百七話 モンスターの特色
第七階層の深層域に入り、まずは一匹だけでモンスターが現れる場所を巡る。
空中浮遊するサメは戦ったので、別のモンスターと戦いたい。
そう思っていると、通路の先に新たなモンスターがいるのが見えた。
「総金属性の、動くマネキン。メタルマネキンか」
人間の大人ほどの背丈のある、顔の造形がされてない、鈍い艶を放つ金属の体。
生き物であるはずがないのに、ごく普通に人間のような動きで、こちらに近づいてくる。
見るからに硬そうなので、牽制で魔力弾を打ち込んでみることにした。
今までのモンスターなら、これで大怪我を負わせて、戦いを有利に薦めることができてきた。
そんな実績のある戦法を使ったのだけど、俺の予想に反して、魔力弾はメタルマネキンに当たった瞬間に横に弾かれた。
「……はぁ?」
なぜ命中した魔力弾が弾かれたのか。
それは分からないが、なんとなく基礎魔法が通用しないモンスターなんだろうと直感した。
「そういうモンスターもいるわけね」
俺はメイスを構え直しつつ、俺以外の魔法スキルを持った探索者の情報がないんだから、メタルマネキンに魔法が通用しない情報がなくても当たり前だと結論付ける。
そして俺とメタルマネキンは、メイスと金属の身体を打ち合わせての戦闘に入る。
金属同士が打ち合う音が響き、メタルマネキンの身体がベコベコとへこむ。
どうやらメタルマネキンは、魔法に強く、金属の体だから斬撃にも強いはずだが、打撃には弱いようだ。
それなら俺が有利だと判断し、多少殴られても構わない覚悟で、メイスで殴りつける。
俺は体に二、三発の打撃は食らったものの、メタルマネキンの頭をメイスで半分ほどへこませることに成功して、戦いに勝利した。
メタルマネキンが薄黒い煙と化した後、ドロップしたのは複数色のマーブル模様な金属の延べ棒が落ちた。
掌と同じぐらいの大きさと厚さのある延べ棒を、俺は拾い上げて観察する。
「色々な金属が混ざった塊って話だけど、光を当てる角度でも反射の色が変化しているや」
この延べ棒から数ミリ角のキューブを切り出して、ペンダントトップやイヤリングヘッドにすると綺麗なアクセサリーになりそうな気がする。
でも俺はアクセサリーを日常的に着けてないので、この延べ棒は売却するしか使い道がないけどな。
延べ棒を次元収納の中に入れて、次のモンスターを探して歩く。
サメを二匹倒した後、通路の先に他の探索者パーティーを見かけた。
日本鎧姿の四人パーティーで、一匹のモンスターに止めを刺そうとしているところだった。
戦っているモンスターは、体長二メートルほどの大きさのある、二足歩行しているトカゲ。
その見た目から、リザードマンと呼ばれているモンスターだ。
そして戦況はというと、探索者たちのうち二人が、リザードマンを真正面から刀で刺し貫いている。
これは決着がついていると思うのだけど、リザードマンの生命力が強いのか、まだ薄黒い煙に変わらない。それどころか、手を振り回して、探索者たちの鎧に新たなひっかき傷を作っている。噛みつきは、二人の探索者がピッタリと身体をくっ付けてきているため、近すぎて噛みつけるところに顎が届かないみたいだ。
腹部を刺されてもあれだけ元気なら、頭を切り落とすか潰すかしないと、きっちりと止めを刺しきれなさそうだ。
そんな考えを同じく思ったのであろう、探索者の一人がリザードマンの背後に回り、首を狙って刀を振るう。
しかしリザードマンの首にある鱗に斬撃を邪魔されて、数ミリぐらいしか斬りこめなかったようだ。
「この深層域のモンスターは、どれも斬撃に強い種類みたいだな」
浮遊サメもメタルマネキンもリザードマンも、刃物を持つ探索者にとっては厄介な相手だろうな。
そう気付いてから、スマホのアプリでこの深層域のマップを表示させると、第八階層へ進む順路以外が未探索になっていた。
日本の探索者が日本刀装備ばっかりなので、斬撃に強いモンスターと戦いたくなくて、探索を止めて素通りしているんだろうな。
そんな観察をしている間に、戦っている探索者たちは、刺した刀をぐりぐりと動かしたり、背後から首を狙って斬撃を与えたりし続けて、ようやくリザードマン一匹を倒しきった。
なんとも泥臭い戦い方だ。
けれど、日本鎧の防御力でリザードマンの爪を防ぎ、身体を密着させて牙も防いでいたから、ある種洗練された戦い方ではあるんだろうな。
俺は戦い終わって休憩に入る探索者たちの横を通り抜け、分かれ道で順路から外れた道を選んで進む。
するとすぐ先で、リザードマンが一匹いるのが目に入った。
「予習のすぐ後に実習をさせてくれるんて、親切だな」
俺はメイスを構えながら、先ほどの探索者たちの戦い方を見ながら考えていた、自分がリザードマンと戦うのならどうするのかを実践してみることにした。