百二十六話 防御性能の検証
とりあえず、ジャケットの考察を切り上げて、実際の性能のチェックに入ることにした。
俺は自分に治癒方術のリジェネレイトをかけてから、第六階層の浅層域にいる変異グールと戦うことにした。
どうして変異グールを選んだかというと、変異している部位によって変異グールの攻撃力が違うため、防御力の比較実験がやり易いからだ。
まず出会った変異グールは、頭部が巨大化した個体だった。
手足の攻撃力は普通のグールと同じで、大きな頭にある大きな口による噛みつきが強力な相手だ。
俺は噛みつかれないよう動きながら、変異グールの手足による攻撃をわざと体で受けてみる。
「なんというか、分厚いゴム越しに叩かれているような感じだな。弱い衝撃だけ通ってくるが、痛みはまったくない」
次の検証は噛みつかれるべきなんだろうが、防具にグールの唾液を付けたくないので、別の攻撃力の高い変異グールで検証を引き継ぐことにした。
だから頭部が大きな変異グールを、俺はメイスで叩き潰した。ドロップ品の謎の錠剤を次元収納に入れて、次の変異グールを探す。
何度かオオアルマジロと戦った後で、今度は腕部が肥大した変異グールに出くわした。
この変異グールは、見た目通りに腕力が高い。殴られた祭の衝撃は、ヘビー級のボクサーぐらいあるはずだ。
俺は変異グールに近づき、そして自分の腕で変異グールが振るってきた腕を防御してみた。
「それなりに衝撃はくるが、かなり軽減されているな」
ヘビー級のパンチが、並みの成人男性のパンチぐらいになっている感じだ。
今度は胴体で受けてみると、さらに威力が軽減されて、子供のパンチを食らったぐらいになる。
どうやら、この革の全身ジャケットは、腕の部分の革は動きやすさを保つために薄めに、胴体部分が厚めに作られているみたいだ。
検証を終えたので、変異グールをメイスで潰した。
変異グール相手の検証は、この二度で十分だ。
次の検証相手は、オーク。
腕力に加えて重たい体重から繰り出される攻撃を検証材料にする。
「んで、戦ってみたところ、大して痛みはないまま終わったな」
たしかにオークの体重が乗った拳は、もろに食らった俺を吹っ飛ばした。
しかし俺の感触としては、強い力でポンと押されたようなもので、痛みや怪我は全くしなかった。
そして、吹っ飛んだ先で地面に背中から倒れたのだけれど、ジャケットの背中側に縫い付けられた毛皮のお陰か、全く背中が痛くならなかった。
以前のジャケットなら、肋骨にヒビが入ったり、落下で背中を撃って咳き込んだりしていたはずなのにな。
オークじゃ検証相手にならないと分かったので、メイスで倒してドロップ品のオーク革を回収し、次の検証相手へ。
第六階層の深層域の、リビングアーマーとマミーマジシャン。
片や剣、片や魔法という、どちらも威力の高い攻撃手段を持つモンスターだ。
まず俺は、リビングアーマーを発見して対峙し、メイスと剣での鍔迫り合いに興じた。
そしてわざとメイスの位置を下げて、相手の剣の刃が俺のジャケットの肩に当たるようにしてみた。
その瞬間、リビングアーマーがスッと剣を引いて、刃でジャケットを斬りつけた。
俺は攻撃を受けたことを確認して、リビングアーマーを蹴りつけて距離を離させた。
その後で、先ほどリビングアーマーの剣が当たっていた自分の肩へと視線を向ける。
鱗状の模様のある表面が少しは切れているんじゃないかと見たが、刃が当たった部分に汚れらしき線があるだけ。グローブをはめている指で撫でてみると、元通りになってしまった。
「リビングアーマーの剣ぐらいじゃ、傷つかないわけか」
そう判明したものの、ズバッと剣で斬りつけられての性能検証はしたくないので、リビングアーマーをメイスで殴って始末した。
そして次の検証相手である、マミーマジシャンへ。
マミーだけあって魔法を放つ際の動きが鈍いため、飛んでくる魔法をギリギリで避けることができる相手だ。
俺は、マミーが放ってきた火の球に自分の脇腹が擦る感じで、避けてみた。
「熱――くもないな。焦げてもいなさそうだ」
マミーマジシャンの魔法攻撃の直撃を受けても、全くの無傷で済みそうな感触だ。
しかし、魔法なんていう危険なものをまともに食らっての検証はしたくないので、俺は次弾を放とうとしているマミーマジシャンをメイスで粉砕して倒した。
「結論。新しジャケットは、もの凄く良い防具で頼りになる」
それこそ、多少乱暴な使い方をしても、すぐにボロボロになったりはしないことが証明された。
これほど良い防具を作ってくれたんだ、ちゃんと岩珍工房にお礼は送っておくべきだろう。
これから俺は、今から夕方の時間まで中層域に戻ってオーク狩りでオーク革を集め、その革を岩珍工房へお礼状とともに贈ることに決めたのだった。




