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ボッチ傭兵と装備充足

 纏まった臨時収入が入って来たので、ガレガルンの鍛冶屋に依頼をしてきた。魔境ガルンの森では猩々の皮とは別に、魔銀の採掘も捗っていた。持ってきた鉱石を溶鉱炉を使わせてもらって溶かし、少量だけ取れる魔銀を溜め込んでいたのだ。それを持ち込んで両手剣を作ってもらうように依頼しておいた。そろそろ装備合成を進めるべきだと思ったんだよ。欲を言えば全装備の枠を増やしてもらいたいものだけれど、何となくこれ以上増える気がしないんだよね。

 更に欲を言えば魔法武器と魔法防具も欲しい。俺は熱に強くなったり毒に耐性が出来たりといった方向には相変わらず弱い。前回の戦で魔術師の集中砲火を食らわなくて良かったと思うよ。流石に物理的に硬くても炎には弱いのよ。あと毒もな。毒霧とか食らってたら周囲の木っ端傭兵と一緒に死んでたかもしれん。解毒用の薬は例の婆さんの所で入手してあるが、これも全ての毒に効くわけじゃない。ある程度有名な毒を解毒する薬でしかないんだし、暗殺の事も思えば優先的に入手しておきたい。

 ゲーム的な思考で言うと状態異常耐性アクセサリーとか欲しいよな。リボンくれよ。オールチェック系のアクセでも良いぞ。

 そう思いながらガレガルンの魔導具屋を具に見て回っているのだけれど、そう上手い事見つからないものだ。王都で探そうかなと思い始めた頃に、宿泊している酒房に騎士がやって来た。誰の配下かと思ったらモンプティ=オーランド卿の従者じゃないか。

 因みに従者というのは騎士に従う兵隊みたいなものだ。その下に小間使いが居るので騎士一人に対して複数人が従う形となるのだが、そんな事よりなんの用だろうな。


「正式に傭兵組合を通して指名参戦依頼だって? 俺を暗殺しようとしたのに?」

「それは……我々の伺い知る事ではない。伝えるべき事は以上だ。失礼する」

「…………」


 黙って睨んでいると、従者がビクリと体を震わせて逃げるように走り去っていった。気に食わないなぁ。いや、クロッカスの件を考えると元々グルだったのかもな。そんでクロッカスが俺に負けたから組む相手を俺に変えたか。どうしようかな。

 元々は実績作りの為に参戦したのだし、それはもう成し遂げた。これ以上は余計な柵が増えるばかりで旨味が無い気がする。此処の魔境も探索が済んでしまったし、他に面白みのある仕事も無い。オーランド卿に貸しを作るつもりもないし、何より関わりたくない。しいて言えば騎士同士の横の繋がりが少しだけ気になる程度かな。つっても騎士程度の繋がりを持ってもなぁ。傭兵上がりの騎士に夢見てる訳じゃないし、そこまで戦馬鹿じゃないし、何より小さい村を領地としてもらっても内政に興味がない。

 うん、デメリットしかないな。お断り案件ですねこれは。思い立ったが吉日と申しますように俺はそそくさと傭兵組合に顔を出して指名依頼を断った。依頼の内容を見ると受けなければならないらしいので有無を言わさず断った。

 どうせアレだろう。逆激侵攻するから手柄を立てる機会をやる。だから俺に従えとか言うんだろう。鏡見て良えってんだ暗殺野郎が。自分を殺そうとした奴に従う人間なんて居ないだろう。仮に居ても、それはただのキチガイだ。断言できるぜ。



 ◇◇



 丁重にオコトワリシマスのお返事をしてから数か月が経った。国軍は順調に北に侵略して領土を拡張しているらしい。この街を経由して様々な拡張領地に物資輸送されるのを何度も見た。俺はその間に装備を何度も作り何度も合成した。戦時中である事が良い隠れ蓑になって、鍛冶屋に変な目で見られる事も無かったぜ。そんな俺の全装備はこちら!


 全装備内

 ・魔星金の全身鎧×7

 ・魔星銀の全身鎧×2

 ・魔星金の両手剣×7

 ・魔星銀の両手剣×2


 表面上の装備

 ・猩々革の全身防具セット

 ・魔星銀の両手剣

 ・各種魔道具

 ・防毒のアミュレット


 魔星金装備が若干増えて武器も防具も七つ揃える事に成功した。また硬くなったぜ。そういえば、あれからまた暗殺されかかったんだが、今度は魔術師の暗殺者だった。予め歯に仕込んだ解毒剤を使っていたから毒霧は防げた。一つお互いに驚いたのが、魔星金を始めとした魔力を纏う鎧というのは、魔法に対する防御力も著しく上がるらしい。

 蛇のように襲い掛かって来た炎の帯は俺を焦がすことなく霧散した時には、思わず笑っちまったぜ。お陰様で防毒のアミュレットを暗殺者から入手できたのは幸先良い結果だった。もっと暗殺者を送り込んでくれて良いのよ!ギブミー装備!

 そんな事を繰り返しつつ日々を過ごせば、いつの間にか年を越していた。俺も十四歳になったよ。そういえばと思い立ってシスターに手紙を送る事にした。傭兵組合は情報の遣り取りにも気を遣っているので、結構簡単に手紙を送る事が出来る。魔鳥を使役して遠方の街に届けるのだとか。その分お高い郵送料になるのだけれど、日々魔境に潜る俺には端下金に過ぎない。猩々の皮っていいお値段で売れるんだぜ。ぐへへ。

 そんな訳で今の目標は全装備内が全て魔星金になる事だな。それを達成出来たら他の街に向かおう。この国は好戦的だから、南や東に行っても小競り合いの戦地は存在する。そこで戦場傭兵をまたやってみるのも良いだろう。一匹狼だからこそ出来る自由度だな。

 ボッチ傭兵等という言葉が浮かんだが、実際に徒党を組む傭兵は少なくない。だが、一人でいる傭兵の方が圧倒的多数だ。知り合いが増えやすい傭兵だが、その実、信頼できる相手というのは早々出会えない。命を預けられる仲間か、もしくは金払いの言い傭兵頭に従うかのどちらかじゃないと徒党を組んだりはしないんだぜ。

 傭兵なんてのはその日暮らしが当たり前だし、俺みたいに装備強化に邁進してる偏屈な奴なんて殆ど居ない。傭兵としてやっていけるだけの天恵は戦うためのものばかりだからな。装備に関する天恵を得たらほぼ確実に鍛冶屋を営む。

 要するに天恵によって人々の生活スタイルが大きく変わるんだ。前に上げたようなしょうもない天恵が多くを占めるが、本当に有用な天恵は人生を決定づけてしまう。

 本当は県の道に行きたかったのに、裁縫をするために服屋を始めたりしてる奴も居る。俺だって天恵が全装備じゃなく、料理に関するものだったら飯屋を開いていただろう。それくらい天恵の力は運命力が高い。

 だから同じ傭兵であろうとも、天恵の僅かな違いがスタイルに大きな影響を及ぼして、同行できない間柄になってしまうのだ。こればっかりは神か運命を恨むしかないね。

 そんな俺のスタイルは魔境潜りが基本だ。戦場働きしてチヤホヤされたい傭兵からしたら真面目君呼ばわりされるのが目に見えてる。だから俺は一人なんだよ。



 ◇◇



 新しい年になって温かくなってきた頃、俺の目標は達成を見た。魔星金セットで全装備内を揃えた俺は街を出たのだ。向かう先は南東の地。大河を二つ超えた先だ。

 現在地はハラル川とミランザール川の間にある街で、二つの皮の源流が流れている地でもある。西の山脈から流れた清流はやがて大河となって国を四つに分ける大河の内の二本に変化していくのだ。俺が向かう先は四つに分かれた地域の最も東の地だ。

 東の地も此処と同じように侵略が繰り返されているという。大昔は東のボート側を国境として争っていたそうだが、いつしか川を超えて侵略し、現在の形になったらしい。

 東の地は鬱蒼とした森が続き、現地民は上半身裸でウホウホしているらしいが、呪術を使った魔術師系の攻撃も可能で、弓と槍が得意な部族が多いんだとか。彼らの体表は青く、俺達とは種族そのものが違うようだ。角生えてるらしいからね。

 どんな連中なのだろうとワクワクしながら、馬の背に乗って俺は街道を走った。因みに相棒は二世だ。一世は暗殺者に殺されたので仕方なく買い直した。ちくしょう、暗殺者め。あの時は怒り狂って素手で人間を解体してしまった。よく考えなくともホラーなので、薄暗がりな時間に裏道で襲ってきてくれたことを深く感謝したい。

 まぁ、今は二世と仲良くやってるので良しとしよう。そんな事を考えながら今日も新しい街の酒房で寝息を立てた。


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