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北の大地と戦場

 三日ほど準備に費やし、俺は王都を後にした。王立図書館で借りた小説は歴史的にも有名らしく、前世で言うところの鶴の恩返し的な伝説めいた内容だった。

 王子が竜の卵を拾い、それを孵して育てると、国が他国に侵略された時に敵軍と育った竜が戦って平和を手にしたが、代わりに竜が死んでしまい、王子は竜の遺骸に無き縋ったという悲話だ。

 戦争が悲しいものであるという教えと共に、平和を手に入れるには代償が必要だという教えも兼ねているのかもしれない。あと、王家のイメージ戦略かもな。十中八九は創作だろうし、事実は竜と軍隊が戦ったという部分だけだろうと思う。その軍隊も敵なのか味方なのかも怪しい所だ。

 この世界には竜が存在するし、ところ変わっては馬の代わりに荷駄を牽いている。そんな竜の中にも強大な力を持つ存在が居てもおかしくは無いだろう。実際、俺のようなバグった天恵を持っている奴もいるのだし、竜の中にバグった天恵を持ってる奴が居ても何らおかしくはない。

 魔獣も天恵を得ているのか、という問いに対し人類は明確な答えを得ていない。持っているのかもしれないし、持っていないのかもしれない。だからこそ、こういった逸話として興味関心を薄れさせないようにもしているのかもしれないね。

 そんな事を考えながら俺は相棒の背にまたがって北の大地へと向かっていた。



 ◇◇



 幾つかの街と、幾つかの村を超えてその場所に辿り着いた。大体一か月くらいは掛かっただろうか。装備している魔金装備の一つが進化するくらいの日数は掛かったとだけ言っておく。

 生まれ故郷であるバロダーリオン王国は緑が多く、国を三本の川が流れている。それぞれ西からハラル川、ミランザール川、ボート川と呼ばれているが詳しい由来は知らない。かつての豪族が名付けたものが現在も呼称として根付いたらしい。

 元々はハラル川とミランザール川の間にある国土だけだったらしいが、長年の戦争で他国から領土を切り取ってきた。今回の北方領土も同じように、これから戦う北の国から奪い取ったものだ。今回の戦は正当な反逆だという名目らしいが、歴史を辿るとこの辺り一帯は滅んだ大国の一部でしかなかった。

 亡国の一族からすれば俺達も北の国も等しく略奪者でしかないのだが、亡国の連中は地の果てに追いやられてしまったので、誰も何も言ってこないし、いまさら何を言うかという話になる。もしかしたら、亡国が興る前にも何かの国があったかも…と堂々巡りの歴史のせいで一体誰の土地なのかと問われれば、今持ってる国の土地だよって事で丸く収まるしかないのだ。今回の戦はそんな土地を奪い合って始まった。



 ◇◇



 拠点となる街で早速とばかりに酒房に入ると、俺と同じような傭兵が多く滞在していた。既に契約が済んでいるのか前金で酒を飲んでいる奴が大勢いる。そいつらを掻き分けて部屋を取ると、符丁となる木片を持って傭兵組合に走った。

 手続きは簡単に終わり、俺の名が参戦者の一覧に乗る事になった。どうやら激戦が予想される舞台に配属されるらしい。というか傭兵は全て使い捨ての駒なので、戦場では常に最前線だ。その後ろに騎士と一般兵、続いて魔術師たちが後ろに並ぶのが慣例だ。

 傭兵組合の中を眺めると、男も女も同じ割合でひしめき合う。皆肩パットみたいな防具を身に着け、胴に金属、他は革製の防具が多い。ハルバードのような長物持ちが多く、意外と剣士は少ないようだ。

 そりゃそうだ。剣術、剣士、剣使い、剣道士、剣の名のつく天恵持ちは揃って騎士にスカウトされる。他にも武器の扱いに関する天恵持ちはごまんといるが、剣に関しては見栄えが良いのか国から騎士が派遣されてくる。派遣先の情報は教会からだろうな。アレだけ大々的に天恵配布を捌いているのだから、影からチェックされてるだろうよ。

 周囲を眺めて凡その戦力をチェックすると、俺は戦場の装いについて考えた。これだけ金属鎧が多いのなら、魔金の全身鎧でもよくないか。と、一瞬だけ思ったのだがやはり目立つだろう。魔金装備なんてキンキラキンだからな。反射光が眩しくて目がぁぁ、と叫ぶ輩が出かねない。自重しよう。そう考えて、全身革装備のまま出陣する事にした。



 ◇◇



 酒房で情報を集めつつ飯を食らい体力を養いつつ、召集のタイミングを待つ。俺が街に来る前にも何度かぶつかり合ったらしく、小規模ながら数百人単位での戦闘があったらしい。

 同じ酒房の中でも数人が首級を上げたらしく周囲に自慢している奴が居た。酒を奢って話を聞くと、どうやらこちらの騎士団が精強らしい。エグザム騎士団という北方領土の騎士集団が居るらしく、どいつもこいつも強力な天恵持ちらしい。特に剣の斬撃を飛ばして複数人が吹っ飛ぶなんて話を聞いた時には、ああ、ファンタジーしてやがんなと感心した。

 ところが味方勢力ばかりが精強という訳でもなく、敵方に強力な弓の天恵持ちがいるらしい。しかも一人ではなく複数だと云うじゃないか。さしものエグザム騎士団ですら一時後退しなければならないくらいに強く、遠距離から一方的に虐殺されるレベルだという。それが前回の戦局だというのだから、次に戦う俺たちの中から弓の餌食になるのは確定的に明らかだ。

 弓に対抗するには盾が必要だ。残念ながら俺は盾を持っていない。自前の防御力で防ぎきれるだろうか。いや、相手は天恵持ちだ。精巧な騎士団が逃げ出すレベルだというのなら、壁になる盾が必要だろう。最前線でどれくらい耐えられるだろうか。

 翌日、酒房を朝早くに出て北方領土の街ガレガルンの鍛冶屋を練り歩いて尋ねまくった。盾は無いかと尋ねてみれば、どいつもこいつも弓が怖いらしく全て売り切れだ。参ったね。頭を掻いて悩んでみても、どの鍛冶屋も戦時中で忙しくしているので鎧を溶かして盾を作ってもらう事も出来ず途方に暮れていた。

 諦めて酒房に帰ってくると、銀色の鎧を身に纏う騎士が一名、大声で何かを言っている。招集だ。



 ◇◇



 町を北に進むとなだらかな丘の向こうにだだっ広い平原がある。さらに北に進むと農耕が難しそうな岩石地帯になっていて、敵はその先からやってくる。船上は岩石地帯から抜け出た平原だ。此処に多くの血が染み込む事になるだろう。

 騎士の声に倣って最前線に進むと、もう目の前に敵軍が横陣を敷いていた。俺たち傭兵部隊の後方には騎士達が槍と剣を持って立っている。そのすぐ前には弓兵だ。彼らはれっきとした国軍であり、弓の天恵持ちも複数名いるらしい。騎士って弓使いの前に並ばないんだな、と呆れた感想を持っていると銅鑼が大きく鳴った。それも繰り返し。

 バァンバァンバァン、と幾度となくなっていると後方から伝令が走ってきて開戦だ。前線に立つ全身鎧の騎士が大声を上げる。続いて彼の横に立つ騎士が角笛を長めに吹いた。全身突撃の合図だ。アレが短く三度吹かれると後退の合図だが、俺には必要ないな。全部蹴散らして前進あるのみだ。

 周囲は雄たけびを上げて高揚している奴も居るが、俺は冷静に両手剣を八相に構えて前進を続けた。まだ遠い。周囲が駆けていくのに合わせて、転ばないようにしっかりと踏み締めて進む。周囲の走る速度が速いのか、最前線組は既にぶつかり合った。まだ遠い。

 一歩一歩を確実に踏み込んで進むと、味方ごと射殺すつもりなのか、敵味方双方から弓の雨が降り始めた。その内の一本が俺の後頭部にヒットしたが、全装備の効能で乾いた音を立てて弾かれる。もう少しで最前線に届く。届きそう。届い、た!


「シィヤァァァァ!!」


 気付いたら声が出ていた。大盾を持った全身鎧の敵を頭から一刀両断する。柔らかい。魔星金の両手剣四本分のダメージが上乗せされた一撃は、まるで当たっていないかのように硬そうな鎧兜を両断した。

 続いて左右から襲い来る敵兵を二度、三度と両断していくと、一定の速度を保ったまま切り伏せつつ前進していく。目指すは敵の大旗がある場所だ。そこに将軍級の首があるだろう。


「なんだこいつ、ヤぎょぼっ」

「ば、ばけもっ」

「た、盾が通じねぇ!!ぎゃぁっ」


 何やら周囲の敵兵が騒いでいるが、お前ら戦場で無駄話していて良いのか。油断していると切り伏せてしまうぞ。

 一歩踏み出し切り伏せ、二歩踏み出して切り伏せ、まるで機械のように淡々と敵兵を殺して進む。自分の周囲しか視界に入っていないが、もしかして最前列だろうか。いいや、このまま奥まで斬り進もう。

 当たってくる攻撃がカンカンと乾いた音を立てながら剣も斧も槍も弾いていくと、千も数える間もなく大旗の元に辿り着いてしまった。後ろを振り返ることなく進み続け、襲ってくる騎士を両断し続ける。途中から幾つもの弓矢が飛んできていたが、剣で払う必要すらなく装備が防いでくれるので、今俺の目の前には魔金装備を身に着けた将軍らしき男と供周りが数名いるだけだ。


「おのれ、化け物を殺せ!」


 将軍(仮)が叫ぶと同時に力強く踏み込み、これまでとは違って一足飛びに近付く。


「は、早っ」


 誰かの驚く声を聞きながら将軍の首を飛ばした。宙を舞う首を追うように、その方向へもう一歩だけ強く踏み込む。敵兵を複数纏めて両断すると、振り返った空には将軍の頭が俺の方に落ちてきていた。お宝ゲットだぜ。


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