百二十四話 インタビュー終了
最前線の探索者のスキルレベルを教えてくれたので、江古田記者にはお礼として、俺が予想する新たなスキルの入手方法を教えることにした。
「事前に言っておくが、あくまで予想だ。その通りにしたからといって、本当にそのスキルが手に入るかは怪しいってのは、ちゃんと注意書きをしておけよ」
「もちろんです。それで、新スキルの入手方法とは!?」
江古田記者が食いついてくれたので、俺は未確認の持論を語ることにした。
「身体強化スキルと次元収納スキルには、派生スキルが生える。そして、あの魔女っ娘が火魔法を発見したことで、攻撃系のスキルは身体強化じゃなくても生えることが分かった。ここまではいいか?」
「はい。攻撃系の派生スキルは、身体強化スキルからでてくるもの。例えば、斬撃強化とか打撃強化とかですよね。しかし火魔法スキルが次元収納スキルから派生したことで、その前提は崩れているって話ですよね」
「理解しているなら、話が速い。じゃあ、身体強化スキルと次元収納スキルがそうなら、気配察知スキルにも攻撃系のスキルが生えても不思議じゃないよな?」
初期スキル三つのうち、二つに攻撃系のスキルが派生して生まれる。ならばもう一つにも当てはまるのではないか。
誰だって考えそうなことだが、江古田記者は待ったをかけてきた。
「気配察知スキルを持つ人は、次元収納スキル持ちよりも数が多いです。それこそ最前線の探索者の中にも、一パーティーに一人ぐらいの割合でいるほどです。それにも関わらず、攻撃系のスキルが派生したとは聞いてませんけど?」
事実を元にした疑問に対して、俺は答えとなる予想を持ち合わせていた。
「攻撃系のスキルを入手する条件があって、それを達成していないんだろうさ」
「条件、ですか?」
「俺は次元収納スキル持ちで、魔女っ娘よりも上の階層で戦う探索者だ。しかし俺は、火魔法スキルを持っていない。つまり、火魔法スキルを得るには、次元収納スキルを所持していること以外に、いくつかの条件を突破する必要があるって考える方が自然なわけだ」
「ああ! 魔女の格好をしてないから、ガイコツ仮面さんは火魔法スキルを得られなかった。そんな感じで、気配察知スキル持ちの人の格好が合っていないから、攻撃系の派生スキルを取れてないってことですか?」
「格好もそうだが、武器や行動も条件にあるんじゃないかと疑ってもいる」
「武器と行動が、ですか?」
「俺の武器は、当初鉄パイプを多少改造したもので、次はメイス。だから使っていた武器は、魔女っ娘が持つ杖と大差ない。そのはずなのに、俺には火魔法スキルは得てない」
江古田記者には話さないが、火魔法スキルの代わりに、治癒方術スキルが生えた。
そこで、俺がスキルの巻物で基礎魔法スキルが選べた事例を繋げて考えると、棒状の武器を扱うことで魔法を使う下地は凡そ出来ると考えることができる。
そして火魔法スキルを習得するには、俺に条件が幾つか足りていなかったという予想も同時に立つことになる。
俺は、あの魔女っ娘がどうやって火魔法スキルを得たかについて興味がないので、調べていない。
だから、俺の行動と魔女っ娘の行動の差異についての検証はできない。
そんな検証は、やりたい奴がやればいい話だしな。例えば、目の前の江古田記者とかのような、情報で飯を食っているような輩がやればいい。
だから俺は、俺の予想というヒントを与えることで、検証作業するように誘導する。
「考えられる、差異が生まれた要因は、おおまかに二つ。メイスと杖は、明確に別の武器としてカテゴライズされている。だから俺は火魔法スキルを得られなかった」
「あり得る話ですね。でも杖とメイスが違うというのなら、杖と木の棒も違う種類なのでしょうかね?」
「形状的に似ているのに、名前や素材が違うと別の武器になるのか。俺はそうは思えない。日本刀を使おうと、西洋剣を使おうと、身体強化スキルの派生に斬撃強化スキルが共に生えているって報告があるのが良い例だ」
「そうですね。杖とメイスの違いは、日本刀と西洋剣ぐらいの違いでしかないですよね」
「だから俺が考える、スキルの入手が出来る出来ないという差異が生まれる最も有力な予想は、当人の行動にあるんじゃないかと思うわけだ」
「服装や武器は関係ないと?」
「全く関係ないとは言わない。ただ、魔女っ娘が得たのが『火』魔法スキルって点に、ちょっとした疑問があるんだよな。どうして水や風や土の魔法じゃないんだろうってな」
「分かりました! 次元収納スキルに杖と魔女の服をセットで魔法スキルが得られる条件が整って、萌園さんの行動によって『火』の魔法が選ばれたって感じですね」
江古田記者が、俺の予想に追いついたので、そこから先を語る。
「そういうこと。つまり、似たような派生スキルが沢山あって、本人の行動によって一つに絞り込まれる。では気配察知スキルの人たちは、どんな行動をしたら、戦闘系の派生スキルを得ることができるんだろうな?」
「……えっ!? どんな行動をしたら取れるか、教えてくれる流れじゃないんですか、コレ!?」
江古田記者の抗議に、俺はイキリ探索者っぽくなるよう鼻で笑って返した。
「ふんっ。俺の初期スキルは次元収納スキルだぞ。どうして気配察知スキルのヤツらが戦闘スキルを得られるよう考えなきゃいけねえんだ?」
「いやいや。ここまで、とうとうと持論をぶっちゃけちゃってたじゃないですか!?」
「俺が言ってたのは、俺が次元収納スキルをどう生かすかを考えて気付いた内容だけだぞ。それに関連して、他の初期スキルでも同じことが言えるんじゃないかっていう持論でしかない。詳しくどうこうすればいいとか、俺が持ってもないのに、身体強化や気配察知スキルについて考えているわけないだろ」
「えー。いやまあ、ガイコツ仮面さんが考えたところで、実証のしようがないのは分かりますけど……」
初期スキル三種は、スキルの巻物を使わない限り、別のであろうと重複して持つことができない。
それは、ダンジョンが現れて二年間の間に分かった常識である。
「つーわけでだ。江古田記者は、せいぜい紙面で、気配察知スキル持ちに発破をかけてやれ。お前たちも、魔女っ娘のような貴重な攻撃スキルが生えるかもしれねえってな」
「こんな話を聞かされたからには、そうする気でいますけどね。でもガイコツ仮面さんの事だから、なんらかの行動の指針みたいなのは気付いているんじゃないですか?」
「さてな。ダンジョン系ローグライクゲームで、気配察知スキル持ちのキャラを動かすとしたら、どんな行動をするべきかってのは考えはしたな。俺が探索者になる前にやっていた、情報収集で初期三種のスキルのどれを選ぶかを考えたときにはな」
「そうしたゲーム知識を活かせば、気配察知スキルから攻撃系の派生スキルが生えるかもと?」
「頑張って検証すればいいさ。気配察知スキルを持ってない俺には、一文の得にもならない話だからな」
俺は少し冷めてしまったコーヒーを飲み干してから、江古田記者と目と目を合わせる。
「これで十二分に情報は渡したと思うが、取材は終了でいいよな?」
「えっと。はい、紙面は十分に埋まるかと。というか、何回か分けて連載する分量がありそうです」
「よしっ、じゃあ取材終了ってことで。ほら、謝礼金を出せよ」
「……端金って言ってませんでした?」
「端金であろうと、金は金だ。俺は一円を笑う人じゃねってことだ」
「単にケチ臭いだけじゃないですか」
江古田記者はブツブツと言いながら、茶封筒を一つ手渡してきた。封筒の上には、謝礼金の文字と出版社名が書かれていた。
俺は封筒を受け取ると、ジャケットのファスナーを少し開けて、内ポケットの中へと仕舞った。
その行動が、江古田記者には不思議に映ったようだ。
「封筒の中身を見て、金額を確認しなんですか?」
「しないな。封筒の厚みを考えれば、十万以下なのは確実だ。それぐらいの端金なら確認する必要を感じないな。そもそも、謝礼金を手渡してきた人の目の前で確かめるなんてのは、失礼な行動だったって記憶しているんだが?」
「ええー。その金額kを端金だなんて、絶対思えませんけど」
「江古田記者も、ダンジョンのソロで五階層を突破すれば、同じように考えるさ。一日で何十万も稼げるうえに、独り占めできるからな。真面目に会社員勤めをするのが馬鹿らしくなるぞ」
「……いいえ。記者の仕事が好きなので、ダンジョンに行くことはないですね」
「そうかよ。なににせよ、取材は終わりなんだろ。じゃあ、ここでお別れだ」
俺は伝票を持つと、さっさと喫茶店のレジで会計する。江古田記者が「出版社から出す」なんて言ってきているが、借りを作る気はないので、自腹で払ってしまうことにした。




