百十九話 新装備
第八階層の浅層域を一ヶ月かけて調べ終わった頃、頼んでいた革の全身ジャケットが自宅に届いた。
早速段ボール箱を開封すると、中々に厳つい見た目のジャケットが出てきた。
「基本は盾恐竜の革で、背中側に双頭犬の敷物だった毛皮を貼っている感じか?」
見た目はまさしく、俺が言った通り。
鞣し材でベース色が茶色に変わった恐竜の革は、その鱗状の模様から感じる、ヌメッとした光沢の生々しさがある。
背面の黒い双頭犬の毛皮は、首元、背面、二の腕の裏、太腿の裏までを覆っている。
片や茶色、片や黒と落ち着いた色合いだからか、鱗のある革と毛のある革の取り合わせだというのに、ミスマッチ感じはあまりない。
実際に身に着けてみると、背中に黒く短い毛が生えたリザードマンといった風貌になる。
「これにドクロ面を組み合わせたら、ハロウィンの仮装のような感じになりそうだな。もしくは一度やられたのに復活させられた怪人か」
ぐりぐりと身体を動かして、ジャケットの追従性を確認する。
軽く体を動かす分には、まるで違和感がない。それこそ、肌着やパンツなどの既製服の方が身動きを邪魔しているって感じるぐらいに、着易い感じだ。
しかし着てみて分かったが、ジャケットは表側の革と裏地の革とが違った造りになっていた。
「外側を覆う盾恐竜の革と双頭犬の革は、防御性能を重視して。裏地の革――恐らくオークの革は、着易さ重視って感じなんだろうな」
俺の目には見えないだけで、もしかしたら表と裏地の間に、もう一種類の革が挟まっている可能性もあるかもしれない。
新しいジャケットを堪能し終えたので、一度ジャケットを脱ぎ、段ボール箱に同梱されていた取扱説明書に目を通す。
今までの手入れに加えて、盾恐竜の革の部分には柔らかいタオルでの空拭きを、双頭犬の毛皮の方にはペット用ブラシをかける必要があるみたいだ。
少し手間が増えるようだけど、大した作業ではないな。
手入れの仕方を確りと覚えた後は、いよいよ新たなヘルメット作りだ。
「使用するドロップ品は、浮遊サメの革、リザードマンの鱗、ヒュージスケルトンの骨粉の三種類。今日のために、あらかじめ昨日に東京ダンジョンから帰る際に、次元収納から出して持ってきてましたー」
使用する物を並べ終えたところで、以前にヘルメットを自作した際と同じような作業を行う。
サランラップを顔に何重にも巻き付け、それを接着剤で固めて頭の型をつくる。
その頭の型に沿って、まずは裁断鋏で細切れにした浮遊サメの革を、FRプラスチック用の接着剤で貼り付けていく。
「必要分を革から切り出しただけで、鋏の刃がガタガタだ。砥石で研ぐ必要がありそうだな」
型にペタペタと貼り付けえ終えたら、今度は接着剤と骨粉を混ぜ合わせる。その骨粉と接着剤の複合材を、浮遊サメの革を覆い隠すように一面に塗りつけていく。
その作業が終わって乾燥を待ってから、今度は適度にハンマーで砕いたリザードマンの鱗を全面に貼り付けていく。
貼り終えたら、また骨粉と接着剤の複合材で覆い、乾燥を待つ。
さらにサメ革、複合材、リザードマン鱗、複合材と、同じ作業で塗り固めていく。
そして市販品のヘルメットと同じぐらいの厚みになるよう、骨粉と接着剤の複合材で嵩増しした後、乾燥を待ってから、目元の視界用の穴と顎下の呼吸穴、そしてバイザーの金具を付けるための側面穴を電動ドリルで開けた。
ここで一度かぶってみて、視界と呼吸に問題がないと確認してから、でこぼこした表面がなだらかになるまで、粗い番目から順に細かい番目の紙やすりで削っていく。
細かい番目の紙やすりまで削り終わると、なかなかに良い丸み具合のヘルメットになった。
コート剤のスプレーを吹きかけて乾燥を待って、今まで使ってきたヘルメットから、バイザー用の金具を外して新しいヘルメットに移植。
そしてバイザーとしてくっ付けるものは、ヒュージスケルトンのレアドロップ品のガイコツのお面。
「目の部分の穴は、今まで使ってきたカマキリのお面の目の部分を移植しようか」
慎重にカマキリの面を少し壊して、目の部分にある半透明な覆いを取り外す。それをガイコツ面の裏側に接着した。
これで、あとは硬質スポンジを切り出して、ヘルメットの内側にはめ込めんで――完成だ。
俺は試しにと、新しいジャケットとヘルメットを装着して、洗面所の鏡に映してみた。
「こうして出来上がったのは、恐竜の身体と犬の背を持つ、緑目のガイコツ人間。嫉妬の怪物だな、これじゃあ」
とにもかくにも、新しいヘルメットは出来上がった。
明日からは、この格好で探索者活動を行っていこう。前よりコスプレ感じが強いのは、気にしないようにしよう。




