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信頼

「あそこまで行くのは遠い。案内がてらついていこう。」

ふぅとため息混じりの吐息を出す。


「ありがとう!ライがいると嬉しい!」

ミランが横にいるライに向かって伝えたら、忽然と姿は消えており周囲を見回すと既に歩き出していた。


「遅い。先に行くぞ。」

後ろ姿を追いかけながら、「待ってよー!」と駆けていく。


隣に追いつき、ライを見る。

「何でこんなに急いでいるの?」

「夜が来ると魔物が活発化するんだ。あの木を目指してはいるが、あそこも長年アジトにされている。」

「理由はそれだけではないが。」 「え? 今なんて言ったの?」 「いや、なんでもない。」



「それにしても、魔物が出るなんて。しかもアジトって…。戦わなきゃいけない?」

「そうなるな。」

「奴らは数100年に渡り、あの場所を根城にしてきた。教会周囲には結界があるからあそこは安全だが。

前は教会も襲撃を受けたことがある。」

静かにどこか憎しみの色を帯びている声音でつぶやくように話すライ。

様子を敏感に感じ取るミランの脳裏には(?)が浮かんでいる。


「そんなに危ないところなのに、なんでライは一緒にいなかったの? 

あそこなら()()()がいらっしゃるしお姉さんも寂しくないと思うんだけど?。」


ライは大袈裟に咳払いをし、どこか照れているように見える。

「め、()()か。まっ…まぁどう思うかは勝手だ。」

「そういう事が聞きたいわけじゃないよー…。」

不服そうにしているミランを完全に無視しているライ。


突然「あぁそうだ。」と立ち止まりミランに向き直る。

「今度はどうしたの?」半ば呆れたように聞く。

不満と顔に書いてあるが、そんな事など気にしている様子は全くない。


「手を出せ。」言われるがままに両手を胸の前に差し出す。

ライが何かを言った瞬間、光がミランの手元に集まってきた。

それは凝縮し端から徐々に姿が見えてきた。

「わ、わわわわわ!何これ!?」

実態が手元に現れ、あきらかに狼狽しているが、やはりライは気にも留めていない。

驚くのも無理はない。それはミランの身長以上はあろうかというほどの長弓だった。


「魔物は出るが、()()()()()とは言ってないからな。」

「自分の身は、自分で守れ。」

状況についていけず憎まれ口に一矢報いることができない事を、ミランは忘れなかった。


見れば見るほどに美しく、空に溶けてしまいそうな儚さを感じる。

「あぁそれとこれもやる。」

どこから出したのかはわからないが、弓を引くための手袋だといって渡された。

「これは、(ゆがけ)?」

柔らかい素材でできているが、ピタッと肌に馴染むような逸品だ。

「よく知っているな。使い方はわかるだろう?」


ポートミルに生まれた彼女は、父親の現侯爵より幼い頃から良い武具を見極めるための目利きを学んいる。

故に彼女は、今己が手元にある武具をみて驚きと動揺が隠せない。

こんなものは、()1()()()()()()()()()()()()()()()()と。


武具には、人の魔力に反応し力を増幅させることができるが万能ではない。

焔の術者であれば、その魔力に対応した武具を選ぶ。同時に違う属性をもつ武器は作れはする。

だが耐久力がなく実戦には不向きだ。

この弓はまるで全属性を網羅できる力を備えているようにみえる。


(ライは…何者なの。こんなの、私たちが出来ることを超えてる。信じてもいいんだよね?)


不安が募る様子を知ってか知らずか、先を急ぐ飄々とした態度のライに続くミラン。

長弓と弽は背中に背負って歩いているが、重さを全く感じない。

(魔力で重さを取ってくれているんだ。)




しばらく歩いていくと、段々空が暗くなってきた。

「これ以上進むのは危険だな。」

そう呟くと、川が流れている草原の一角に立ち止まる。

「今宵はここで夜を明かそう。

俺は他の準備がある。焚き木の用意をしてくれないか?」

「うん。わかった。」

細かい枝を付近で探しながら、ライを観察するとなにやら唱えている様子。

初めて聞くような言葉が並んでおり、理解ができない。

小枝を集め、ライの待つ場所へ引き返してきた。

「ライ、さっきはなにをしてたの?」

話をしながらしゃがんで小枝を円形に並べていく。

「あぁ。夜になったらわかる事だ。」

「ふうん?そうなんだー」

ミランがフゥと息を小枝に吹きかけると火の粉が舞い、ぱちぱちと枝に燃え移った。


「...妙だな?先程までは幼子のように、教えろ教えろと騒ぎ立てていたというのに。」

火を囲むようにミランの横に腰掛けるライ。


「んー。何となくわかったの。

私が聞いても、ライはぜーんぶ話してくれる訳じゃないでしょ?」

「だから、ライが話してくれるまで待ってることにしたの!」


「待っていたとしても、話さないかもしれないのにか?」

紫水晶のような瞳が、ミランにはどこか揺らいで見えた。

どこか俯きがちで話すライ。


「無理に話してほしくないな。私、ライのこともお姉さんの事も好きだよ?だから信じてるの。」


「信じるだと?」

「1度しか会ったことのない女と、素性のわからない俺をか?」

立ち上がり、ミランの方へ近づいてくる。


「俺が善人のふりをしている悪人だとしたら? 」


「お前の命なんかこんなにも容易く握られ、手折られるんだぞ?」


ミランの喉元に手をかけて脅すような口調とは反対に、今にも泣きそうな顔をしているライ。


「それでもいいの。

勿論警戒はしないといけないけれど。でも!」


「初めて会った私に優しくしてくれた事、日が暮れると危ないからって歩くのをやめたでしょ?

全部私のことを、想ってくれているのが伝わってくる。」


「私が信じた人は最後まで信じてる。ライがもしも悪人だとしても、私を殺しにきたとしても最後まで信じるよ。私が死ぬ間際まで。」

喉元に置かれただけの、優しい手をそっと撫でるミラン。

そしてそのまま、泣きそうな顔をしているライに手を伸ばす。


反射的にミランの手から逃れるようにスッと後方へ下がるライ。

誤魔化すように立ち上がり、

「外を見張ってくる。」

と立ち去ってしまった。


後ろ姿を見送り、ミランは1人火の番をする事になった。

あたりはすっかり暗闇に包まれている。

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