百三十五話 三匹一組の区画へ
三匹一組でモンスターが現れる区域に入ると、今まで見かけていた他の探索者の姿がめっきりと居なくなった。
「戦っている音は、二匹一組の区域の方からしか聞こえてこない。ってことは、ここから先に他人は居ないってわけだ」
ここからは安心して、次元収納以外のスキルも大っぴらに使っていけそうだ。
さっそく、治癒方術のリジェネレイトを自分自身にかけておく。
こうして未探索通路の解明に入ったわけだが、さっそくモンスターがお出ましだ。
「オークマッシャー二匹と蔓人一匹の組み合わせか」
この三匹ならどう戦うだろうかと予想する前に、向こう側が先に動きだした。
オークマッシャー二匹が先を進み、蔓人が後ろからついてくる配置。
オークマッシャー二匹は、振った際にお互いの戦槌が当たらないようにか、一人分の距離を空けて並んで歩き。その空けた部分の向こう側に、蔓人がいる感じだ。
「オークがメインアタッカーで、蔓人が遊撃なポジションだな」
向こう側の戦い方としては、蔓人が伸ばした腕で敵を拘束して動けないようにし、オークマッシャー二匹の打撃力を敵に叩き込むことが理想だろう。
ということは、俺はその逆になるように動けばいい。
蔓人に捕まらないようにし、オークマッシャーの攻撃を当たらないようにしながら、反撃で戦力を削っていく。
その方針が立てば、痕は実行に移すだけだ。
「まずは、俺から見て左側のオークだ!」
俺はメイスを構えて、自分からオークマッシャーに攻撃を仕掛けに行く。
俺に狙われた方のオークマッシャーが、牽制のために戦槌を振るってくる。
その攻撃の軌道を予想し、俺は走りながら状態を少し屈ませることで、戦槌を避ける。
俺が攻撃可能な圏内に入って、ようやくもう一匹のオークマッシャーと蔓人が動きだす。
しかし俺が攻撃を繰り出す方が早かった。
「食らえええええ!」
走る勢いと、全開の腕力を乗せての、メイスの一撃。戦槌を振ったことで防御が疎かになっている、オークソルジャーの頭に命中した。
頭蓋を粉砕する手応えの後に、衝撃によって首の骨が折れる音が聞こえた。
明らかに致命傷だったのは、俺が攻撃したオークソルジャーが即座に薄黒い煙に変わったことからも分かる。
俺はメイスを振るっても走る足を止めず、その薄黒い煙の中を突き進んで突破し、蔓人の方へと駆け寄っていく。
まさか俺が止まらずに駆け抜けるとは思ってなかったのか、もう一匹のオークマッシャーが慌てて追いかけてくる足音が聞こえる。
蔓人の方も、むざむざと俺を接近させたりはしないようで、腕を鞭のように伸ばして攻撃してくる。
しかし蔓人の打撃は、この新しい革ジャケットの防御力を突破できないことは証明済み。
俺は蔓人に殴られながら、接近を果たす。
「砕けろおおお!」
蔓人の急所は、胴体を構成する蔓の奥にある核のようなもの。中身を暴いたわけじゃないので、その核がなんなのかは知らない。だけど、その核となる部分を破壊すれば倒せることは分かっている。
俺は勢い良くメイスを振るい、蔓人の胴体部を力強く殴打した。
蔓人の身体にある蔓を押し込む手応えの後に、枯れ枝を折ったようなパキリという音がした。その直後、蔓人は薄黒い煙に変わる。
これで残るは、オークマッシャー一匹。
もうこうなれば、消化試合も同然だ。
俺は悠々と戦い、そしてオークマッシャーは薄黒い煙となった。
ドロップ品を回収し、その後も未探索通路の解明を行っていく。
色々な組み合わせで、三匹一組のモンスターたちと戦っていく。
盾恐竜三匹編成が、倒すのに時間がかかるという点で厄介ではあるけど、糧なさそうだったり怪我したりといった感じの問題はない。
そんな感想を抱きながら戦っていると、早々にレアドロップ品を得ることができた。
今回のレアドロップは、盾恐竜から出てきたものだ。
「盾恐竜って名前だから、盾がレアドロップ品って、安直だなあ」
俺は苦笑いしながら、盾恐竜の盾を拾いあげて観察する。
人の上半身を覆えるぐらいの大きさの盾。その裏側は木で出来ているが、表面は盾恐竜の革を何枚も張り合わせたもののようだ。
というか、盾の表面にあるのは、盾恐竜の顔そのままだ。
「大きさが実物の顔と違うから、盾恐竜の顔に見えるよう、革を調整しながら貼り付けたんだろうけどさ」
円形の盾の縁に盾恐竜の襟巻を配置する念の入れように、俺は思わず苦笑してしまう。
「ゴルゴンの盾っていう例もあるから、怪物の顔を模した造形はされて当然なのかもしれないな」
しかし、盾恐竜の顔のある盾は、ちゃんと実用可能なものなのだろうか。見た目だけなら、芸術品だと思うけど。
俺は試しに、盾の表面を拳で軽く叩いてみた。
分厚い革の感触があるが、革の裏にあるはずの木材の手応えは感じない。
次に俺は、次元収納から自作の粗製ナイフを取り出して、盾に斬りつけてみた。完全手作りなナイフなので、ダンジョン内でも一応の攻撃力はあるはずだけど、まったく傷がつかなかった。
それならと投げナイフで試してみるが、こちらは薄い線は入ったが、傷までには至らなかった。
この結果から、ちゃんとした防御力があることが証明された。
でも、俺は盾を使わないし、日本の探索者も日本鎧が主流なのでこの手の盾は使わない。
「使い道がないから、オークションで売却だな」
盾を次元収納に入れて、俺は未探索通路の解明に戻ることにした。