待ち望まれた少女
見渡す限り永遠に続くように思える金色の世界。
「んん…、ん?…ここは?」
キョロキョロと周りを見回すが、何もないただただ広い空間。
「前にも私、ここに来たことがあるような…?」
自分の意識がここにあると気づくと、状況が見えてきた。
ただ何もない靄がかかった世界に、ぺたりと座り込んでいた。
「えーっと…たしかお母様と、お父様と一緒にいたはずだよね?
でも、今は寝てないのになんで夢を見てるの??」
「うーん。サラがいないとわからないよぅ…。」
1人だけの空間は幼い少女の精神には耐え切れるものでなく、宝石のような瞳にじわりと涙が浮かんでくる。
「お母様、お父様……。ぐすん」
「泣かないで」
「だ、誰かいるの…?」
ミランの脳に響くような声が聞こえてくる。
(やだ、怖いよ)
小さな手をぎゅっと両手で握りしめる。
漂う靄が金色の幾つもの結晶になった。細やかな結晶は砂の粒子のように、キラキラと一粒全てが発光している。
「わぁ…きれい…。」
ミランを誘うように顔の前を結晶が群れをなし、サァーと流れる。
視線を向けると、何もなかった空間に半透明の上へと続いている階段が出現した。
「会いに来て」
「導を辿れば来られる」
結晶の方向から声がした。
「怖いけど、でも……。」
「ここに居るよりも、行くしかない…よね?」
小さな手で涙を拭き、しっかりと立ち上がる。
覚悟を決め、結晶に導かれるままに階段を登っていく。
幼い少女の足で、てくてく階段を登っていく。
結晶に向かって話しかける。
「あなたは、誰なの?」
「私はこの場所を守る者。」
「この場所?んー。名前はなんていうの?」
「名前、ですか……。
久しく呼ばれていないので、忘れてしまったようです。」
「じゃあ、あなたはなんでここに居るの?」
「あなた様をお待ちしておりました」
「私を?! 何のために?」
「現状を知っていただくためです。」
「知る?現状?」
「人違いじゃない?私には、なにも心当たりがないの。なにも。」
「私はただ、家族のもとに帰りたいの。帰してくれる?」
「人違いではありません。ポートミルの血を濃く継ぐ者は貴女さま以外に存在しません。」
「え?なんで私のことを…?」
「さぁ、つきました。」
「ここが私たちが守ってきた場所です。」
階段を登り切った頂点の先には、暗い暗い空間が見えるだけ。
何もない所に結晶が進んでいくと、ある場所でフッと消えた。
恐る恐る近くに行き、左手を伸ばす。
どぷんと水の中に手を入れているような感覚がし、咄嗟に手を引く。
まじまじと左手を見るが、勿論濡れていない。
「行かなきゃ!帰らなきゃ…!」
「えーい!!」
数歩下がり、助走をつけて飛び込む。
どぷん
ゴボゴボと水の中にいるような音がする。反射的に呼吸を止める。
肺活量の高いミランは、息を止めて光る結晶が導く場所に歩き始める。
しかしいくら肺活量が高くても、呼吸を止めていれば必ず酸欠は訪れるもの。
(く、苦しい…!)
(もう耐えられな)
ブクブクとミランの呼気が口から出てくる。
パニックになり、手足をばたつかせる。
(お、溺れちゃう!死んじゃう…!)
ごぼごぼと息を吐き切ると、自然と息を吸ってしまうのが人間の機能だ。
もうダメかと思われたが、急激に息が苦しくなくなる。
(普通に、息ができる?)
濃厚な酸素を吸っているかのように、急に元気を取り戻すミラン。
(光の方へ行こう)
ゆっくりと泳いでいく。
そのまま光の中に入ると、再び明るくなる視界に思わず目を瞑る。
徐々に光が弱まると、見えてくる景色。
緑あふれる丘に綺麗な青々とした芝生。
ちょこんとした教会らしき建物がそこにはあった。
結晶がきらりとそこを目指していく。
キィィと扉がミランの目前で自動的に開く。
そこには白いベールをつけ、白銀の衣を着た綺麗な女性が佇んでいた。
結晶はその女性の方へ集まると、
すっと体へ吸収したようだった。
「改めて、お待ちしておりました。ミラン・ポートミル様。」