百四十八話 早くも中層域へ
第九階層の浅層域の未探索通路の解明は、もともとの範囲が少なかったため、一週間という速さで終わった。
そして宝箱もある程度の数を見つけることが出来たものの、空だったものも幾つかあった。
どうやら手に入り易い位置にある宝箱は、宝箱の中身が一定期間置くと復活することを考えると、定期的に他の探索者たちが取っていっているようだ。
そのため、俺が中身を手に入れられた宝箱の数は四つだけ。その中身も、あまり大したものが入ってなかった。
隠し部屋もあることはあったが、なぜか通路の奥にあるタイプのは少なく、通路の途中に設置されていることが多かった。そして、その手の隠し部屋は、探索者たちが休憩所としてつかっているようで、人影があったり人がいた形跡があったりした。
つまるところ、俺的には得るものが少ない探索となったわけだ。
ともあれ、浅層域を調べ終えたので、次は中層域の未探索通路だ。
「で、スマホで地図をチェックしてみたわけだが……」
未探索通路の範囲が、浅層域の時よりも狭くなっていた。
もう四匹一組でモンスターが現れるであろう区域の半ばまでと、解明された範囲にある隠し部屋や宝箱の位置も、アプリの地図で判明していた。
これは浅層域よりも早い段階で、未探索通路の全解明が終わりそうだな。
そんな感想を抱きつつ、俺は順路を通って中層域へと入り、そしてモンスターと出くわした。
運がいいことに、他の探索者は近くにいない。
「よしっ。気兼ねなく倒せるな」
俺が出会ったモンスターは、槍を持った大人の男性の全身に木の樹皮を貼り付けたような見た目をしていた。その姿から、樹皮人と呼ばれている人型のモンスターだ。
この樹皮人。手には簡素な見た目の木の槍を持っている。柄の長さは樹皮人の背丈と同じで、穂先は薄黄色の宝石製だ。
武器を使うモンスターということで、俺は立ち上がりは慎重に戦うことにした。
俺も樹皮人も、互いに長い柄のある得物だ。必然的に遠い間合いでの攻撃から始まることになる。
樹皮人は槍を突き出して攻撃し、俺はメイスで槍を叩くようにして防御する。
樹皮人の槍の使い方は、素人よりは上手いが、熟練者ほどには巧みじゃないという、微妙な塩梅。その証拠に、樹皮人は槍の穂先は攻撃に使うが、逆の石突の方を使ってくることがない。
そうして樹皮人の技量が大したことがないと分かったので、俺は防御から攻撃に打って出ることにした。
樹皮人が繰り出した槍を、俺はメイスで更に強く叩いて弾く。樹皮人は弾かれた槍につられるように、腕を大きく逸らしてしまう。
その明確な隙に、俺は大きく一歩踏み込みながら、メイスで強力な一撃を与えた。
樹皮人の頭を覆う木の皮が弾け飛び、その内側の構造もメイスの十字架ヘッドが破壊する。
これが致命傷になったのだろう。樹皮人は即座に薄黒い煙に変わり、そして宝石の穂先の木槍をドロップした。
俺は、その木槍を手に持つと、掲げ見た。
「棒の先端に宝石がついているから、槍というよりは、魔法の杖って感じだけどな」
試しに、魔具を発動させる時のように、木槍に意思を集中させてみた。
しかしなんの反応もないので、杖だけでなく槍としても特殊効果はないようだ。
一匹で現れる場所でドロップしたものだから、木槍は通常ドロップ品のはずだ。そして通常ドロップ品で効果付きの魔具が出てくるはずもないよな。
俺は木槍を次元収納に入れ、通路を先に進む。
少し歩くと、先で戦闘をしている音が聞こえてきた。
足早に近づいてみると、探索者五人組がモンスターと戦っていた。
「浮遊武器(フローティングウェポンか。ホントに空中に武器が浮いて、襲ってくるんだな」
空中に浮いているのは、斧槍の浮遊武器。見えない人が持っているかのように、振り回したり、突き込んできたりと、探索者たちを攻撃している。
この手の重量武器を相手にするには、日本刀は不向きだ。
日本刀は、剣にしてみれば身幅の薄い武器であるため、大きな衝撃に弱い特徴がある。
だから下手に斧槍を日本刀で受け止めようものなら、刀身が曲がったり、下手したら折れてしまうことになる。
そんなネット知識を思い返している間に、探索者の一人が浮遊武器の攻撃を回避し損ねて、仕方なしと持っていた刀を盾にして受けた。その結果、刀は真ん中から無残にも折れ曲がってしまった。
「ツキがねえな!」
武器が破損したことに悪態をつきながら、その探索者は曲がった刀を手放し、浮遊武器を掴み止めた。
浮遊武器は、釣り上げたばかりの大型魚のように、探索者の手から逃れようと暴れ始める。
そこで他の探索者が、浮遊武器を押さえつける者と攻撃する者とに分かれて、カバーに入った。
少しだけ時間が経ち、探索者たちの刀の連続攻撃によって、浮遊武器はボロボロになった後で薄黒い煙に変わった。
こうして浮遊武器が消えて現れたドロップ品は、新品同然の見た目の弓だった。
どうして斧槍の浮遊武器を倒して、ドロップ品に弓が出てくるのだろうか。
俺はその謎について考えつつも、戦闘を終えた探索者たちの横を通り抜けて、更に先へと進む。
それから少しも経たない間に、また新たな探索者パーティーがモンスターと戦っている場面に出くわす。しかも丁度モンスターを倒しきるところだった。
某カードゲームアニメの初代の過去編にあった、エジプト風の衣装。
それと似た白い服に金の杖と額当てをしたマミーが、探索者たちに切り殺された。
あの格好からすると、マミーは魔法使いか。いや、魔法を使うマミーは第六階層にいたから、より強力な魔法か、もしくは別種の魔法を使うモンスターなんだろう。どんな戦い方をしてくるか見れなかったのが残念だな。
俺がエジプト服マミーについて考えている間に、探索者たちはドロップ品を拾い上げていた。
それは、マミーが着ていたのと同じ、白い服。見た目でいうと、ズボンからシャツまで一体になったツナギのような服で、腰に革のベルトが通された状態でついていた。
あまり大した値段になりそうにない服のように見えたが、探索者たちはわざわざ丁寧に畳んでからバックパックの中に収めている。ああして回収するってことは、それなりの値段で売れる服なのだろうか。
疑問は残るが、それは俺がエジプト服マミーを倒してドロップ品を得ればわかることだよな。
俺は疑問を棚上げすることにして、中層域の奥への道を進んでいった。