十四話 不幸福
道を進み、出くわすモンスターと戦い続けていくと、とうとう道の端についてしまった。
「端といっても、左へ進む道があるんだよな」
曲がり角から顔を覗かせて、その先を見てみると、かなり先へと道が続いている。
あの先に行ってもいいだろうけど、引き返すこともありだ。
どうしようかと考えていると、空腹を自覚した。スマホをツナギから取り出して確認すると、昼食の時間になっていた。
「腹ごしらえしてから決めるか」
次元収納に入れていたレジ袋を取り出す。中にはスーパーで買った総菜パン三個と水が入ったペットボトル一本が入っている。
パンの包装紙を開けてモソモソとパンを食べつつ、水で喉を潤す。
食べ終えると、包装紙と飲みかけの水を次元収納に突っ込む。そして開いたレジ袋の中に、ここまでに入手したモンスタードロップ――イボガエルの革、ドグウの粘土、コボルドの卑金球を入れた。
「ビニール袋に半分か」
帰り道でモンスターを倒してドロップ品が手に入ることを考えると、ここは引き返した方がいいかもな。
「次元収納の容量の少なさがキツイな」
鉄パイプを中に入れている関係で、容量がカツカツだ。
なら鉄パイプを捨てれば良いじゃないかと思うだろうが、RPGゲーム的に考えると、予備の武器はあったほうが良い。もし何らかの失敗でメイスを失うことがあった場合、鉄パイプを捨ててしまえば、モンスターと素手で戦う必要がでてくるんだしな。
探索者の多くがやっているように、俺もリュックを買っておくべきだろうか。でもそれじゃあ、次元収納のスキルを手にした意味が薄れるし。
「これが中世風ラノベなら、荷物持ちの奴隷を買う場面だろうな」
そしてその奴隷に隠された能力があって、俺より大活躍するわけだ。
そんな妄想を広げつつ、俺はレジ袋を次元収納に入れつつ、来た道を引き返すことにした。
魔具のメイスの性能もあり、無事に他の探索者たちの姿が見える地点まで戻ってこれた。
俺はメイスを次元収納に入れ、鉄パイプを出して装備する。そして、モンスタードロップ品が詰まったレジ袋も出して、片手に持つ。
そして分岐の合流地点で出くわした探索者パーティーの後ろを、俺はやや離れてついていくことにした。
前方の探索者たちは、どうやら俺のことを知っているようで、俺の格好とレジ袋を視線や指で示しながら仲間内で笑っている。
ここで「なに笑ってやがる!」とイキリ探索者っぽい発言をしてみようか。
いや、より小物感を出すために、ここはモンスタードロップが詰まったレジ袋の中を見てニヤつく方が、らしいんだろうか。
そんな愚にもつかないことを考えていると、探索者たちと俺が進む道の先にモンスター、ドグウが二匹いた。
前方の探索者たちの装備は、総手作業か機械打ちかは分からないものの、日本刀を全員が持っている。
あの装備なら容易く倒せるだろうなと思って見ていると、探索者たちは俺の方を意味深に一瞥してきた。
あの目はどういう意味かと疑問に思っていると、探索者たちは急に走り出した。
なぜ走り出したのか、さらに疑問が重なる。
もしかして俺の後ろにモンスターがいるのかと後ろを振り向くが、どこにもモンスターの姿はない。
どういうことかと、もう一度探索者たちの行動を見直して、ようやく俺は理解した。
「ドグウの横を通り抜けていきやがった。なるほど、戦わずに避けることができるってわけか」
モンスターは、人間を発見すると襲ってくる性質がある。
だから普通はモンスターから逃げだしても、追いかけられるだけだ。
しかし簡単に逃げ切れる例外がある。
例えば、囮を一人残して逃げるとか、別の探索者に擦り付けるか。
今回の場合は、後続に俺という人間がいるため、探索者たちが横を通り過ぎて逃げ去っても、ドグウはより近くにいる俺を狙って行動を開始するだけ。
「まあ、モンスタードロップが増えるからいいけどな」
俺はレジ袋を地面に置くと、鉄パイプでドグウの片方を乱打していく。
鉄パイプが当たる度に、素焼き色のドグウの身体にヒビが入る。
仲間のピンチを助けようと、もう一匹のドグウが近寄って攻撃しようとしてくるが、俺はそのドグウを強く足裏で蹴りつけて吹っ飛ばす。
蹴り飛ばされて地面に転がるドグウから視線を切り、もう一体のドグウへの乱打を続ける。
十発ほど追加で叩いた頃、ようやく一匹目のドグウが薄黒い煙になって消え、粘土を落とした。
「ふう。もう一体」
乱打で上がった息を整えつつ、倒れた状態から起き上がったドグウへ、鉄パイプの乱打を浴びせかける。
程なくして、そのドグウも薄黒い煙に変わった。
そして出てきたモンスタードロップは、レアだった。
「欲しかったドグウの手甲が出た! よしよし、儲け儲け」
拾ってみると、手の甲から肘あたりまでを覆うタイプの手甲で、ドグウの身体と同じ素焼き色の装甲板が複数枚ついている。
左右一対のそれを装備してみると、手の皮膚に吸い付くように、ぴったりとフィットした。
手首を曲げ伸ばししたり回してみたりするが、うまい具合に装甲板を配置してあるようで、手の動きが阻害される感触はない。
「これで少しは防御力がマシになったな」
試しにダンジョンの壁面を手甲で叩いてみると、かなり硬質な音が響いた。素焼き板のような見た目の装甲板だが、壁を叩いても傷一つないので、確かな防御力があるようだ。
防具とはいえ魔具なので、手甲の装甲板でモンスターを叩いてもダメージを与えられることだろう。緊急時に使う武器としてなら、及第点はあるはずだ。
「これでまた、チャートを一つ先に進めることができるな」
この手甲が手に入ったのなら、鉄パイプはお役御免だ。
魔石で鉄パイプを進化させた魔具メイスを他人に知られるのは拙いが、ドグウの手甲はドグウのレアドロップなので知られたっていい。
だから所持武器をカモフラージュする役目を、鉄パイプから手甲に移しても問題はない。
「探索中は、鉄パイプを捨てる分だけ、次元収納に余裕ができるぞ」
俺はこれからの事を考えながら、地面に置いてあったレジ袋を拾い上げ、地面に落ちているドグウの粘土を拾って袋の中に入れる。そして今日でお役御免となる鉄パイプを使い潰す気で、出くわすモンスターを叩き潰しつつ、ダンジョンの出入口に向かって歩いていった。




