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閑話 話題のイキリ探索者

 ここ最近、東京ダンジョンに通う探索者たちの中で、有名になりつつある探索者がいた。

 その探索者は、俗に『勘違い野郎』や『無能イキリ』と呼ばれつつある、二十代の外見の男性だ。

 どうして悪い方向の仇名が付けられるほどに有名なのかというと、彼の態度に問題があった。

 他の探索者を見かけるや、自分の方が偉いだの強いだのとマウント行為をする。

 親切心からの助言やパーティー要請も、聞く必用はないという態度を崩さない。

 そもそも、探索者として情報収集をちゃんとしているのなら、ダンジョンに入るのに市販品のツナギを着たり、鉄パイプを武器にしたり、モンスタードロップが『ない』最浅層に足しげく通うなんて、あり得ない行動はしない。

 もっと言ってしまうと、その男性は、現在主流となっているダンジョンの攻略チャートに一ミリも従っていないという、あり得ない存在である。

 そうした諸々の行動を見て、東京ダンジョンに通う探索者の多くが、真面目にダンジョン攻略する気のない新人探索者だと判断した。

 ダンジョンに行ったことがあるとか、魔物を倒したことがあるとかを風潮して偉ぶりたい馬鹿は、いままでも多くいた。

 それと同類なのだと判断し、探索者の多くは件の男性の陰口は言いつつも、関わることを止めることにした。


 多くの探索者にとって、件の男性は取るに足りない存在であると確定した。

 しかし探索者の中には、その男性の行動を訝しんだ者もいた。

 その少数の探索者が疑問に感じたのは、男性の態度や言動ではなく、どうして最浅層に通い続けているのかだ。

 なにせ一度モンスターを倒せば、余程の馬鹿でもわかるはずなのだ。最浅層に出るモンスターは、倒しても何も残さないことをだ。

 件の男性は、何度となく最浅層に通っているため、そのことは分かっているはず。なのに毎日のように足繫く通っている。

 その理屈の合わない行動に、少数の探索者は興味を持ち、調べてみることにした。


 件の男性の行動を疑問に思った探索者の中で、とある数人が組んで最浅層の道を進んでいく。

 出くわした、レッサーゴブリン、ミドルマウス、メルトスライムを一種類ずつ倒し、なにも落とさないことを再確認する。

 進んでいく通路に隠された道がないかも合わせて確認するが、それもない。

 一時間ほど道を進み続け、とても弱いモンスターを倒し続けたところで、ようやくメルトスライムがモンスタードロップを落とした。

 小瓶に入った溶解液を見て、探索者たちは驚きと納得を得た。


「知ってたか? 最浅層ここのモンスターは、レアドロップだけは落とすみたいだぞ?」

「そうみたいだな。これは新発見だな」


 ダンジョンが現れて二年も知られなかった新事実に、探索者たちは色めき立つ。

 その中の一人が、ふと思いついたことを口にする。


「なあ、もしかしてだけど。あのイキリ探索者。このレアドロップを狙って、ここに通っているんじゃないか?」

「一時間で一つ落ちるものをか?」

「いやさ。あいつ、知らないんじゃないか? 普通のモンスターには、倒すと通常のドロップがあるってこと」

「……あり得るな」


 件の男性は、ダンジョンについてのことを全く調べていない様に見える。

 本当に調べていないままにダンジョンに入ったのなら、モンスターがドロップ品を落とすことは稀であると、そう勘違いしていても不思議じゃない。


「ゲームじゃ、モンスターを倒しても基本的に経験値と金しか入らない作品なんか、ざらにあるしな」

「つまりイキリ野郎は、ドロップ率を勘違いしているから、ここに通っているってわけか?」

「むしろ、他に探索者が来ない場所だからドロップ品が取り放題、とでも思っているのかもしれないな」


 探索者たちは、新発見には驚きがあったものの、件の男性の行動を深読みする意味は薄かったと結論付け、来た道を引き返すことにした。

 レアドロップは落とすという新発見があった収穫と、この行き帰りで都合二時間も人生を無駄にしてしまったなと笑い合いながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] もっとしっかりがっつり調査されて隠し部屋見つけられなくてよかったあ
[気になる点] 「必要」「必用」の意味と違い: 「必用」と「必要」は、「何かがなくてはならない」という点で違いはありません。しかし、具体的な使われ方には違いがあります。 「必用」は主に「ものの使用」に…
[一言] 侮られているからこのくらいの調査で済みましたね
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