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心変わり?

翌日 -朝-


部屋の扉がノックされる。

「お嬢様、失礼致します。」


「入っていいわ。」


ガチャっと扉が開く。


デスクチェアに腰掛けて、麗しい主人は艶のあるストロベリーブロンドの髪を風に靡かせている。


「お嬢様、お早いですね。 」

驚いた顔をする側近のハウエル。


「今日は、神殿との調整を殿下から任されているから。

まぁ、最終調整だから当日の確認をするだけね。」


「左様でございますか。

早々にお支度なさいますか?」


「ええ。お願いするわね?」


「承知いたしました。では、朝食をご用意しております。

ダイニングにてリリー様がお待ちです。」


「わかったわ。すぐに行く。」

デスクに読んでいた書類を置いて立ち上がる。


ダイニングにつきハウエルが扉を開けてくれる。

すると眼前に母親のリリーが既に座していた。

「おはようございますお母様!」


「おはようミラン。今日はいつもより早いのね?」

ミランの方を見るリリーは、年を重ねてもその美しさは変わりない。


「今日はベリー祭りの最終調整のため、神殿へ赴くつもりです。」


運ばれてくる料理は全て領地で採れたものだ。

豪勢な肉などはないが、葉や食用花は瑞々しく新鮮なものばかりで揃えて出してくれる。

食事に手をつけながら会話を楽しむ2人。


「そうそう! 神殿に行くのなら、このお野菜も持っていってくれるかしら?」

突然思い出したように提案をされる。

「なぜお野菜を?」


「ミランは知らないかしら?

この瑞々しい野菜達は、女神様由来の森から湧き出た水を使って育てているのよ?

これを食べると浄化の効果があって、具合の悪い方々の治療に役立つのよ!」

まじまじと料理に使われている野菜を見ると、確かに光輝くように生き生きとしている。


「...初めて知りました。

女神様由来の森とは、邸宅近くにあるあの大きな森のことですか?」


「ええ、そうよ?

前に動物達に案内されて3人で入ったことを覚えてる?

あの時はミランが倒れて本当に驚いたわ!

ロンったら私より顔を真っ青にしてたわよー?」

くすくすっといたずらっ子のように笑う姿は、年齢と相反した幼さを醸し出している。


「実はあの後、ロンがあの森の調査をしたのよ。

ミランが倒れたことが気がかりだったみたいで...でも変化がなかったの。」


「...そうなのですね。では、湧水はどこから?」


「頂上にあった大きな木を覚えているかしら?

あそこに小川が流れていたでしょう?

成分を調べたら毒や病を浄化する効果があったの。

あそこで咲いていた花々や、大きな木々は浄化の効果があってあそこまで成長ができたんじゃないかってロンから聞いたわ」


「なるほど。浄化の効果は、神聖な神殿で作られる聖水に限り得られるもの。

あの森は女神様由来の森。だから神官様が作られる聖水と同じ効果を持つのですね。」


「ええ。その通りよ。

お使い、頼んだわね?」



朝食を2人で楽しみ、私室に戻って出かける支度を始めた。


「お嬢様。本日は神殿に赴かれる予定ですので、こちらのドレスをお召しください。」


用意されていたのは、身の潔白を表す純白のドレス。

華美な装飾はあしらわれていないが、素材は一級品だ。最高級の絹が使われており、太陽の反射でキラキラと輝きを放つ。

耳元とペンダントは、ポートミル侯爵家を象徴するラピスラズリだ。


「お嬢様こちらへどうぞ。

おかけください。」


ハウエルの指示で大きな鏡台の前に腰掛けると、たくさんのメイク道具から数点を選び出してくれる。


「少々目を閉じていただけますか?」


言われた通りに目を閉じると、頬にふわりとした筆のくすぐったさを感じ、目元や唇には這うように指を添えられる。


「んっくすぐったい!」

我慢できずにムッとした様子で恐ると、

「もう終わりましたよ?

目を開けていただいて構いません。」

すっと目を開けて鏡に映る自身を見る。


「本日は桜をモチーフにしております。頬や唇には桜色をのせております。更に瞳が輝くよう、真珠を光の魔力で調合したラメをのせています。お嬢様のように、一輪の花のような可憐な女性にはよくお似合いですよ。」


ハウエルはいつの間にか鏡台に映り込むように、後ろから話しかけていた。


「あははははー。ありがとう。

でも、さっきのはくすぐったかったわ!

また私を揶揄ってるのね。」

キザなセリフに最早乾いた笑いしか出ない。が、それでも主人としてムッと眉間に皺を寄せて側近へ抗議するが、パウエルには効いていないようで。

「あまりにもお嬢様が可愛らしいもので...。お気に触りましたね。申し訳ございません。」

胸に手を当てて腰を折り謝罪される。

非常に見た目が良い側近は、劇の役者でもした方が良いのではないかと思う程言動が芝居がかっている。忠実な側近だがこの様子には呆れるしかない。


扉のノック音が聞こえる。


「お嬢様。王太子殿下がご到着されました。」


「私1人で赴くつもりだったのに、わざわざお迎えに?」

(まさか...昨日の手紙通りに来られるなんて。どういう風の吹き回しかしら。)

「すぐに行くわ。じゃあ、また夜に戻るわね。」


「承知いたしました。

いってらっしゃいませ。」



ハウエルは取り残されたミランの私室で化粧道具を片付けながら、主人の次なる装いを考えていた。

「次はワインレッドも似合いそうだ。いやいや、次は...」と似合うドレスやメイクについての独り言を言っているのを、母親の侍女長に聞かれお叱りを受けるのだった。



玄関ホールへ向かったミランは、螺旋階段を降りる途中で麗しい王太子の姿が確認できた。

あえて余裕を見せるようゆっくりと螺旋階段を降り、婚約者を待っている王太子の元へ立つ。

カーテシーをしながら、

「ごきげんよう、ランリー殿下。

ご足労頂きありがとうございます。ご公務の方はよろしいのですか?」

見た目麗しい王太子は、真紅を基調とした衣服を着用している。


「あぁ。それに、約束しただろう? 迎えに行くと。ミランを送り届けた後は、城へ戻る事にしている。」


「左様でございますか。

ですが、次からは私1人の公務の際は、迎えに来られないで下さりませ。」


「っ!? そ、それは...理由を聞いてもいいか?」

珍しく驚いたように目を見開くランリー。

(こんな表情もされるのね。)とやけに感心してしまう。


「...私はまだ婚約者です。

王太子妃という立場ではなく、1人の侯爵令嬢です。

全てのことにおいて殿下の助けがないと、何も出来ない()()()()()()と笑われてしまいますわ。」


(もう既に笑われているのだけれど。)

心の中で自嘲している姿は、ランリーが知らなくて良いことだ。王宮内での悪口や、嫌がらせの類は胸の内に秘めておくことにしている。まぁ、相手が相手だからというのが大きい。

いらぬことで王族同士揉めることがあれば、国が傾きかねない。それだけは避けねばならない。


「...そうか。それは申し訳ない事をした。次回からは気をつけよう。」


「是非、よろしくお願い致します。」


その後はいつものように、2人の間には会話がなかった。

ランリーのエスコートにより馬車に乗り込んだミランは、(いつもと違う事をするなんて、何をお考えなのかしら...。)とパートナーの置かれている状況について考察するのだった。


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