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山頂へ

ついに決戦の日が訪れる。

「ふわぁ」と目が覚めると、ライは座っているのが見える。


「おはよう〜。ライは早起きだね?」

眠い目を擦りながら起き上がる。

「俺は眠らなくても問題ない。そういうふうに出来ているからな。」

「夜の見張りをしてくれてる、お父さんの友だちみたいだね!

夜眠らなくてもいいように訓練してるんだって言ってた!」


凄い凄いと褒めちぎる少女へ聞こえないように、「まぁ、そういう事にしておこう。」と自分に言い聞かせるライ。


「この後準備ができたら行くぞ。支度をしろ。」

「うん。わかった!」


何が起こるかわからないので顔を洗いに川へ行くのはやめ、代わりにライが小さな桶に水を汲んでおいてくれたものを使った。

準備をしてライの横に腰掛ける。

いつもの少女なら元気に色々なことを話すが、今日は静かだ。


「怖いか?」


「うん。訓練では毎日してるけど、実戦で生きている魔物に矢を射るのは初めてなの。」


「命を奪うってどういうことなんだろう。」いつになく硬い表情をしているミランへ、こう告げる。


「...正確には奪うというのは不適切だ。前にも話したが、奴らは現実世界に実体はない。」

「命を奪うという前に、現実に生まれてすらいない。」


「生まれてない?」


「...まぁいい。それより、これ好きだろ?」

ライの手元を見ると、また沢山のベリーがあった。

「また誤魔化す!」

嬉しそうな少女の口元へ、一粒のベリーをつまんであてがうと躊躇いなくパクッと食べた。

「んー甘ーい!」

リスのように頬へ沢山頬張る姿を見て、口元が少し緩むライ。

(自分にこんな感情があるなんてな)

と自虐めいた事を考えていた。


「なんでお腹空かないのに、ベリー持ってきてくれるの?」

突然少女がライへ疑問をぶつけられ、緩急差に追いつけないライ。


「そう...だな。だが好きだろう?」


「うん!ベリーは大好きだよ!でも、お腹空いてないのに食べる必要ないよね?」

「...気が紛れるだろう?人の子はそう言うものだと聞いた。不満か?」

「ううん。こんなに沢山持ってくるの大変だと思ったから!ありがとう!」

たまにライがミランを見る時や喋る時、誰かの面影を重ねている事に気付き始めていた。


束の間の休息を過ごした2人は作戦を確認しあう。

「当初の予定通り、俺が先に入る。狼煙をあげたらお前も来るんだ。」

「うん。わかった。」

「掃討するが、雑魚が残るかもしれない。」

「なにか起こったらその弓にミラン自身の魔力を注げ。俺に感知し伝えられるようになっている。」

こくこくと頷くミランを宥めるように、「大丈夫だ。」といって頭をゆっくりと撫でるライ。


「行ってくる。」

そう言い残して魔物の巣窟へ足を踏み入れる。 

「今度こそは絶対に...。」

決意を胸に抱く。

ライの両手に光が宿り、パァッと弾けると光を帯びた白銀の大剣が姿を現した。


しばらく麓で待っていると狼煙が上がったのが確認できた。

急いで麓から山へ入る。

「うっ、凄い魔力...!」

(入ってみるとわかる。闇の魔力が満ちていて息苦しい...。こんなに沢山の魔物がいるの?)


一本道にはなっているがライの姿は先に見えない。

念の為矢を番えながら歩く。

ライの足跡を辿っていくと、風に揺れる白銀の髪が遠くに目視で確認できた。

3〜5体は確認できる複数の魔物を1人で相手にしており、やや部が悪そうに見えた。


「私だって、ライを守りたいの!」

周囲に魔物の気配はない。


しっかりと矢を射るため、自身がその場から動かない砲台のように土台をしっかりと足腰で作る。

ふぅと息を吐き、構える。

ゆっくりと起こし口元まで引き分ける。

狙いを定めると矢に魔力が注がれ、矢の先端である矢尻に雷が宿った。可愛らしい少女の見た目からはかけ離れたバチバチという音を立てるそれは、ミランの手から放たれると標的めがけて放物線を描き飛んでいく。


魔物たちは矢を避ける動きをとるがミランの方が上手だった。


矢は地面に突き刺さると、魔力が注がれ魔物の足元へ電流が流れた。感電したように足が地面から離れなくなっている。

その瞬間地面に刺さった矢が避雷針のように空から雷雲を呼び、凄まじい轟音と光と共に落雷してくる。地面を引き裂き、空気を破裂させたかと思うほどの爆発音が響く。

やがて白い煙が立ち、白煙が少しずつ晴れると立っていたのは中心にいたライだけだった。


「とんでもないな、あれは...。」

(俺に魔力探知ができなかったら、あいつらと同じ体たらくになっていただろう。)

周囲の魔物は跡形もなく消し飛んでいた。

ライは雷属性を探知した時より、自身の体に沿うよう結界を瞬時に展開したことで難を逃れていた。


ミランの作戦は成功していた。

遠矢で動く実体に向けて射る能力はまだ備わっていない。

そのため雷属性の魔力を矢に注ぐことで、地中の鉄と反応しその場から動けなくしたところを落雷で制す技だ。


ライは結界を展開できる事、属性探知が可能な事を認識していた為できた策だ。勿論魔力コントロールはされており、ライに被害が及ばないよう調整はしていた。

現実世界で成功している技の一つだが、ここまでの事は現実よりも更に上手くできたと言えるが違和感を感じていた。


「お父様からご教授頂いた時よりも威力が強いような...?」

(環境のせい?それとも弓?魔力が増えてる?魔力が伝えやすいような?)


考えていると、ライの姿は更に遠くにあり思考を止め急いで追いかける事にした。


後ろからおいつけるよう駆けていくと、茂みから1匹の魔物に背後をとられ後ろから短剣のようなもので刺されそうになる。

それに気付いていたミランは、スッと後方へ振り向きざまに弓で魔物を往なす。

魔物が後ろへ距離を取ろうとした時、瞬時に体を屈めて軸足である左足に魔力を注いだ。

光を帯びる足を、グッと地面にめり込むくらいに蹴り出すと光のような速さで魔物へ瞬時に距離を縮めた。


先ほどまで番えていた弓を槍のように扱い、弓の先端には金属製の刃物が取り付けられておりその勢いのまま突きを繰り出し命中する。


「グェェェェェエ!!」と断末魔のような声を出し砂のように溶けて崩壊していった。

その場所に留まり、魔物がいた場所へ手を合わせる。

(痛くしてごめんなさい。)

目を開けミランは、ライを再度追い始める。

山頂付近へ到達するまでに、魔物はライにより殲滅されていた。

安全に通る事が出来たミランは、山頂へ登った時血の気が引いてしまう。


道中と比べ物にならない程の魔物の数。下位の魔物から中位、大木付近に一際大きい魔物を従える上位種も見受けられる。

ライは全ての魔物たちに囲まれ、各所に傷を負っていた。

上位種は、頭部に渦を巻いている角が2つある。下位よりも強い闇の魔力を感じる。身体もかなり大きく、ミランは片手に収まってしまいそうだ。


「女が来たぞ。あいつを手に入れ我らは生を受ける。お前には不覚をとりこのような場所へ封じられたがな。」


「そんな事はさせない。お前たちをここから出すような事はない。永遠にな。ミランもお前たちに渡すつもりはない。」


「ふん、強情なことよ。既にこの空間を維持するだけで精一杯のように見えるぞ?

我らを現世に送らぬよう封じたはいいが、倒すには力が足りぬではないか。

我らはそこの女を手に入れ、その力を手にした後お前を倒しこの空間を脱してやるわ。」


「私に、力? 私の身体を乗っ取りたいんじゃないの?」


薄ら笑いを浮かべる大きい魔物はこう言う。

「お前は知らぬようだな。

教えてやろう。お前はあの目障りな女から、譲り渡されただろう?

確か代々こう言ったな ()()と。」


「え、だって!あれは、役割を私に渡すだけだって!」

焦りと驚愕を隠せないミラン。


「ハハハハハハ! これは愉快だ。そのような事もわからずにいたと言うのか。」

心底愉しそうに笑う魔物の顔。

ミランはその空気に圧倒されていた。


「黙れ。お前などと話すのも不愉快だ。」

ライの表情は変わらない。

だが静かに怒りを感じる。


「この小童めが。今のお主に何ができる。お前の四肢を引きちぎり、存分に蹂躙した後我らはこの世界から脱しよう。」


「あの忌々しい女も共にな。」


「者どもゆけ!奴を倒し自由を手に入れる!」

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