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xx話:落とし前

時系列が1年ちょっと飛んでるので少し混乱するかもしれません。


 目覚めと共にまず最初に感じたのは身体の痛みだった。

 背中が痛い。いや、背中だけではなく身体中が痛かった。

 眩暈もするし気分も悪い、頭が痛くて吐き気もする。

 

 「──ッ、ぁ、い、痛い」


 あまりに痛みに悶えながらも、なんとか起き上がろうと手を動かそうとするが、縛られているのか動かす事が出来なかった。

 なんとか状況を把握しようと視線を動かすが周囲は何も見えずただ暗闇が広がっている。

 一体何がどうなっているのかまったく理解が出来ない。

 どういうことだ?自分にどんな異常が起きたというんだ!?


 「ぁ、だれかッ!だれかッ!!いないのか!?」


 喉から本当に自分の声なのかと疑いたくなるような嗄れた叫び声が上がるが形振り構っている余裕はなかった。

 

 「助けてくれッ!誰かッ!!誰でもいい!!」


 足も手と同様に縛られているのか、ただ地面を這う事しかできない。

 だから身体を捩り動かして仰向けの状態になって声を張り上げる。

 今の俺に出来るのはこれくらいしかなかった。

 床が地面のせい凹凸が酷く動くたびに背中が痛くなるので、なるべく身体を動かさずに声だけを出していく。

 しかし叫びすぎたせいで喉が痛くなったので次第に声を出す事をやめる事にした。

 

 「……なんで、どうして、俺がこんな目に」


 危機的状況は未だに脱していないが、幾分か冷静になった頭で思考する。

 朦朧とする意識の中で思い出す。

 俺は昨日、確かに自分の部屋のベッドで寝ていた筈だ。

 なので目が覚めたら自分の部屋のベッドで目が覚めないとおかしいだろう。

 そんな考えがぐるぐると脳内を回っていく。

 だが答えが出る事はなかった。

 ただ、淡々と時間だけが過ぎていく。

 このまま俺はどうなるのか、不安と焦燥でどうにかなりそうな状況の中で……。

  

 「起きたか?」


 唐突に声がして、大きく驚いた。

 そして、追い打ちをかけるかのように声のした方向から光が灯っていく。


 「──ぅぁ……」


 突然湧いた光源を直視してしまい瞬きを繰り返す。

 それを何度か繰り返していくと、ぼんやりとしていた周囲の景色がようやく視界に映った。

 剥き出しの岩盤に囲まれた閉鎖的な空間のようだ。奥まで続いているようだが光源が届かないせいでどこまで続いているのか分からない。


 「──ここ、どこだ」

 

 自然と頭に思い浮かんだ疑問が言葉となって呟かれる。

 自分の昨夜の記憶をどれだけ思い返しても、自室のベッドに入った記憶で途切れていて、この状況と結びつく事は有り得なかった。



 「ここは廃棄された炭鉱だよ。まあ、炭鉱っていっても本当に小規模なモノだけどな」


 男の言葉の通り、周囲を注視すれば朽ち果てたトロッコやスコップの残骸が視界に入ってくる。

 だが、同時に疑問が浮かんだ。

 

 「そんな所にどうして、俺が居るんだ」


 「それは俺が連れてきたからだよ」


 返ってくる言葉はどこまでも淡々としていた。


 「ど、うやって」


 「……どうしてだろうな?どうやったと思う?」


 浮かび上がった当然の疑問に対して返ってきた言葉は逆に此方を問いかけてくるものだった。

 それに対して怒りの気持ちが湧いてくる。

 

 「ふ、ざ、け、る、な、犯罪、だからな、ッ、お前が、や、ってるのは……犯罪、だから、なッ!すぐに…捕まるぞ」


 そうだ、犯罪だ。どう考えても許される訳がない。

 許されていい筈がない!!きっと今頃は俺がいない事に気付いた親がすぐに警察に通報している筈だ。

 そして捜索隊が組まれて俺を捜索しているに違いない。

 そうなれば目の前の男だってッ!!


 「……ははッ」


 そんな俺の言葉を聞いた男は焦る訳でもなく怒る訳でもなくただ小馬鹿にするように笑った。

 それが不気味で気味が悪い。


 「まあ、水でも飲んで落ち着いてくださいよ」


 言葉と共にペットボトルが放り投げられる。

 コロコロと俺のすぐ傍で転がるペットボトル。

 そんなふざけた行動を見て自然と声が荒くなる。


 「ふざけてんのか!!手足縛れてる状態で飲める訳ないだろうがッ!」


 光源が出来た事で把握できたが、手足はビニール紐でガッチリと括られていた。

 そんな状態でペットボトルなんて拾える訳がない。

 当然、目の前の男もそれを把握している訳で。


 「悪い悪い、そりゃそうだよなぁ!手足縛られてたら確かに飲めないわな!」


 「いい加減にしろよ!何が目的なんだよ!!ちくしょうがッ!早く紐を解けよ!!ぶっ殺してやる!!」


 明らかに悪いと思っていない態度で男が小馬鹿にしたように笑う。それを見て俺は恐怖よりも怒りが勝った。

 きっと今、もしも手足が自由に動いていたならば、俺はこの男をタコ殴りにして半殺しにしていたに違いないッ!!

 

 「おーおー、そんな状態なのに随分と威勢がいいな。はは、それにしたって殺す……か」


 そんな俺の態度に物怖じもせずに男の笑い声が洞窟内に反響する。

 そしてコツコツと男が靴を鳴らしながら近づいてくる。

 光源の届かない距離から一歩ずつ、倒れ伏している俺との距離を詰めてくる。


 「く、くるなッ!」


 それを見て俺は反射的に叫んでいた。

 だが男はそんな俺の叫びに耳を貸さず、立ち止まる事なく近づいてくる。

 

 「おいおい、そんな怖がる必要はないだろう。せっかく人が親切で水を飲ませてあげようとしてやったのに……なあ、先輩」


 そんな言葉を口にして、近づいてきた男の意外な姿を見て、俺は困惑した。混乱した。

 

 「なんで、お前がここにいるんだよ?」


 何故なら俺が知る限り、この男はこんな事をする奴ではなかったからだ。


 「柳ッ!」


 「何でだと思う?」


 理解が出来なかった。どうして柳がこの場所に居るのか。

 そして先輩と言った通り、目の前にいる男は俺が通っている学校の後輩で生徒会に所属しているとてつもなく優秀な生徒だ。

 柳は誰に対しても分け隔てなく接し、教師は勿論、先輩に対しての礼儀を持ち合わせている。

 成績は常に学年上位を維持しており、文武両道を地で行く優等生。

 後輩からも先輩からもその面倒見のいい性格から慕われている完璧超人。


 それが柳達郎だった。 


 周囲からそう評されている男なので当然のように学校でも有名だった。

 柳と直接接点を持っていない俺ですらそんな情報が耳に入ってくる程に。


 「分かる訳ないだろうがっ!なんでてめーがココにいんだよッ!」


 だから分からない。

 

 「というか、早くこの紐解けよッ!ぶっ殺すぞてめー!!」


 柳がどうしてこんな行動に出たのかが、どうやって俺を此処に連れてきたのか、どうして今も楽しそうに笑っているのか。

 ……理解ができない。


 「チンタラしてんじゃねぇよ!!早くしろやッ!!」


 捲し立てるように柳に言葉をぶつけるが、柳はニヤケ面のまま俺のすぐ傍まで近づくと、足をゆっくりと上げて。


 「まあ、落ち着けよ先輩」


 「ふげッ」

 

 倒れ伏している俺の顔を躊躇なく踏み抜いた。隆起のある地面に後頭部が打ちつけられる。

 その時の衝撃と痛みで目の前が暗くなり火花が奔った。

 

 「そうやってキャンキャン咆えんなよ、このまま頭潰したくなっちまう」


 ぐりぐりと鼻っ柱に靴底を押し付けながら柳が言葉を続けてくる。


 「な、な゛な゛に゛し゛やがる゛!」


 「見ての通りだよ。てめー頭狂ってんのか?」

 

 狂ってるのはお前の頭だ!!

 そう言い返したい気持ちがあったが本気で頭が潰れそうなほどの痛みにそんな事を言う余裕はなかった。


 「ぐぅ、ぅ、や、やめ゛でぐれぇ」


 とてつもない痛みと圧迫感から逃れたくて必死に懇願するが、柳の足は止まらない。


 「おいおい、話し合いを放棄したのは先輩でしょーが」


 「う゛う゛う゛ぅ゛じぬぅ、や゛めでぇ゛」


 それでも尚、懇願する。今の自分にはそれしか出来る事がないし。

 このままでは比喩なんかではなく本気で頭が潰される。

 今まで生きてきた人生でこれ以上の痛みを味わった事なんてなかった。


 「落ち着いたか?本当に?」


 「──ッ」


 柳の言葉に何度も何度も頷いた。

 すると押し付けられていた靴底が離れていく。

 鼻から何かが垂れていく感覚がする。

 喉奥から感じる独特の味から、鼻血が流れているのだと理解した。


 なんで、どうして、俺がこんな目に合うんだ。


 「それじゃ、まずは水を飲もうねぇ」


 柳はすぐ傍で屈むと転がっていたペットボトルを拾い上げる。


 その光景を俺は力なく見つめる事しかできない。

 今の俺の状況はとてつもなく不利だ。

 せめて拘束している紐を解かないとどうしようも出来ないのだとようやく理解できたから。


 「さあ、口を開けな」

 

 飲み口の部分を“親指で弾き飛ばし”ながら柳が言う。

 その言葉の通りに口を開く。

 

 「……ああ゛」


 「ゆっくり飲めよ」

 

 飲み口の吹き飛んだペットボトルから水がドボドボと溢れて零れていく。

 

 「──んぐ、んぐ、んぐ」


 当然横になっている状態で全てを飲みきれる訳がなく、飲みきれなかった分が零れ落ちて地面に吸い取られていく。

 喉の渇きが満たされていく。

 それに比例して俺はようやく冷静さを取り戻すことができた。

 

 「もう満足したか?」


 柳の言葉に頷く。


 「……ああ」


 俺を見下ろしている柳に対して殺意は衰えていないが、悔しいが今の俺には何もできない。

 柳の……後輩の分際で先輩に対して礼儀がなっていない態度にイラつきを覚えるが必死に抑える。


 「それじゃあ先輩の言葉に答える事にしようか。まず一つ、俺がここに居る理由から教えてやるよ」


 「教えてくれよ」


 「俺が先輩をこの場所に連れてきたからだよ」


 「──は?」


 理解が出来なかった。

 柳が俺をこの場所に連れてきた……だって?

 なんで?どうして?いや、それ以前にどうやって俺を連れてきたんだ?

 俺の住んでいる場所はマンションの最上階だ。

 当然エントランスの入り口はロックされていて入る事ができない。

 よしんばマンションの中に入る事が出来たとしても家の玄関には鍵が掛かっているし、入る事はできない筈だ。

 

 「どうやって連れてきたんだよ?」


 そんな俺の疑問に対して柳は表情を変える事なく短く返答をした。


 「マンションの外壁を登った」


 「……はぁ?」


 こいつは一体何を言ってるんだ?

 マンションの外壁を登っただと?ふざけてるのか?

 そんな俺の態度が伝わったのか柳は言葉を続けた。


 「嘘はついてないぞ?外壁に排水管があるだろ。そこに足を引っ掛けて登るんだよ。そうすれば1分も掛からずに屋上まで登れる」


 「そんなこと出来る訳ねーだろ」


 排水管を足場にして最上階まで登っただって?……どう考えても不可能だ。

 柳の妄言にすぎない。


 「まあ、信じないんだったら、信じなくていいさ」

 

 柳が肩を竦める。

 その余裕な態度を見て不快感を隠せない。


 「クソがッ、良い気になるなよ」


 どっちにしろ。マンションのカメラに俺を誘拐する所が映っている筈だ。

 親父が警察に通報しているに違いない。

 そうなれば必ずカメラを確認する。だから助けはすぐに来るはずだ。

 

 警察さえ来ればこいつの余裕綽々な態度もすぐに崩れるだろう。 

 そして柳はそんな事すらも分からないまま、気分良くベラベラと喋りはじめた。

 ふんッ、精々好き勝手に喋ってろ!


 「それじゃ、2つ目だ。どうして先輩をこの場所に連れてきたのか……なんだけど、本当に理由が分からないか?」


 「分かる訳ねーだろ!!なんでお前が俺を拉致ったんだよ!!そもそも俺がお前に何をしたんだッ!」


 「たしかに先輩は俺に対しては何もしてないな。そもそも学校でも全然接点なかったもんなぁ」


 柳は顎に手を当てながらそう嘯いた。どこまでも他人事な態度に腹が立つ。

 

 「けど、俺は先輩の事を良く知ってるぜ?それこそ学校に入学する前からな……」

 

 「はぁ?どういう事だ」


 「俺が入学して1年以上たって……今ではすっかり2年生で後輩もできた訳で……その間に先輩も3年になりましたよね」


 どこか懐かしむように哀愁を込めて柳は語る。


 「まっ、俺はずっとあんたの事を監視していたんだけどな」


 「はぁ?」


 意味が分からなかった。

 何故?そんな疑問が浮かび上がる。


 「最初は様子見だったんだよ。……先輩って可愛い女の子が好きですよね?それこそ女の子に彼氏がいようが好きな男の子がいようがお構いなしになるくらい」


 寒気がする。


 「そ、それがどうしたんだよ」


 たしかに今現在も俺が狙っている女は学校に居る。そしてその女が柳とも交流がある事は把握していた。

 それと同時に柳が何故俺を襲ったのか合点がいく……そうか、そういう事だったのかッ!!

 こいつは女が俺に靡くのが嫌だから襲ったに違いない。


 「お前、幼馴染の女が俺に取られるのが嫌だから襲ったんだろう!?だせぇやつだなおいッ!!」


 「んな訳あるか。そもそも明美が誰の事を好きになろうが俺にとってはどうでもいいんだよ」


 「あぁ!?だったらなんでお前が出張るんだよ。お前には関係のないことだろうがッ!」


 その俺の言葉に柳は目頭を押さえながら考え込むような仕草をした後にブツブツと呟いた。


 「……なんでだろうなぁ……たぶん、あぁ、そうだ、きっと罪悪感だ」


 柳は俺を見ていない。自分一人で自己問答をしている。


 「俺がその気になれば、すぐに事態を収拾できると思ったんだ。だから慢心した。そして見過ごした結果、余計に悪化した」


 「何言ってやがる……頭がイカれてんのか?」


 その光景に寒気がする。こいつは狂人だ。   


 「しかもその結果が“アレ”だからな。まあ、そもそも本来の流れと前提条件が違うから別の結果になるのは当然の帰結なんだが……流石にあんな終わりは反省したよ」


 柳は屈んで俺の顔を見下ろした。


 「な、なんだよ」


 柳の一切の感情が抜け落ちている。まるで人形のような表情。その迫力に気圧される。

 

 「俺が……その気になればお前の家族諸共全員殺す事ができるし、実際に容易だろうな」


 「な、なにを「だけどッ!」ッ」


 言い返そうとした途端、柳は目を見開いて強制的に俺の言葉を黙らせた。


 「それじゃあ駄目だ。俺が単純にその瞬間に満たされるだけで、すぐに風化する。……なら、どうすればいいか……単純な事だよなあ」


 柳が俺から視線を逸らすとゆっくりと背後の空間を見つめた。

 それに伴って、俺も視線を向ける。

 静寂が訪れる。だが、その静寂は割かしすぐに打ち破られた。


 コツン、コツンと足音が、誰かが近づいてくるのが分かった。  


 「た、助けがきたのか?」


 きっと警察だ。警察が俺を助けにきたに違いない。

 そう思った。しかし、近付いてくる人影の輪郭がハッキリしてくるにつれて表情が引き攣っていく。

 その顏にその男に見覚えがあったから。どうしてこの場所が分かるのか、どうして来たのか。

 そんな俺と違って柳は憎らしい程の笑みを浮かべている。

 そして俺の耳元に顔を近づけるとそっと囁いた。


 「怨みを持つ相手に晴らす機会を与えればいい。落とし前をつける時がきたな、場外先輩」


 悪夢としか思えなかった。

柳は2年生で先輩は3年生です。

次の話からは何が起きたのか追っていくので更新の方は気長にお願いします!

少なくとも中学生編は絶対に終わらせますので!!

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― 新着の感想 ―
damos un cierre a la novela, señor autor!
[一言] あーあーY君……素直になっとくべきだったのに…… って外野が言うだけなら簡単だわな。 主人公はそもそも言ってもいなかったからちょっと後悔してんだろうけど。
[一言] ランキングから来て一気読みしましたがよく見ると最終更新から半年以上… これはエタったのかまだ気長にのうちなのかどっちでしょう?ここからが本番って感じだったのにもったいなく感じました。
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