本当の名
突如現れた巨大な虹。
「なに?この温かい力は...?」
(しかもライより魔力が強い?)
視界を奪われているミランにとって、何が起こっているのかなどわかるはずもない。
「この魔力は...!まさか。」
ライは虹から出てくる魔力で、彼女が何をしようとしているかがわかった。
驚愕の表情は顔に張り付いたように固い。
ミランを担いでいる人物は、虹の魔力から退くような様子が見受けられ、苦しんでいる様子もある。
やがてミランは男によって捨てるように放り投げられる。
「きゃー!!!」
投げ出されたミランは視界が奪われているため、今どちらを向いているのかも見当がつかない。
ぎゅっと目を閉じる。
だが、ミランが想定していた衝撃が訪れることはなかった。
代わりにすとんとハマるような感覚。
視界を覆っていた黒い布が解かれる。目に映るのは薄紫水晶の瞳。
「ライ...!」
「大丈夫か?怪我は?」
いつになく、慌てたような表情。
姫抱きにし、守るように抱きしめてくれている。
「ありがとう。ライのおかげで、怪我してないよ!」
いつになく、安堵した表情を見せるライ。
「ミラン様、そして...ディア様。」
どこからともなく声が聞こえる。
それはミランも見知った声で、非常に優しい声色だった。
「...シヴァール?」
「ディア?」
ミランのことを捕まえていた男と、上位種の魔物は虹の魔力でできた檻に捕えられている。
シヴァールの姿は2人の目には映らないが、魔力は感じられる。
「お二人ともご無事でなによりです。魔物の掃討、異空からの干渉がある以上ディア様の魔力ではこの場を収められません。」
「だが!そんな事をしたら、お前は...お前自身は!」
「私の力が尽きる運命は変わりません。」
「私は、未来に託します。」
「ミラン様。ご成長された暁には必ずディア様を助けにきて下さいね。」
「ディア様ってライのこと?」
己を抱いている人物に視線を向けると、自然に目が合いそしてライは頷く。
「うん!必ず助けに行く!もっといっぱい強くなって守れる位に!」
その言葉を聞き届けたのち、虹の魔力は更に強くなる。
檻に捕えられた者たちは魔力を吸い取られているようだった。
ミランを捕まえていたロンネートは、次第に姿を維持できなくなり黒色の巨大魚に姿を変えた。
「ミラン覚えておけ。あれがお前を手招いていた奴らの真の姿だ。
あのように近しい者へ姿を変え、異空に連れ込む。」
生唾を飲み込むミラン。
虹の檻は堅牢なものへと姿を変え、次第に虹は姿を消していく。
「ありがとう、ディア様。
ミラン様お元気で...」
「シヴァールお姉さん!」
ライの手から離れ薄くなった虹を触ろうとするが、目の前でそれは姿を消してしまう。
虹は光の粒となり空へ登っていく。
いつの間にか横に立っているライに頭を撫でられた。
ミランの見るライの横顔は、どこか儚く悲しみが感じられる。
2人で虹が消えていく様子を目に焼き付けるように眺めていた。
光の粒が消えると、ライは跪いてミランの手を取る。
「気付いていると思うが、ライは本当の名ではない。」
「...うん。本当はディアっていうの?」
「ああ。本当の名は、ディア・ヒメル。」
「ディア....。でもどうして、嘘をついたの?」
「あの時は、ミランが知る必要がない事だと思ったまで。俺の真の名を知られるのは困るからな。」
「困る?なんで?」状況が飲み込めずきょとんとしている。
「...そのうち嫌でもわかる時がくる。」心底嫌そうな顔をしているディア。
「ふぅん?そうなんだ。」
これ以上はきいても無駄だと言うことがわかっているため、深追いはしなかった。
ミランとディアの間に、ふわふわと白い花弁が出現する。
「わぁ!白い花びら!!きれーい!」
ふわふわと舞う花弁を手のひらに乗せてみると、白く輝いているように見えた。
「...こちらも時間か。」
「ミラン、行くぞ。」
少女の手を引いて大木の幹へ向かう。
花弁はそこから出てきているようだった。
「この木が真の力を取り戻したようだ。ここを通れば元の場所へ戻れる。」
「ライ...じゃない、ディアはどうするの?」
「俺はこの地に留まる他ない。
心配するな。あと数年はあの檻のおかげで魔力を蓄えられる。」
「そっか...!私、もっともっと強くなって必ずディアの事を助けるからね!」
「あぁ、期待しておこう。名残惜しいが、時間だ。」
「元の世界に戻れ。」
「うん!またね!!」
幹の方へ歩いていくミラン。
それを後方から見守るディア。
ふと思い出したかのようにミランが振り返り、ディアの元へ走ってくる。
そしてぎゅっと抱きついた。
「またね!!!」と。
ミランの頭を撫で「元気でな」と柔らかな笑みを浮かべる。
満面の笑顔でディアから離れ、幹の中へと駆けていった。




