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6話:兄としては妹の奇行を止めたいんだけどあまり強く言えないジレンマ


 

 「ただいまー」


 「お兄ちゃんお帰りなさーい」


 家に帰ると日和が真っ先に出迎えた。

 えへへと笑いながら近づいてくる姿は犬のようだ。

 

 「珍しいね、お兄ちゃんがこんな遅くに帰ってくるなんて」


 「んーまあ、学校の子と一緒に帰ってたからな」


 「お友達?」


 雪兎とは今日知り合ったばかりだ。友達かどうかと言われると違うだろう。

 だが、どことなく放っておけない感じがする奴だった。

 話を聞く限りではあいつはクラスにも友達があんまりいないみたいだし、別クラスというのも踏まえると今後も顔を合わせる事はあまりないだろう。


 「いや、今日知り合った」


 「女の子?」


 「男だよ」


 「そっかぁ男の人なんだ」

 

 どことなく嬉しそうな声色で日和が呟いたのを見て少しだけ考える。

 ……最近、日和は俺の交友関係を探る癖がある。友達と遊びに行くと誰と何をして遊んだのか、何処に遊びに行ったのか、なんて事を毎回のように聞いてくるのだ。

 若干の面倒くささを覚えながらも律儀に教えるのだが、一体この問答の繰り返しはいつまで続くのだろうか?

 本編では兄に対して今のような一面を見せなかったのだが、あの場合の達郎は毎日、真っ直ぐに家に帰ると自室で過ごしていたから把握する必要が無かっただけかもしれない。

 日常の描写が短すぎる為に日和の内面が非常に分かり難いのだ。

 

 本編との乖離を感じるが、そこは割り切るしかないだろう。


 たぶん成長するにつれて次第に原作みたいな性格に落ち着いて行くだろう。そんな風に結論づけた。


 「今から着替えるから外で待ってろよ」


 「私の事は気にしないでいいよ、お兄ちゃん」


 部屋の中まで付いてきた日和だったが、生憎と妹とはいえ異性の前で着替えを出来る程に図太い神経をしていない。

 普段ならば家に帰って部屋の中へ直行して速攻で着替えるのだが、今日はゆっくりとしてしまった為にこのような事になった。

 俺が何度部屋を出るように促しても日和は中々首を縦に振らない、力づくで無理やり追い出す事は可能だが流石に妹相手に暴力は振るえない。……しょうがない、か。

 

 「はぁ、分かった好きにしろ」


 「うん!」


 日和の事はなるべく視界に映さないように意識をしながら、服を脱いでいく。

 

 「わぁ~お兄ちゃん、すっごい筋肉」


 俺が上半身脱いだ途端、すぐ傍で感嘆のような声が上がる。

 確かに俺の身体は鍛錬によって極限まで鍛えこんでいる。単純な筋トレとは別に実戦を想定した筋肉の付け方をしているつもりだ。

 夏場の水泳の授業の時なんて、皆の視線が俺に集中しているのが丸分かりで正直やり辛さを感じていた。

 だが、一番視線を集める部位はやはり胸板から腹にかけて付いている、噛み切られたかのような傷痕だろう。

 これは4年前、野犬に襲われそうになった幼馴染2人と日和を庇って出来たものだ。

 事情を知らない者が見れば何事かと思う傷だろう。実際に好奇心が擽られるのかクラスメイト達からは何度も聞かれている。

 毎回事情を説明するのも面倒なので偶に盲腸の手術痕だとか、隕石が降ってきたとか適当に誤魔化している。

 

 「……」


 日和の言葉を無視して、黙々と着替えを続けているのだが、ベッドの上に腰掛けている日和の声は止まらない。


 「たぶん、学校中探してもお兄ちゃんより鍛えてる男の子はいないと思うの」


 無視だ無視。学校指定の短パンを脱ぐと黒色のボクサーパンツが姿を見せた。

 前世から俺は白のブリーフが嫌いだった。……その理由は前の部分が黄色くなるからだ。

 だから俺はボクサーパンツしか穿かない。我が家にはブリーフは存在していない。

 そもそも大人になって白のブリーフを履いている人間っているのだろうか?

 もし居るとしたらよっぽどの変態だと思うんだが。


 「ねぇ、お兄ちゃん、触ってもいい?」


 脳内でしょうもない事を考えつつも無言で服を脱いでいるといつのまにベッドから降りたのか日和がすぐ目の前に居た。

 そして俺が答えるよりも早く、日和の小さくて柔な手が俺の胸板に触れていた。

 ちょっとむず痒い。


 「俺が答える前に触るなよ」


 「えへへ、ごめんなさいお兄ちゃん、けど、お兄ちゃんの身体触ってると凄く安心するの」


 俺の身体を撫でまわすように日和の手が蠢いた。特に傷痕を何度も指でなぞっていく。その仕草が妙に艶めいていて、触れるたびに背筋が揺れ動きそうになる。

 

 「……俺の身体を触っても面白くないだろ」


 「全然そんなことないよ、お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんの身体だったら一日中触ってても飽きないよ」



 気持ち悪い事を言うなよ。



 思わず日和から視線を逸らす。部屋の僅かに開いたカーテンの隙間から、同じようにカーテンが掛かった部屋が見えた。

 今頃、明美も学校から帰って部屋に居るのだろうか?ふと、そんな風に考えてしまう。

 本編での明美と達郎の関係は表面上は仲睦まじいものだった。達郎が意識しているだけなのだが、恋愛物にありがちな甘酸っぱいモノに見えたのだ。

 達郎が知らない裏では明美は中学の時の先輩に調教されきっており、完全に先輩の言いなりだったのだが、達郎はそれに気付く素振りを一切見せなかった。

 先輩の命令で先輩の同級生との乱交や、外での露出、部屋での生ハメ、その他諸々を経験させられている。

 先輩もクズだが、それにのめり込んでしまう明美も相当やばい奴だろう。

 そしてそんな明美に未練たらしく縋りついて去勢されてまでも明美と一緒に居たがった本編の達郎もやばい奴だ。

 まあ、寝取られゲーに倫理観なんて求める方がおかしいと言われればその通りだと言うしかないのだが……。

 だけど、今日俺は雪城雪兎と出会って考えたのだ。

 雪城雪兎というのは本編では一切登場しない人物だ。だけど彼はこの世界で生きている。

 そう生きているんだ。物語に登場する脇役ポジションじゃない、生きている人間だった。

 だから、当然……寝取られるヒロイン達も生きている。


 何を当たり前の事を言っているんだと言われそうだが。

 

 全てが決められた筋書の通りに物語が進んでいる訳じゃない、俺が俺であるようにあくまでもあのゲームの結末は可能性の一つに過ぎず、未来は分岐していくものではないだろうか?

 実際に俺が達郎に生まれ変わった結果、『僕が気付かない内に大切な家族と幼馴染達が染まって変えられていく~』の筋書は滅茶苦茶になっただろう。

 俺の目論見が全て上手くいくなんて考える程、俺は傲慢でもないし目出度くもないが、少なくとも自分が知らない内に寝取られる事はないと言い切れる。……いや、大丈夫だよな?

 

 まあもし何かあったら俺が土台ごとひっくり返すつもりだから問題はないだろう。

 

 なんとなく忌避感から明美に対して露骨に距離を取っていたが、向こうからしたら何か分からない内に幼馴染に嫌われたと思った事だろう。

 そう考えるとなんか全面的に俺が悪い気がしてくるのは不思議だ。


 ……明日からは前みたいに普通に接しようかな?


 なんて考えた時だった。胸元になんか生暖かい感触がしたので、視線を戻したのだが目に入った光景に思わず背筋が凍り付く。


 「お、おい!なにしてんだ!?」

    

 「んむ、んちゅ、ん……えへへ、我慢できなくなっちゃった」


 いつのまにやら、日和は俺の胸元に顔を近づけて舐め回しているのだ。

 傷痕に添って舌を這わせて、唇で垂れた唾液を啄んでいく。

 俺の驚愕した顏を見て唇を離すが、日和は悪びれる様子もなく照れたように笑っている。


 「お、お前どうしてこんなことを」


 まじで何考えてんの?

 

 「舐めたら傷が少しは消えるんじゃないかと思ったの、ほら、傷口には唾液がよく効くって言うでしょ?」


 「そ、そうか……けど、もう痕になってるからたぶん舐めても効果はないと思うぞ」


 それに唾を付ければ治る程の小さな傷でもない。日和は少し天然が入ってるので、俺には真意が掴めなかった。

 ただ少なくとも悪意は感じられないので軽い悪戯だと自分を納得させる。

 

 「お兄ちゃん、怒った?」


 「い、いや怒ってない。ただ驚いただけだよ」


 着替えるのは鍛錬をして汗を流してからにしよう……そう気を取り直して、俺は日課の鍛錬をすることにした。

 毎日繰り返し行っている貫手の鍛錬で指のテーピングは欠かせない。

 だが、巻く量と回数は徐々にだが減っていっていた。

 そのお蔭で腕立て伏せにバリエーションが追加されたのだ。

 今までは両手の手の平を床に付けてやっていたのだが、指に皮が残るようになってからは指だけで行うようになっていた。

 俗に言う指立て伏せという奴だ。

 これは普通にやる腕立てよりも指に負荷が掛かるために効果がより顕著に表れる。

 

 最初は両手で10本だった支えが日々の成果と慣れによって今では1本立てが出来るようになっていた。

 

 「ッフ……っふ、っは、っふ」


 10回、15回、20回、30回。使わない片腕を背中に乗せて、指1本のみの支えで腕立てをやっていく。

 尋常じゃない負荷と負担が指に集中するが、俺の指は見事に身体を支えている。


 「……ふふ」


 日和はいつものようにベッドに腰掛けながら鍛錬に励む俺を見つめている。

 

 片腕の1本立てを左右の腕、それぞれ50回1セットを2セットやれば終了だ。


 凄まじい量の汗が身体中から噴き出ているのが分かる。俺の体温によって熱せられた室内の空気、まるで人間スチームになったかのような気分だ。

 髪の毛からは湯上りのように雫が垂れ、立っているだけで目に汗が入ってくる。

 そんな凄まじい湿気に塗れているだろう室内で平然としている日和を見ていると感覚が麻痺してくる。


 「風呂、湧いてるかな」


 「お母さんが洗ってたからお湯入れたらすぐに入れると思うよ」


 「そうか、じゃあ入ってくるよ」


 「うん!じゃあ私もそろそろテレビ見てくるね!」


 換気の為に窓を開けて俺が部屋を出ると同時に日和もその後を追って部屋を出る。

 その頃には日和が俺の胸元に付けた唾液は汗によって流されて、先ほどあった日和の奇行も俺の中ではすっかりと薄れていた。

 いやこの場合は塗り潰されたのか?


おや?日和の様子が…


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[一言] 寝取られゲーからヤンデレゲーにシフトチェンジかな?
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