百二十八話 ゴーレム
第八階層の中層域。
ここに出てくるモンスターの中で、俺がまだ戦っていないのは、あと一種類――ゴーレムだけとなった。
では戦ってみようと、ゴーレムを探していると、発見した。
その姿を見て、俺は首を傾げる。
「アニメに出てくる、ロボットの搭乗ポーズ?」
カットインし入ってくる方の登場ではなく、パイロットが路上とかで乗り込む方の搭乗こと。
つまりは、片膝立ちになっている感じの格好をしていた。
しかし俺が近づいていくと、ゴーレムは片膝立ちを止めて立ち上がった。
「お、おおお!?」
俺の口から思わず、ゴーレムの大きさに対しての驚愕の声が漏れてしまう。
なにせ、このゴーレムは全長が三メートルを超えているし、横幅も二メートルはありそうな体格だ。
そして身体の素材は岩で出来ているっぽくて単色ではあるが、全体的に四角い造りになっている。
つまり、かなり見た目がロボットっぽい。
「ムセる系のロボットと同じぐらいか、ちょっと小さいぐらいか?」
ゴーレムの頭部は人間のものに似せて作られているので、タコのような丸い頭部じゃない。それに脚にローラーがないので、あのロボットっぽい見た目ではない。あくまで、大きさはという話だ。
俺がそんな観察をしている間に、ゴーレムは立ち上がり終わり、さらには拳による攻撃を繰り出してきた。
ああ、腕にも発射機構はないから、普通のパンチだ。
「これを生身で相手って、外伝作品の主人公になった気分になるな!」
生憎と俺の手にある得物は、対物ライフルではなくて、十字架ヘッドのメイスだけどな。
俺はメイスを握り込みながら、ゴーレムの振り下ろしのパンチを余裕をもって避ける。ゴーレムのパンチが石畳の地面に当たり、高い場所から岩を落としたような、重々しい音が響く。
ゴーレムの動きが大袈裟で避けやすいのが救いだが、こんな威力のパンチを食らったらひき肉を超えてペーストになってしまいそうだ。
「それで、防御力はっと!」
パンチを石畳に当てたことで、ゴーレムの頭の位置が下がっている。俺は渾身の力で、その頭にメイスを叩き込んだ。
人間の形を模して頭部と首が作られているからか、メイスを横振りでコメカミ部分へ当てたところ、ゴーレムの首から石が割れるような音が響いた。しかし一発で首が破断して頭がポロッといくほど、脆弱な作りではないみたいだ。
俺はゴーレムの攻撃範囲内から素早く退避し、殴り下ろした上体を戻すゴーレムの様子を伺う。
ゴーレムは、頭部を殴られた上に首にダメージが入ったからか、少し頭の据わりが悪いように見える。
もう一度頭を殴れば、首を砕くことが出来るかもしれないな。
俺は頭部を狙うべく、もう一度ゴーレムにパンチをさせようと、徐々に近づいていく。
しかしゴーレムも、自分の頭と首にダメージがあることが分かっているのだろう、不用意に打ち下ろしのパンチをしてこない。
それどころか、膝辺りを平手で払う感じの動きで、攻撃してくるようになった。
俺の頭部は、ちょうどゴーレムの太腿の付け根に位置している。
ゴーレムの平手による振り払い攻撃でも、十分に命中させられる。
「けど、腕の重量による慣性で、勢いが突きすぎているぞ!」
ゴーレムは片手をブンと振るうと、逆の手を振るい始めるまで数秒の時間がかかっている。
その数秒さえあれば、ゴーレムの脇を抜けることも、そして背後から飛びつくことだってできる。
「ぐっぬっ。ロッククライミングは、初体験、だけど!」
一度メイスを次元収納に入れてから、ゴーレムの背中へと飛びつき、背中と腰にある繋ぎ目に足をかけながら、俺は自分の身体をゴーレムの上半身を上る。
十秒経たずに頭部まで登攀し終えたところで、自分の両腕でゴーレムの顔を左右から挟むように抱え込む。格好的には、ゴーレムにおんぶされた上体で、俺が後ろから頭を抱えている感じだ。
「でだ、俺の全体重をかけた捻りを入れたら、お前の首は保つかな?」
俺はゴーレムの頭を抱えたまま、体重を前へと駆けながら、横向きに捻りを入れていく。
俺が何をしようと思っているのか、ゴーレムも分かったのだろう。ゴーレムが、頭にいる俺の体を掴もうと手を伸ばしてくる。
しかし、俺の体にゴーレムの手がかかる前に、俺の体重を全支えしているゴーレムの首が悲鳴を上げた。
バキリという音を立てて、ゴーレムの首が折れた。いや、折れたというか、ヒビが入っていた部分から砕けたっぽい。
そして、首が砕けたということは、胴体と頭が離れるということ。
さらに言えば、俺はゴーレムの頭を抱えた状態で、全力で地面へと倒れ込もうとしている状態だ。
以上の二点から導き出される答えは、俺はゴーレムの頭を抱えたまま墜落することになった。
「ぐえっ――」
地面に背中から落ちて、自分の重量とゴーレムの頭分の重量が、背中へのダメージに返還された。追加で、ゴーレムの頭が俺の腹にめり込むオマケ付き。
新しいジャケットの防御力のお陰で痛みはないものの、落下した衝撃と腹を押されたことで、呼吸がし辛くなる。
「ふざけ、地面に落ちた後で、煙に変わるなら……」
俺の目の前で、頭部を失ったゴーレムと、俺の腕の中にあったゴーレムの頭部が薄黒い煙に代わって消えた。
もう少し早く煙になってくれていれば、地面に落下するのは仕方ないにしても、ゴーレムの頭部分の追加ダメージは食らわなくて済んだのに。
俺はヘルメットの中で大きく呼吸を繰り返し行い、呼吸が自然にできるまで回復させる。
「はー、落ち着いた。それでドロップ品はっと」
俺の身体の近くにないので、頭部からドロップ品が出るわけじゃないみたいだ。
ゴーレムの体があった方向へ目を向けると、謎の機械があった。
金属とパイプと歯車で構築された、印象的には心臓の形に似せた造形にしたバイクのエンジンっぽいもの。
「でも、ガソリンエンジンじゃないし、モーターエンジンでもない、謎の機械なんだよな、コレ」
この用途不明の謎の機械。ドロップ品として発見されてから、現在も継続して調べられているものの、よく分からない機械としか分かっていない。
一応、希少金属や地球にはない金属が含まれているそうで、鋳潰しての需要があるので、高値で売れはする。
「しかしなあ……」
バイクのエンジンぐらいの大きな謎の機械の塊だ。重さも、見た目相応にある。
普通の探索者なら荷物になるから嫌がるし、次元収納スキル持ちにしてもレベル一だと容量に入りきるか微妙な大きさだ。
つまり、次元収納スキルのレベルが二以上ないと十分な量は回収できない、需要はあるのに入荷は少ないドロップ品ということだ。
「これはイキリ探索者ムーブをするのに、絶好のドロップ品では?」
入荷が少ないドロップ品を大量に持ち込んで、儲けた儲けたと『俺スゲー』する。
それも一日だけじゃなく、連日にわたってだ。
これは、なかなかに嫌なイキリ探索者じゃなかろうか。
「中層域の通路を解明するのが、楽しみになってきたな!」
俺は、三種類のモンスターとの邂逅も果たしたしと、第八階層の中層域に広がる未探索通路を解明する作業に入ることにしたのだった。




