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盗賊と王都

 あれから半年後、魔銀装備用の銀鉱石を集めた俺は、今までのように孤児院の裏庭で溶鉱炉を弄る日々を送っていた。ガルゴの魔境に入ったのは良いけど、出て来る狼が可愛いのなんのって。攻撃くらっても、こっちは揺らぎもしないものだから素手で掴んで撫で繰り回したらお腹を見せて降参してくれた。中には一匹狼が決死の覚悟で挑んでくるのだけれど、そういう手合いは相打ちになりつつも一刀両断するので、特にこちらは問題無し。

 攻撃を食らいながら相手を薙ぎ倒すスタイルが当たり前にならないように気を付けないとな。これは何時になっても剣の腕が上達しない奴の通る道なのだろうよ。真面目に自己鍛錬を積まないと、いつか絶対後悔するだろう。

 まぁ、そんな訳で鍛冶屋の親父には新しい魔銀シリーズで装備を作ってもらうようにしているので、腕の振るい甲斐がある依頼だと張り切って製作してもらっている。


 さて現在の俺の全装備の内容物をおさらいといこう。

 全装備内

 ・魔星金の全身鎧×4 ・魔金の全身鎧×5

 ・魔星金の両手剣×4 ・魔金の両手剣×5


 表面上の装備

 ・革の全身装備セット ・魔銀の両手剣


 魔銀からベースを作り出し、そこを起点に装備合成を繰り返している。鍛冶屋の親父には商売として販売していると言っているので、魔獣討伐で得た金額の一部を使って、割高で製作代金を支払っているから文句も無い。実際、装備を作ってもらったお陰で倒せているんだしなぁ。じゃなきゃ、あんなゴリ押し戦法で勝てませんて。

 狩りの途中で進化した装備品もあるので、見た目よりも金は掛かっていない。全ては銀鉱石のお陰ですな。いや、こんな天恵をくれた神様のお陰か。教会の中だからこのまま祈っておこう。むにゃむにゃ。



 ◇◇



 この世界、十歳で成人扱いされるのだが、身体的な特徴としては子供のままだ。では大人の見た目にはいつになったら追いつくのかというと大体十三歳から十五歳の間らしい。十三歳となった俺もようやっと大人の仲間入りである。これで両手剣に背負われてると笑われずに済むぜ。いや、揶揄われるのは良いんだけど心底馬鹿にしてくる奴は鞘付き両手剣でぶっ飛ばしてきたから問題ないんだけどな。これからはそんな面倒も無くなると思うと、なんだか寂しい気分だぜ。

 見た目も傭兵らしくなってきたという事で、そろそろ孤児院も卒業する事になった。あれからシスターには天恵の詳細を話し、魔獣相手に傷一つ追わないからという事で安心して送り出してもらった。裏庭の溶鉱炉は後続の傭兵志望者の為に、壊さずにそのまま置いて来た。じゃあ今の俺は何処にいるのかというと、王都行きの馬車の横である。

 自前の馬を購入し、馬車の護衛をしながら馬を歩かせている最中だ。全身鎧を重ね着している俺であろうとも、スキルのお陰で重さが無くなっているので馬の背中に乗っても大丈夫だ。買い込んだ旅の荷物を載せてまだ余裕がありそうな若い馬だ。頼りにしてるぜ相棒。


「盗賊だー!」


 御者が騒ぐと同時に俺と一緒に護衛に当たっている男が飛び出した。俺は馬車の斜め後ろから護衛を続ける。槍を扱う傭兵がバッタバッタと盗賊を倒すと思いきや、七~八人程度の盗賊の内、二人ほど殺したところで片手剣の傭兵は殺されてしまった。

 いや、まぁ、最初に弓を持った二人の盗賊を殺したのは評価できるけれど、連携とか取れよ。何いきなり死んでるのさ。最初の挨拶以降は碌に会話してないからショックでもないけどさ。最近待ちに来たらしいから知らない顔だったし。


「むむむ無理だ!降参しよう!」

「落ち着いて。そのまま馬を走らせずに待機だ。いいね」

「わ、わかった。いや、しかし」


 御者が何かを俺に言い出す前に馬に乗ったまま突撃を敢行した。一人、二人とバスタードソードよろしく大ぶりの斬撃で倒すと、馬の背から飛び降りて三人目を空中で叩き切った。これで残り三人。

 俺の馬が遠くに走っていきスピードダウンしていくのを音で察知しつつ、生き残った三人に両手剣を構えて吶喊する。敵の斧を魔銀の両手剣で受けつつ、全身を使ってタックル。盗賊君、吹っ飛んだー!を脳内で叫びながら挟み撃ちにしようとして来た盗賊に向き直り、袈裟斬りで胴体を真っ二つにした。

 吹っ飛んだ盗賊が起き上がって逃げ出そうとするのを回り込み、体の横から首を切り落とす。最後の一人に目を配ると、恐怖で尿を漏らしながら遠くに逃げていくところだった。それならばと足元の石を拾い、前世で練習した投球フォームを振り被る。

 ピッチャー投げました、と脳内アナウンスが続いてデッドボール!これは痛い!と内心で嘆いた。頭を押さえてフラフラと倒れていく盗賊に近付き首を落とす。周囲を窺うも、残敵は居ないようだ。ポッコポッコと近付いて来る馬の首筋を撫でて乗ると、御者の元へ戻った。


「凄いなアンタ!」

「それほどでもない。報酬は二人分で良いぞ」

「あ、ああ。アイツは死んじまったみたいだしな」

「傭兵証だけ回収して組合に届けてやるといい」

「そうするよ」


 ヒトを斬ったのは初めてなのに、特に動揺はしなかった。むしろ軽い気持ちで居られた。これも全装備の効果が利いているんだろうか。

 全装備を活用している間は膂力が上がったり五感が鋭くなったりする。試してはいないが精神的にも何らかの効果があるのかもしれないな。デメリットが無いと良いが。



 ◇◇



 盗賊とは何なのか。その殆どは食い詰め傭兵だったり、失敗した商人だったりする。或いは凶作で農民が蜂起した一揆勢とかも稀にいるらしい。最後のは軍団になるらしいから、貴族に相談レベルなんだそうだ。御者が色々と教えてくれた。

 この御者という職業も面白いもので、所謂国家公務員的なものだ。ヒトとモノを運ぶだけじゃなく、現地を旅して情報を集めて王都に届ける。国の目や耳の役割を果たしているらしく、それなりに教養が無いと御者という職業には就けないんだそうだ。

 まぁ、文官になれなかったり、魔術師として大成できなかったりした人間が就く仕事らしいので、トップエリートかというとそうでもない。官公の使いっ走りって奴だな。

 色々と職業について話をしたり、聴聞をしに廻る街の事を教えてくれたりしてもらいながら、俺たちは王都に辿り着いた。


「お疲れさん。此処が王都だ。最近は北の国との小競り合いが本格的な戦争になりつつあると聞く。あんたなら荒稼ぎ出来るんじゃないか? じゃ、またな」

「良い情報をありがとう。故郷に戻る時はまた利用させてもらうよ」

「ははっ、そりゃ随分と先の話だな」


 そう云って笑いながら彼は去っていった。

 傭兵ギルドの厩に相棒を繋いで、重苦しい鉄製の扉を開くと内部は雑然としていた。行き交う人、喧々囂々の受付、集団の真ん中で今後の指示を出す傭兵団の頭っぽい大男。それらの何れとも関りが無い連中は、横目で俺を観察してくる。

 両手剣と革装備。一風普通の装備だが、返り血に塗れているのを洗濯しきれていないので隠しようがない。目敏い奴は俺から目を離さずにいた。

 さて、どんな仕事があるかと施設を見渡すと、依頼板に幾つかの木板が残っていた。何々…護衛、戦場、運搬。故郷には戦場雇いの依頼は無かったな。コイツを受付で聞いてみよう。

 何やら騒がしい受付から二つ離れた番号の所へ行くと、手元の書類に何かを書き込んでいる細面のオッサンに問いかけた。受付嬢じゃないんだな。


「戦場働きの依頼について聞きたいんだが詳細を教えてくれ」

「北方領土の問題については知ってるか。場所は其処だよ」

「小競り合いが本格化しそうだって話だろう。規模はどれくらいになりそうなんだ」

「大体二万から三万って話が一般的だね。我が国の北方軍が一万五千から二万。相手はその上を行くのは確実だと見られてるねぇ」

「負け戦じゃないなら参加しようと思う。報酬は幾らなんだ」

「日当が六千ゼン。大物首一つ当たり十万ゼンから五百万ゼン」

「十万ゼンは小隊長か、部隊長か、それとも将軍かでヤルか決めるよ」

「ほぉぁっは。首取りに行くつもりか。良いね。部隊長からだそうだよ」


 一般的な軍の構成は小隊ひとつ百人。小隊長数人を纏めるのが部隊長。部隊長数人を纏めるのが将軍。将軍を纏めるのが大将だ。五百万ゼンは大将首だろう。


「やる。大将首が五百万だろう」

「その通りだ。いい知らせを待ってるよ」

「俺の名はダグレオだ。覚えておいてくれ」

「おうおう、ダグレオさんね。登録終わったよ。コレを北方軍に見せると良い。集合場所は現地だ。北の領地まで行っておいで」

「任せろ」


 話半分に聞いてくれても良い。俺の名を受付のオッサンに覚えさせるのが重要だ。そこから偉い人間に俺の名を共有させる機会が来るように、派手な仕事をして見せよう。

 参加票の木板を握りしめて、俺は王都の図書館へを足を運んだ。



 ◇◇



 北方領土へ行けと言われてそのまま行くアホではない。下調べの為に宿を取り、そのまま王立図書館へと馬を走らせた。王都の中心地域にあるのだが、なかなかどうして静謐な空気が漂う歴史ある図書館だった。

 傭兵だと名乗ると図書館司書の男には嫌な顔をされたが、利用料を払うと黙って通してくれた。

 必要な情報は地図。地域の風土、気候、人口などの情報だ。これから殺し合いをしに行く場所なのだから、どんな連中と肩を並べ、どんな天候の中で戦い、どれくらいの人間たちと関わるのかを知っておきたかった。

 風土。北方領土は決まって狩猟民族らしい。荒くれ者も多いが、それ以上に冷静に狩りを熟す狩人気質な人間が多い。あと酒の消費量が多め。

 気候。とにかく寒い。俺は全装備のお陰なのか温度変化に強く、夏場も冬場も大して苦にしない。此処は問題なさそうだが、大雪の中を戦場にするのは勘弁だな。

 人口。意外と国内最大の人口を誇るらしい。というのも、元々王国が北の国から切り取った国土らしく、その現地民に加えて、入植者が多数いた歴史を背景に、国内最大数の人口を誇る。中々のヒスパニックぶりでもあるようだ。

 あとは詳細な地図でもあれば儲けものだったのだが、どうやら大まかな山や川の位置関係と、大きな街の配置しか判らなかった。流石に軍事的な要素が強すぎて、こんな所には書き残せないか。これは自分の眼で地図を作って調べながら行こう。というか、参戦する前に周囲を見て回ったほうが良いかもな。

 あらかた調べ終わった俺は、貸し出し用の小説棚から幾つかピックアップして宿に戻った。



 ◇◇



 王都は故郷よりも華々しく、またその闇も深い。大通りから外れてスラムに足を延ばすと、今にも崩れそうなテントが幾つも並んでいた。饐えた匂いと伺うように警戒した目が俺に嫌悪感を覚えさせる。

 どいつもこいつも社会に恨みでもあるのか、大通りから来た人間に敵意を隠さない。隙あらば命ごと全てを奪ってやろうと、虎視眈々と狙っている。

 俺がこんな所に来たのは幾つか理由がある。流石に戦場に丸腰で行くわけにはいかず、それ相応の装備も必要になってくる。魔道具だとか、薬品だとか、或いは爆発物だとか、そういった物だ。長年の採掘作業で金だけはあるし、シスターからも幾ら位の金額なのか聞いた事がある。それを十倍で予算を組んでいるのだから、一つくらいは買えるだろうと考え、こんな場所までやってきたのだ。

 傭兵組合で聞いた場所まで来ると、ノックをして誰何の声がかかったので決められた合言葉を言う。


「あかねさすとびら」

「なにものにもあけられん」


 油の刺していない蝶番が不気味な音を発しながら金属製の扉が開かれた。内部には黒布の面隠しを付けた大男が扉を開けていたところだった。薄暗い通路が奥の方まで続いている。いや、奥の方は暗くて見えないな。手で早くはいれと催促されるがままに進むと、通路の奥から小柄な老婆が現れた。

 案内してくれるらしい。そのままついて行くとカウンターのある開けた部屋が見えて来た。カウンターの向こうには様々な商品が並んでいる。此処に魔道具や怪しげな薬が売っているようだ。

 老婆はカウンターの向かい側に立つと、こう言い放った。


「随分若いのが来たね。ま、齢は関係ないか。何が欲しいんだい」

「一瞬で強烈は光を発する薬品。それを周囲にぶちまける魔導具。可能であれば何度でも使えるなら嬉しいね」

「……光だけでいいのなら、やりようがある」


 そう言って老婆は一つの魔導具をカウンターに置いた。


「こいつは灯火の魔導具だが、光を発している所に特定の粉をかけると…」

「爆発的に光が強くなる、か?」

「そうだね。光の魔術『フラッシュ』と同じことが起こるだろうね」

「意図的に何度でも出来るようには改造できないのか」

「……それなら魔術を覚えた方が早い、がしかし。アンタの言うのは素早く動いている最中に何度でも使いたいって話だろう?」


 老婆の問いかけに頷くと、また別の物をカウンターに置いた。


「蛍光茸の粉を練り固めた玉だ。火にかけると『フラッシュ』よりも強烈な光を作り出せる。こいつを火筒の魔導具に入れて着火すると、だ」

「前方に向かって強烈な閃光を浴びせる事が出来る。だろ」

「ぅんぅん。あたしゃバカは嫌いだが利口な奴は好きだよ。火筒の玉の代わりに入れて使うと良いさね。きっひっひ。食らった奴らは一発で一生目が潰れたままになるだろうねぇ」

「そういうのを求めてるのさ」

「アンタ、良い趣味してるね」

「それほどでもない」


 きっひっひと笑いながら老婆は奥に引っ込み、ありったけの蛍光茸の玉と一緒に火筒の魔導具を売りつけて来た。余裕で購入できたので、戦場で役に立ちそうな薬品類も合わせて購入させてもらった。

 良い買い物をしたぜ。


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