百九話 順調に
深層域の探索は、メイスが有効なモンスターばかりなこともあって、順調に進んでいる。
モンスター二匹一組を相手にしても、まだまだ余裕を持って戦えているので、このままの調子で三匹一組の区域まで足を延ばす予定だ。
そうしてモンスターたちと戦う中で気付いたことがある。
メタルマネキンって、実はモンスター側にとっても厄介なモンスターなんじゃないかって。
「魔力弾」
メタルマネキンと浮遊サメの組み合わせと出くわした直後、俺は二匹に向かって五指から一発ずつ魔力弾を放った。
どうして魔法が効かないメタルマネキンにも魔力弾を撃ったのか。
その理由は、魔力弾がメタルマネキンの体表に弾かれ、サメへと命中したことでわかるだろう。
「やっぱり。反射するからには、他のモンスターに当たったりすることもあるよな」
メタルマネキンの身体は、模した人間の身体がそうであるように、局面が多い造りになっている。
そしてメタルマネキンの体表は、鏡面が光を反射するのと同じように、魔法が当たった角度と体表面の傾きによって変わる。
そのため基本的に魔力弾を真正面から打ち込むと、大抵が斜め前方へと弾き返すようになっている。
つまりメタルマネキンに命中した魔力弾は、決して俺に帰ってくることはなく、メタルマネキンの前方周辺にまき散らされることになる。
だから俺とメタルマネキンの間に他のモンスターがいた場合、そのモンスターの背後にメタルマネキンが跳ね返した魔力弾が飛んでくる形になる。
さらに付け加えると、反射しても魔力弾は探索者側の攻撃だと認識されるようで、魔力弾を後方から受けたモンスターは攻撃されたことに警戒して後ろを振り向いてしまうようだ。
結論、先ほどの俺が魔力弾を放ったことによって、メタルマネキンの体表に反射された魔力弾が浮遊サメに当たり、浮遊サメはメタルマネキンの方へ振り返って無防備な姿を晒す。
その隙を、俺はメイスで突く。
「おりゃああああああ!」
渾身の一撃によって、浮遊サメの頭蓋骨と背骨の間を叩き折る。サメはすぐに薄黒い煙と変わって消える。
これで後はメタルマネキンだけなので、その頭を叩き潰して、勝利だ。
さてドロップ品の回収だと、メタルマネキンの複合金属の延べ棒を次元収納に仕舞い、次に浮遊サメのドロップ品を回収する。
「サメ革じゃないってことは、レアドロップ品か」
俺が拾い上げたのは、持ち手にハンドガードが付いた、シャフトが短いオールのようなもの。
片手で持てるぐらいに軽く、そして観察するとオールのブレード部分の側面にサメの歯がびっしりとついている。
ハンドガード部分も合わせて、剣を模した工芸品のように見える。
「もしくは、ハンドチェーンソーだな」
まさかなと思いながらも、魔槌を機動させるときの要領で、このドロップ品に意識の力を込めてみた。
すると、連続したサメの歯のある部分が、ブレードの縁に沿って静かに回り始めた。
どうやら本当にチェーンソーだったようだ。
「魔具なんだろうけど、武器として使えるのか、コレ?」
漫画やラノベなら、チェーンソーを使って戦うキャラはいくらでもいる。
しかし現実的に、こんな諸刃の剣以上に使い手を傷つける可能性がある道具は、戦闘では使い難いんじゃなかろうか。
ダンジョンの外でも歯が回転してくれるのなら使い様も出てくるだろうが、基本的にスキルも魔具もダンジョンの外じゃ働かないしな。
「魔石をくっ付ければ、ダンジョンの外でも動くかもしれないけど。第七階層まで来ないと、魔石は手軽に補充できないしなぁ」
このサメ歯チェーンソーは使い処がないので、売却するしか活用法がないと分かった。
俺は手にあるサメ歯チェーンソーを次元収納に入れ、更に通路を奥へと進むことにした。
二匹一組が問題なかったので、三匹一組の区域へと踏み入る。
こちらも基礎魔法と治癒方術を駆使すれば問題なかったので、四匹一組の場所へと入っていく。
その直後、俺は調子良く入り込んだことに後悔することになった。
「まさか浮遊サメが四匹一組ででてくるなんて」
俺の呟きが聞こえたのか、空中にいるサメたちがこちらに泳いでくる。ご丁寧なことに、上下に二匹二列を作ってだ。
四匹が揃って大口を開けて突き進んでくる光景は、ニュース番組で見たことのある、トンネル用シールドマシーンの先端部を思い起こさせる。
「避けるのも大変そうだな」
四匹のサメは、通路の端から端までを身体で埋めているわけじゃない。だから、退避できる隙間はある。
しかしその隙間を使って回避する際に、サメが大人しく通過させてくれるだろうか。いや絶対に尾っぽの一撃を繰り出してきて、こちらを吹っ飛ばそうとしてくるはずだ。
吹っ飛ばされてしまった後で体勢を立て直せなかったら、あとはサメ四匹かかりで噛みつかれてしまうだろう。パニック系のサメ映画にでてくる被害者のように。
「それはゴメンだな――魔力弾、魔力弾、魔力弾」
俺は何度もバックステップを踏みながら、左手の五指から魔力弾を連続発射する。
一度で連続五発ずつの魔力弾を、何度も何度も浮遊サメへと打ち込む。
その戦法で一匹、二匹と倒し終わったところで、彼我の距離が接近戦の距離にまで縮まっていた。
「残り二匹ならば!」
メイスで戦えると判断し、俺は浮遊サメの片方の頭へメイスを叩き込んだ。
これまで散々倒してきたので、倒し方のコツは掴んでいる。
メイス一発の攻撃で、サメの頭蓋を破壊して脳まで叩き壊す。
俺が殴りつけた一匹が薄黒い煙と変わり出したとき、その煙を打ち払うように、生き残りのサメが尾っぽを振るってきた。
「危ねッ」
俺は咄嗟にメイスの柄で、サメの尾っぽの攻撃を防御した。
サメの肌にある鱗によって柄がザリザリと削られる音を聞きながら、俺は少し後ろへと弾き飛ばされる。しかし弾かれた先で、ちゃんと着地に成功した。
こうして一対一になってしまえば、もう戦いは楽だ。
俺はサメが空中を泳いで噛みつきに来るのを待ち、カウンターでのメイスの一撃で頭部を破壊した。




