と戦えば、人型相手の経験値を積める。エジプト神官風のマミーは、敵の後衛を素早く片付ける練習になる。
それに、神官マミーの治癒方術前提でモンスターの総合的な強さが決まっているみたいで、浮遊武器も樹皮人もモンスター単体として考えると強さはさほどじゃないしな。
探索者たちの思惑に予想がついたのと、モンスターの数が残り一体になったのが見えたので、俺は探索者たちの脇を抜けて通路の先に行くことにした。
俺が歩き出すと、探索者たちはすんなりと移動するための場所を空けてくれた。
多分だが、この場所では、戦っている探索者たちの横を他の探索者たちが通り抜けることはよくあることなんだろう。
そんなことを考えつつ、俺は通路の奥へと向かって歩いていった。
未探索通路の奥へ行けば行くほど、この場所でも他の探索者と出会わなくなっていった。
なにせ、この場所の探索者は、自分たちの技量を鍛えるために、ここに来ているんだ。モンスターを探すだけなら、通路の奥の奥へ行く必要はないしな。
そうして誰も他の人が居ない状況で、俺は未探索通路を一つ二つと踏破していった。
そして三つ目の通路の奥。宝箱を見つけて駆け寄って、その蓋が開け放たれていることに肩を落とした。
五匹一組の区域にまで探索者たちが入り込んでいるんだ。
少し足を延ばすだけで宝箱が開けられると情報を知っていれば、行かない理由がない。
「中層域の宝箱は全て、定期的に漁られているかもな」
半ば予想していたこととはいえ、残念な気分になってしまう。
それでも俺は諦めずに、アプリの地図上では未探索となっている通路を解明するため踏破を続けていく。
四つ五つ六つと踏破を終え、帰宅時間になったのでダンジョンを脱出。
翌日も同じように、七つ八つと未探索通路に入っていく。
他の探索者たちが挙ってモンスターと戦っているので、俺が戦うことは少なくなっている。
そのため、未探索通路の解明作業がポンポンと進んでしまう。
あっという間に未探索通路の残りが消費されていき、一週間も経たずに第九階層中層域の地図が全て埋まった。
「本当に宝箱が全部開けられていたんだが!」
俺は腹立ちまぎれに、久しぶりに戦うことになったモンスターたちを殲滅した。
他の探索者たちに、このモンスターたちが狩られていなかったのは、神官マミーが二匹いたからだろう。
回復役二匹がいると、モンスターたちの傷が常に回復され続けてしまうので、倒すことが難しくなる。その難しさを嫌がって、放置されたんだろう。
俺にしてみれば、メイスの一撃でモンスターを粉砕するので、神官マミーの数の分だけ、敵の前衛の圧力が下がってやり易いぐらいだけどな。
「おっ。神官マミーの片方がレアドロップ品を出した」
拾い上げてみると、それは短杖だった。それも純金らしき重さが手に伝わるもの。
それなりの重さがあるので、超接近戦の武器としても使えそうではある。
でも純金は殴って使うには強度が不足しているので、売り払ってお金にするためのドロップ品なんだろうな。
「中層域を全て調べることはできたけど……」
宝箱の中身は全滅で、モンスターと戦う頻度が少ないのでドロップ品もあまり手に入っていない。
俺の目的が不老長寿の秘薬を手に入れることだとはいえ、収入的なしょっぱさに思わず顰め面をしそうになる。
「まあいいや。明日からは深層域に行くんだしな」
しかし中層域の様子を見るに、深層域の宝箱も全滅という可能性の方が高いよな。
俺は気落ちしながら、今日のダンジョン探索を終えたのだった。




