芽吹き
「ポートミル侯爵家の家紋へ誓い、この誓約を違えることはありません。」
ミランの誓いを受け入れ、笑顔で微笑むユアイソン司教。
「これからはいつでも神殿にいらしてください。
私の持つ力、全てをお教えしましょう。」
「よろしくお願い致します。司教様。」
そしてこの誓いは司教へ受け入れられただけでなかった。
受け入れた存在は光の神力をふんだんに含み、突如として芽吹くことになる。
その後は、大聖堂にてベリー祭りの警備や当日の動きを確認するべく個室へと戻った。
広い重厚な机に、教会の図面をハウエルが広げミランの補佐をしている。
ミランは淡々と、当日の状況をユアイソン司教へ地図を指しながら話していく。
「まずは当日の確認ですわね。
国王陛下ならびに王妃殿下、王太子殿下が列席される予定です。
私も婚約者として王太子殿下の横に控え出席する予定です。」
「警備はお父様が指揮をとります。
教会周囲には王国騎士団の精鋭を配備、お父様による結界を展開する予定です。」
「それと、教会からも神官と聖騎士団の派遣を要請しております。
万が一があってはなりませんからね。有事の際は神官及び聖騎士団が治療にあたることになっています。」
「ありがとうございます。
そして全体の統括及び連絡は、
アンレイ公爵様が取り仕切る予定です。」
「そして、教会内部には各家門の長が出席します。
ただ、アンレイ公爵家と我が家門ポートミル侯爵家は、当主が任務についているためそれぞれ名代が出席します。
アンレイ公爵家からはサラ公爵令嬢が。ポートミル侯爵家からは母が参席します。」
「万が一のため、要人が散らぬようにひとつ所へ集めるよう座席を手配しております。」
「教会内部は結界を展開後のお父様、アンレイ公爵様もいらっしゃいます。これほどまでに厳重であれば賊の1人も入る事は出来ません。」
「教会への移動は王城より市民へ向けて、パレードも行う予定です。
通常は国王陛下、王妃殿下ご夫妻を先頭とします。
今回は、王妃殿下の度重なる強いご希望によりランリー王太子殿下が先導される予定です。」
「これはまた急なお話ですね。
王妃殿下が王太子殿下を溺愛されていると、噂には聞いていましたがここまでとは驚きました。」
「前日の会議で決定事項として周知されました。警備に変更はありませんし、問題はないかと思われます。お父様の率いる王国騎士団精鋭が馬車の警護にあたるのは変わりありません。」
「ご令嬢はパレードに参加なされるのですよね?」
「私は教会に残り、お父様に替わってご来賓の皆様の警護があります。王妃殿下からご希望でお父様自身が王太子殿下への警護をされることになりました。
よって私自身のパレード参加はありません。」
ここまでの話を聞いたユアイソン司教は、表情を暗くした様子があった。だがそれ以上に背後に立っている護衛より、殺意が背中を通してひしひしと感じられる。
(ハウエルから、今いるはずのない狼の気配がするわ。)
護衛の表情は決して見えない位置だが、アドルフの異名は過去国中を轟かせていた事を、半ば強制的に思い出させられたミラン。自分には見えていないが、目が真っ赤に光っていそうな気さえする。これ以上態度に出ないことと、邪魔をする事がないのであれば嗜めることもないと思い、無視することにした。
そんなヒリヒリした殺気をもろとせず、ユアイソン司教はミランに語りかける。
「こちらは、今後お教えすると思っておりましたが予定を変更します。
光の神力の初歩を今からお教えしましょう。
必ず役に立つと思われます。」
突然の申し入れに困惑気味のミランはこう答える。
「司教様、よろしいのですか?」
この問いに対し、ユアイソン司教は表情を硬くした。
「何か嫌な予感がするのです。
古くから、備えあれば憂いなしと言いますし当日の確認はここまでで問題ないでしょう。」
この後遅くまで鍛錬が続き、教会を出たのはとうに日が暮れた後だった。
王宮から馬車が待機しており、それに乗ってポートミル邸へと帰宅した。
そしてベリー祭り当日へ、それぞれの思惑を交差させながら時が過ぎ去っていった。




