百四十一話 休みにビュッフェ
昨日の銭湯で、心身の奥底に溜まった疲れを自覚したからか、今日はとてもやる気がでない。
休日にした日なので、やる気が出なかろうが、特に困りはしないのが幸いか。
「休日だからこそ、やる気がでないのかもなー」
だらけた気分が起床時から抜けないまま、俺はスマホでアニメを見る。
ぼんやりと視聴するのに最適な日常系の、そして以前に見たことのあるアニメをだ。
見た記憶のある場面が続き、そして見た記憶があるにもかかわらず面白いなと思ってしまう。
田舎の少年少女が楽しく日常を過ごす話だし、特別凄い展開やシーンがあるわけじゃないのに、起承転結で見ごたえのある話に作り上げているのが凄いよな。
「……あー、どうするかなー」
アニメを見ながら、俺は空腹を自覚していた。
しかし昨日の夜に、備蓄分の食料も食べてしまった。もう自宅の中に食べられるものはない。
というか、昨日の夜に大量に物を食ったのにも関わらず、こうして麻にお腹が減っているのはどういうことだろうか。
単純に、今までの食事じゃ栄養が足りてなかったってことだろうか。
「栄養。栄養ねえ……」
探索者になってからの、約半年。
ダンジョンに行く日はスーパーの弁当や総菜やパンを食べ、休日は気になった店に入って大量に料理を注文して食べていた。
そんな日常を思い返すと、野菜を摂取している量が少ない感じがした。
これは仕方がないことだろう。
なにせ俺は、まだ二十歳を少し越えたぐらいの、野菜より肉を食べたい年齢だ。スーパーや飲食店に入ると、どうしても肉を中心に頼みがちになってしまうもんだしな。
「じゃあ今日は、野菜が取れる飲食店を探すか」
俺はアニメの視聴を切り上げて、スマホで野菜が多く食べられそうな飲食店を探してみることにした。
調べてみると、色々な候補が出てくる。
「サラダバーじゃなくて、ちゃんとした野菜の料理がある店だと」
中華料理が意外と野菜を使っている料理が多いそうだが、これは今後の参考にするだけにしよう。
つらつらと調べていくと、とあるホテルにある飲食店のビュッフェに行き当たった。
「売りは、野菜をふんだんに使った料理。それをビュッフェスタイルでか」
ホテル内の飲食店でも、服装規定はないみたいなので、ツナギ姿で行っても良い店のようではある。
「断られたら、別の店に行けばいいか」
俺は、その店にスマホで予約を入れる。今日が平日ということもあって、普通に予約がとれた。
予約が取れたのならと、のっそりと起き上がり、出かける準備をすることにした。
俺は、ホテルにあるビュッフェの店の開店と同時に店内に入った。
予約している旨を告げて、スマホの画面で予約してある証明を映して示す。
店員は、俺のツナギ姿に目線を数秒だけ送ってから、席に案内してくれた。
店の端にある、二人掛けの机。
なんとなく歓迎されてない感じがあるが、俺は飯を食いに来たので通された場所については気にしないことにした。
俺が席に着くと、店員がビュッフェの説明をしてくれた。よくある仕組みなので、時間制限が一時間というところだけ覚えておくことにした。
「さてと」
俺は席から立ち上がると、ビュッフェ台へ。皿を取って、並んだ料理に目を向ける。
野菜料理が売りという評判の通り、色々な種類の野菜料理が置かれていた。
簡単なものだと野菜の素揚げ、手残った料理だとテリーヌなんかがある。
主食系でも、五穀米に野菜カレー、野菜が沢山入ったパスタ、アスパラが目立つピザなんかがある。
俺は料理の数々に目移りしながら、とりあえず全種類を少量ずつ制覇することを目標にした。
そして運んできてテーブルの上に乗せた、十種類の野菜料理たち。
カボチャの素揚げ、里芋の天ぷら、蓮根とピーマンの甘酢炒め、ニンジンスープ、キュウリとツナのマヨ和え、ナスとケッパ―のトマトパスタ、水菜とエビの生春巻き、クリームきのこ、春雨サラダ、ベリー系のフルーツポンチ。
「さてさて。いただきます」
俺は一口分ずつの料理を、順番に口にしていく。
ホテルに入っている飲食店だけあって、味のクオリティは高い。
その味への満足感以上に料理から受け取れるのは、野菜にある栄養を取っているっていう充足感。
料理一つ一つに野菜の滋味が行き渡っていて、味付けはその滋味を引き出すための脇役に徹していて、料理人の腕の高さが伺える。
俺は最初に選んだ料理たちをペロリと食べ終えると、続いての料理を取りに向かう。
並んでいる料理の種類は、およそで三十。
まずはそれを全制覇してから、気に入った料理を思う存分食べることに決めた。
そして一時間の制限時間をフルに活かして料理を堪能して、俺はビュッフェを後にした。
「ふぅ。やっぱり、野菜は常日頃取っとかないといけない感じがするな」
胃に収めた大量の野菜料理たち。その料理に含まれる野菜の栄養を、身体が急いで取り込もうとしているような感覚があるからな。
スーパーのカット野菜を常備しようかと考えたが、内容物の多くがキャベツであることを思い出して、買うことを止める。
あれを買うぐらいなら、キャベツ一玉買って、葉っぱを一枚ずつ食べた方が良い気がするしな。
「野菜を取るためだけに、飲食店のデリバリーを頼むのもなぁ」
俺は今後の食生活の充実の仕方をどうするかを考えつつ、自宅へと帰ることにしたのだった。




