2話:唐突に続編が生えてくると設定関係無茶苦茶になるよね
時間が経つのは本当に早いモノで寝取り男が転校してきて3年が経った。その間に俺は小学6年生になった。
堂万勝重はこの学校に大分馴染んだと言っていいだろう。
素行の悪さに問題があるため教師陣からは悪ガキ扱いだが、それが逆にワイルドでカッコイイなどと女子の間では密かに話題になっている。……なんでやねん。
『僕が気付かない内に大切な家族と幼馴染達が染まって変えられていく~』の世界においての柳達郎はパっとしない男だった。
成績は中の上で運動に至っては下の中、手先は多少器用だが特筆するほどではなく、性格も優柔不断で大人しい少年だった。
本来ならばそんな風に育つのだが何故かこの世界では俺が柳達郎に生まれ変わっていた。だから俺は俺の好きなように生きようと思う、というか生きた。
勝重がこの学校に来て以降、より熾烈に何かに憑りつかれたかのように我武者羅に身体を鍛えに鍛え続けた結果。
成績は上の上、運動神経も上の上。学校の通信簿ではオール5の快挙を達成し続けた。
無論、教師の言う事も率先して聞いたり、クラスの奴らから角が立たないように上手く立ち回ってクラスをまとめ上げたりもした。
そう、一度頂点を目指すと決めた以上妥協は一切しない。常に上に君臨し続けてやる。そう決意したのだから当然のように頑張った。
そして現在、俺が何をしているのかと言えば……
「100、101、102――110――140」
自室にて腹筋をしていた。
腹筋だけじゃない、スクワットや走り込みに腕立て伏せ、さらにはお手製ミットへの打蹴撃訓練など半端じゃないメニューを組んでいる。はっきり言って成長期の子供が熟すには無理があるメニューだと思う。
だがそれでもやらなければならない。……いや、必ずやり遂げて見せる。そう覚悟を決めて俺は鍛錬に励んでいた。
そんな気概があったお蔭か日夜欠かさず行った鍛錬の成果は目に見えて出ていた。
「おにいちゃんの身体、すっごくカチカチだぁ」
そしてそんな鍛錬風景を暇なのか妹がよく見学している。
俺のベッドに腰掛けてキラキラした瞳で見つめているのだ。そして時折、俺の鋼のような肉体を触っては嬉しそうにはしゃいでいる。
何が楽しいのか分からない。少し前に俺がそう尋ねた事があるのだがその時の返答がこれだった。
「おにいちゃんが頑張ってる姿を見てると日和も嬉しいの」
なんて愛くるしい妹なんだろうか、無邪気に笑う日和を見てそう思った。本来ならばTVでアニメなり漫画なりゲームなりする年頃なのにも関わらず、お兄ちゃん子に育ってくれたのだ。
……しかしまあ、数年後に勝重の上で腰を振るような存在に育つのだと考えると色々と複雑な思いが胸に渦巻くのだが、所詮は仮定の話だから除外しよう。
ひとまず鍛錬の邪魔にならなければ問題はない。そう思って放置した。
実際、肉体を鍛えている間は俺は何も考えていない……というのは語弊がある。
確かに考える余地はない、だが、常に想定しているのだ。最強の肉体を、前世では至れなかった領域を、毎日、毎日、飽きることなく、欠かす事なく……むしろ、日を重ねるごとに思いは強くなっていくばかりであった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、よし、ウォーミングアップはこれくらいでいいな……日和、そろそろ時間だから道場に行く準備をするよ」
部屋に備え付けられている時計を見て俺は鍛錬を休止した。
そう、上記のメニューは全て前菜に過ぎない。今から俺は街に一つだけ存在する柔術の道場へと向かうのだ。
幼馴染の一人がその道場に通っていて、その幼馴染に頭を下げ拝み倒して俺も通わせてもらっている。
柔なくして剛は成り立たず。即ち、肉体を鍛え上げ剛を高めるのと同時に柔術によって柔を学び取り入れる事で更なる肉体の飛躍を望めるのだ。
最初は本を読んで独力で学ぼうかと思っていたんだが、やはり先達者に教わるか否かで大きく伸びに差がでると思い俺は幼馴染へと頭を下げた。
無論、母親にもきちんと許可を取った。母親である日向は俺の強くなりたいという意思を汲んでくれており、俺の最強になりたいという夢も馬鹿にすることなく真摯に応援してくれていた。
もっとも所詮は男子特有の叶わぬ夢だと思っているのかもしれないが、いつか俺が現実を見て折れるのを見越しているのかどうかは分からないが、応援すると言ってくれた。
叶うといいわねと笑って言っていた。ならばそれに全力で応えるのが礼儀だろう。
そしてその成果はきちんと出ているので無駄ではなかったと俺は思っている。
「うん、お兄ちゃん! 頑張ってね!」
日和が穢れなき笑みでエールを送ってくるのを見て、嬉しい反面、なんとも複雑な気持ちになるのを抑えられなかった。
いや、抑えろ、所詮は仮定の話なんだからッ!
軽くシャワーを浴びてから道着に着替えていると、インターホンから来客を知らせる音が家の中に鳴り響く。
「はーい、今でまーす」
母さんがエプロンを身に着けたまま、玄関の方へと向かっていく。
見る限りでは清楚だが、俺と同年代の勝重によがらされて雌豚落ちする末路を知っていると性根は淫乱で淫売に違いない。
考えてみると日和の母親なんだから当たり前だよなぁ!?
「達郎ー! 紫雨ちゃんが迎えに来てくれたわよー」
「分かったー、すぐ行くー」
どうやら迎えが来たようだ。俺は身の着ままに自室を出て玄関へと向かった。
「すまない、待たせた」
きめ細やかでよく手入れされているのが見て分かる、青みがかった長い髪。
意思の強さと怜悧さを感じさせる切れ長の瞳。高く通った鼻筋に、リップも塗っていないのに艶やかな唇。
血色がよく染み一つない白い肌。
胸は年齢を考慮すると全然育ってないが将来はボインボインのホルスタインになることは確定している勝ち組の女。
いや、末路が叔父の愛玩ペット兼肉奴隷なのは果たして勝ち組と呼んでいいのか俺には全く分からんが。
玄関に差し込む夕焼けに照らされたその姿は幼い少年に淡い恋心を抱かせるには充分だろう。
しかし、家の前に停まっている黒塗りの高級車がこの少女と住む世界が違うのだと幼いながらにも理解させられてしまう。
「いや、大丈夫だ、まだ充分に時間がある」
そんな彼女が俺に向かってニッコリと微笑んだ。
「いつもありがとう、紫雨」
「私がやりたいからやっているだけだ。気にするな……達郎」
桐生院紫雨、彼女は『僕が気付かない内に大切な家族と幼馴染が染まって変えられていく~』の続編に登場するヒロインである。
ちなみに続編のタイトルは『僕が気付かない内に大事な彼女が堕ちていく~』だ。
そしてその大事な彼女というのが眼前にいる桐生院紫雨だ。
続編の主人公は紫雨の後輩なので前作主人公である達郎こと俺が紫雨と絡む理由が分からないと思うだろう?
けど、特設サイトの紫雨のキャラ紹介に前作との繋がりを匂わす文章があるんだよなぁ。
桐生院紫雨
聖柳大付属高等学院の生徒会長を務める自他共に認める文武両道、品行方正、才色兼備、あらゆる賞賛を一手に引き受ける学園創業以来の才女。
桐生院財閥のお嬢様でありプライドこそあるものの、それは傲慢ではなく気品である。
真面目で厳格な性格で冗談や下世話な話は嫌いだが、可愛いモノ好きと言った以外な一面も持っている。
後輩である主人公のどこに惚れたのかというと、常に努力を怠らず心に決して折れない芯を持っている所らしい。
顏や家柄などはどうでもよく、心に惚れたとは本人の弁。
芯を持った人物が好きなのは昔好きだった幼馴染が原因だとか!?
しかし現在では既にその幼馴染の事は割り切っており、本人はあまりその話をしたがらない。
PS.後輩を心の底から愛していて、近々父親に紹介しようと考えてるとか?!
これだけでは分かりにくいだろう。
しかしゲームを進めると途中で主人公に対して紫雨が心境を語るんだ。
その内容が、昔好きだった幼馴染が居たけれど小学生の高学年から腑抜けていき、中学になると完全に卑屈になってしまい。
何度言っても改善が見られなかったので失望して好きではなくなったのだと主人公に語るんだ。少しの未練はあったがそれを断ち切るために前々から父親から言われていたこの聖柳大付属に進学したんだと。
昔の幼馴染は心に芯を持っていて、そんな幼馴染が好きだったが、彼は変わってしまった。悲しそうに語る紫雨。
そしてそんな紫雨を見た主人公が僕はその幼馴染みたいにならない!って決意をするんだけど、今更だけどコレ完全に前フリだよな。
最終的にこの主人公、心の芯をバキバキに折られて不登校からの自主退学コースになるし。
まあ……兎も角、この幼馴染の小中学というのが完全に前作の主人公の境遇と一致したから、前作主人公と紫雨が幼馴染だと判明したんだよね。
ぶっちゃけ前作では紫雨の影も形も登場してなかったから後付だろうけど、この世界には幼馴染として存在してるから繋がり自体は確かにあるのだろう。
俺はそう納得してからは両作品の繋がりについてあんまり深く考えない事にした。
そもそも俺が達郎に生まれ変わった事自体がイレギュラーなのだから原作知識……知識になるのかは微妙だかはあまりあてにならないかもしれん。
そう考えていると、先に車に乗り込んだ紫雨が口を開いた。
「どうした、何か考え事か?」
「いや、なんでもないよ」
紫雨にそう言ってから俺は車に乗り込んだ。
高級車に乗るのはいつも慣れない。近隣の人の目もあるし、偶にもう一人の幼馴染がこっちを見つめている事がある。その時が結構めんどくさいのよ。
だってもう1人の幼馴染の家って俺の家のすぐ隣だし。というか俺の部屋の窓を開けたらすぐ目の前に幼馴染の部屋があるし。今だってほら、疎遠になった幼馴染が2階の窓からこっちを見てる。
カーテンの隙間から覗く顏がこえーんだよッ!!
紫雨は気付いていないのか、特に表情には出していない。だから俺も気付かないふりをして車に乗り込んだ。
正直、肉親である妹と母親は俺に直結するから兎も角として隣に住む幼馴染は別にどうでもいいからなぁ。勝手に寝取られてくれって感じなんだよね。
というかゲーム開始時点で既に寝取られてるから防ぎようがないのだ。
はっきり言って俺は隣の幼馴染の行為には嫌悪している。作中で達郎に対して行われた理不尽な行いに対して制裁を加えてやるとも思っていたのだが、現実としてこっちの幼馴染自身は未だに何の行動も起こしていないために俺は何も出来ていない。
だから今、俺と幼馴染は疎遠になっている。クラスは一緒だが会話はまったくしていない。
俺からの一方的な絶縁なのだが、きっと向こうは何故いきなり絶縁されたのか分かっていないだろう。
とりあえず、道場までは結構な距離があり車でしばらく時間が掛かるので、俺はその間に窓の外をボーっと眺めていた。
紫雨は寡黙であまり喋る方じゃないからな、だから此方から話しかけない限り、あまり会話をしないんだよ。
それが滅茶苦茶楽で、紫雨とよく絡む理由になる。ちょっと前までは幼馴染も含んだ3人でよく遊んだんだが、最近では紫雨と絡む事が多くなっている。
もっとも絡むと言っても学校ではクラスも違うし接する機会自体があんまりないため、道場に行く時くらいなので大体週3くらいだ。
これを多いと取るか少ないと取るかは受け取り方次第だろう。
俺的には多いと思う。