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魔境と魔装備

 青い光を放つ月を見上げながら、日々の小遣いで溜めて購入した装備品を並べてみる。

 革の服、革の兜、革のブーツ、革の小手、革の腰ベルト。買った日付順に並べてみた。

 五年前、四年前、三年前、二年前、一年前だ。近所のドブさらいや、配達の仕事を熟して賃金を得て今の物資を揃える事が出来た。

 この世界に冒険者は居ないけど傭兵は居ると言ったな。ただ単に傭兵が冒険者の役割を果たしているだけであって、モンスターが居ない訳じゃないんだぞ。この世界は剣と魔法のファンタジー世界。銃やミサイルで魔獣を倒すカオスな世界なんてモノではなく、剣と魔法で化け物を駆逐する世界なのだ。天恵なんてものがある時点でファンタジーだけどな。

 ダンジョンは無いけど魔境と呼ばれるモンスター発生装置みたいなものは存在するし、魔女と呼ばれる人間だって普通に居る。魔術師との違いは良く知らんけど。

 こういった情報も小遣い稼ぎで得た。シスターに聞いても教えてくれないからね。あの人何でか知らないけど俺を外の世界に出したくないらしい。全装備の効能を説明しても首を縦に振らないんだ。孫可愛さみたいなところでもあるのだろうか。婆さんと孫。そうだな、俺にとっては第二の母親であり、最初の祖母でもあるな。心配されない訳がないか。

 しかし、だからと言って天恵を腐らせる必要もない訳で、俺は傭兵への道を着々と進みつつあった。天恵の儀から五年経った今、俺は成人と認められて本格的に傭兵業を開始するつもりだ。



 ◇◇



 傭兵になったからと言って直ぐに教会の孤児院を出ていくつもりもない。シスターと相談して孤児院の手伝いをする代わりに寝床を借りる事にした。幸いなことにこの街の周囲には魔境が幾つかあるし、何かを採取するには打って付けだ。


「という訳で簡単な地図を作って来たんだけど、シスターはどう思う」

「見難いったらないね」

「まぁ、そう言わず………手始めに、街の北東にあるイモラの魔境に行こうかと思う」

「その心はなんだ」

「鉄鉱石が手に入る。その鉄鉱石を材料持ち込みで武器を新調してもらおうと思って」

「荷台でも持っていくつもりか。インゴッドになってない鉄なんて材料持ち込みにならんだろうが」

「少しずつ持ち込んで裏庭の炭焼き小屋の隣に、小さい溶鉱炉を作ろうと思うんだ。ダメかな」

「小さいってのはどの程度だ」

「こうやって抱え込むくらいだね」

「………お前、それを何回繰り返したらインゴッドになると思ってるんだ」

「最低で百回くらい」

「ふっ。まぁ、解ってんなら良い。鉄を溶かし出す時は離れないようにしろよ」

「当然だね」


 こうして、俺はイモラの魔境に通うようになった。必要な物は揃えたし装備は万全だ。魔物が出て来たって二重装備をした俺は早々死ぬことなんてない。と、思う。多分。



 ◇◇



 スコップとナイフを持ち、それらを装備すると片方が消える。だが、手に持つどちらかの装備は両方を合わせた性能になる。ナイフ二刀流の場合は四本のナイフが必要になる訳で、見た目以上に値が張るのだ。今回はナイフの鋭さと頑強さをプラスしたスコップを手にしている。

 何故スコップ持ちなのかというと、その重量ゆえだ。基本的に両手で扱うし、これを逆にすると両手持ちのナイフになってしまう。重いし、リーチが短いし、攻撃速度が遅いしで役に立たないのだ。故にスコップ持ちだ。


「おーい、スコップで戦うつもりかよ。大丈夫か少年」

「ぎゃははは、魔境を舐めてんじゃねえのか」

「ご心配どうも~」


 街中にあるイモラの魔境へ続く門を出ようとしたところで、顔見知りの傭兵が揶揄いつつ声をかけてくれた。彼等もこの街を拠点とする連中で、もう五年前から知っている。定期的に魔境に潜り、時々護衛の仕事を受けて他の街に遠出をしたりしていた。俺もその内に遠出するようになるんだろうか、と考えながら街の外門を潜った。

 じゃりじゃりと軽く舗装された道を進むと魔境の姿が見えて来る。森の外縁部にはテントが張られており、簡易的な柵が張り巡らされている。柵の外側には呪符のようなモノが張られて、その効果は見た目以上に頑丈なのだとか。やっぱ魔術師って羨ましいな。色々と応用が出来るのだろうし、頭の中で想像している事が出来るようになったら楽しそうだ。

 テントの一つには魔境管理組合員が常駐しており、人の出入りを管理している。全てを管理する事は出来ないが、帰ってこない人間が今でも森の中に入っているかどうかのチェックはするべきだろう。捜索隊を出せるかどうかに直結するからね。

 管理名簿に名前を書いて森へと入る。腕輪を一つ渡されたけれど、これは森の中で大体どの方角に居るかを知らせてくれる魔導具なのだそうだ。ビーコンみたいな仕組みだろうか。それを腕に嵌めていざ参らんイモラの森。

 とは言ってもこの森には魔獣は殆ど居ないんだけどね。出ても夜間だけで、梟型の魔獣が無音で襲ってくるのだとか。まさに森のハンター。しかも体長三メートル越えだとか。翅を拡げると幅十メートルにも達すると聞いた。恐ろしすぎる。猛禽類の嘴で頭蓋骨割られて死にたくないです。

 なのでさっさと採掘を終えて明るいうちに帰りましょうね。という訳で事前にチェックした採掘ポイントまで誰かが張ったロープを辿って到達し、スコップでザックザック。背負い籠に鉱石を投げ入れて、追加で周囲の薪を拾って、調薬に使えそうな薬草を根っこ事回収して保存液に着けて、大人しく町に帰った。

 商工会ギルドに立ち寄って薬草を売り捌くと喜ばれた。保存液で管理する人間があんまり居ないんだとか。そのまま収納の天恵を持つ人が回収していった。あの天恵いいなぁ。俺の採掘についてきてくれないだろうか。羨ましいわ。



 ◇◇



 五日に四回ほど採掘をし、一回は孤児院で休みつつ鉄鉱石を溶かす作業を続けた。小型溶鉱炉は街の鍛冶屋と相談して作り方を教わっていたので、今は現役で絶賛稼働中です。ニ十キロくらいの塊を溶かすと、せいぜい百グラム程度の鉄が取れる。溶鉱炉を動かしてある最中はふいごを動かし続けなければならないので、下手すると外出する時より体力使うわ。

 危険な作業でもあるので、たたら製鉄の最中はお子ちゃま達を柵の向こうへ締め出している。裏庭に出来た不思議スペースに興味津々なようだけど、危険な場所だから近付いたらダメよ。

 そんな生活を続けて早六か月。いつの間にか俺の体も大きくなり、背の小さな成人からちょと背の小さな成人扱いに変わって来た。魔境の採取物の依頼などを熟していたせいか、魔術師連中に少しだけ顔が知られるようにもなったらしい。

 そんなこんなしていると、手元の鉄はキロ単位で集まって来た。これを持って鍛冶屋に行くと驚きの答えが返ってきたのである。


「おめえさん、これは鉄じゃねえでよ。魔鉄ってな。魔力を持ってる鉄だでよ」


 独特な喋り方をする鍛冶屋が妙な事を言い出したぞ。


「魔力を持ってるってどういうことだい?」

「このまま装備を作るとな、これがな、魔装備って奴になるんだでよ」

「魔装備ってのは…」

「この魔鉄はだでな、おめえさんの魔力がこもってるんだでよ。だからな、おめえさんの魔力を吸って、これからも成長する魔装備が作れるんだでよ」

「じゃあ、それで。何か手伝うことある?」

「いんや、こっからは鍛冶師の腕の見せ所だでよ。まかせんしゃい」

「おう、任せた!」


 これは全部位の装備を魔鉄で揃えるしかないだろうな。そうと決まれば魔境だ!待ってろよ俺の魔鉄装備!



 ◇◇



 それから更に三か月が経ち、力が付いたお陰か大量の鉱石を持ち運べるようになった。採掘を続けた俺は全身鎧の制作を依頼できるほどに至った。


「ほぅ。これで一通り出来たでよ。全員鎧と両手剣だでよ。でも何で二セットも…?」

「まぁ、気にするなよ。親父のお陰で良いものが出来た。それでイイだろ」

「そうだでな。久しぶりにいい仕事が出来たでよ」


 額に汗して喜び、祝いの酒を店のカウンターテーブルで飲む鍛冶屋であった。俺は未だ飲まない。飲めるけど飲まないのだ。もうちょっと大きな体になりたいからね。


「そういえばダグレオは採掘傭兵だげども、討伐傭兵に鞍替えするんだげが?」

「いや、今は未だやんないよ。腕を磨いてからだね」

「そうが。まぁ、この装備があれば、生きて帰れるだでよ…」


 しみじみと鍛冶屋の親父はそういうと、残りの酒が入った杯を呷った。そうだ。いつかは魔獣を倒し、盗賊を切り伏せる傭兵らしい傭兵になるのだ。この装備は、その第一歩になるだろう。長い付き合いになりそうだな。



 ◇◇



 寝床である教会の孤児院に装備を持ち帰り、早速とばかりに全装備してみた。すると何かが反応したのか、懐かしい声が頭の中に響いて来る。


【魔力を帯びた装備を確認しました。取り込みますか。 Yes / No 】


 待って。取り込むってどういう事だ。折角の全身鎧をどうするつもりだよ。どうする、どうするか、どうしてくれようか。無くなっても問題無いもので試すか。そうなると両手剣だ。流れるように脳内でNoを選択してキャンセルし、全ての全装備内容物を吐き出した。そして魔鉄製の両手剣をセットする。


【魔力を帯びた装備を確認しました。取り込みますか。 Yes / No 】


 今度はYesだ。


【魔鉄の両手剣を取り込みました。スキル装備1がレベルアップしました】


 ハイちょっと待てナニコレどうなってるの。スキルとな。スキル装備1とな。俺はそんなものを持っていたのか。ほーん。今、知ったわ。そしてレベルが上がるとどうなるのかというと、どうなんだい、何かが変わるのかい。

 試しに革の手袋1と革の手袋2と革の手袋3を用意して装備して見た。これまでは2までしか装備できなかったが………いけるな。1と2が内側に、3が外側に装備できるようになった。いや、天恵というか装備スキルとして認識しているのは1と2だけなんだろうけどな。3は外付けアーマーとして、世間一般的な使い方が可能だ。

 次は重さだな。革の手袋三つ分だというのにそれほど重くなったようには感じない。これはもしかして、魔鉄の全身鎧を身に着けても動き回れるようになるのでは……?

 試してガッテン!


 いけた。しかもあまり重くない。良いな、これ。体が大きくなるまでイモラの魔境に籠もって、魔鉄装備を作りまくってた方が良いんじゃね。それに夜の森には魔獣が出るというし、梟狩りに行っても問題無いかもしれない。

 他にも利点はある。魔鉄装備は身に着けていると成長していくというが、普通の人は寝る時は装備を外すし、四六時中つけっぱなしなんてアホな事は出来ない。その点、俺は装備が表に出てこないので常に装備中という判定になり、装備が成長する速度も上がるのではないだろうか。

 天恵に装備を捧げれば『スキル:装備』とやらもレベルアップするのではなかろうか。これは試すしかないんじゃないか。そうと決まれば計画を立て直さないとな。待ってろよイモラの魔境。鉄鉱石を掘りまくってやるぜ。


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