表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

14話:妹は可愛いけど道を踏み外すのだけはやめてほしい


 「お兄ちゃん! おはよう!」


 中学校に入学してしばらく経ったある日の事、非常に珍しい事に日和の声によって俺は起こされた。

 

 「ん……ひ、より?」


 毛布に包まりながら俺は未だ寝ぼけ眼のまま日和の顔を見つめていると、日和は突然ベッドの上に飛び込んできた。

 しかも、未だにベッドで横になっている兄に向かってだ。

 突然重量が増したことによりベッドが大きく軋みをあげる。

 だが俺は普段から鍛えているので痛みよりも、多少の重さを感じるだけで済んだ。

 ゆっくりと身体を起こしていく。


 「今、何時だ?」


 俺に抱きついてきた日和の頭を優しく撫でながら時間を聞いてみる。

 パジャマを着ている事から日和も寝起きだと思うのだが、彼女の髪の毛は寝癖すらついていない。

 とても柔らかな髪質で手の平に掬い上げるとサラサラと髪が指の隙間から流れていく。

 日頃から手入れを欠かしていないのだろう。日和の体臭とシャンプーの匂いが混じった香りが漂ってくる。 


 「5時30分だよ! それより、朝起きたらおはようなんじゃないの? お兄ちゃん」


 日和がむくりと顏を上げると、顏と顏が触れ合いそうになるほどに距離を近づけてから分かりやすく頬を膨らませた。

 いかにも怒ってますというような意思の表明に思わず苦笑いが零れた。

 そうか5時30分か、昨日ベッドに入ったのが2時だから3時間と少し眠っていた事になる……まだ少しだけ眠いが、それを言えば日和は悲しむだろう。

 

 「ああ、そうだったな。ごめんごめん、おはよう日和。それより今日は随分と早いんだな」


 「うん!頑張って起きたんだから!」


 だから、笑いながら日和の頭を撫でる。

 すると日和は抱きつく腕の力を更に強くした。

 日和の甘えたがりは昔からだが、中学校に入ってからより拍車をかけている気がする。

 丁度、俺が明美と仲直りをした辺りくらいからだろうか?

 日和はまるで幼少の頃に戻ったかのように甘えてくるようになっていた。

 とりあえず日和の頭を撫でながら俺は寝起きで思考が纏まらない事もあって、考える事を早々に放棄することにした。

 まあ、日和が嬉しそうにしてるので対処としては間違っていないだろう。


 「しかし、よく起きれたな。こんなに朝早いのに」


 「うん! 頑張ったんだよ! お兄ちゃんの為に!」


 えっへんと胸を張る日和だが、小学5年生にしては些か発育の良すぎる身体が目に毒だった。

 あれから日和の胸部は順調に成長を重ねていき、パジャマの上からでもはっきりと分かる膨らみが大きく主張をしている。 

 そして俺は寝間着を着ない主義なのでシャツとパンツのみで布団に入っている。

 だからこそ、ダイレクトに日和の成長を実感できてしまうのだ。


 「そうか、偉いぞ」


 なるべく視線を落とさないように注意しながら妹の頭を再度撫でる事にした。

 



 それから何かと引っ付いてくる日和の相手をしていると、1階に下りる頃には時刻は6時前になっていた。

 日課のランニングに出るには丁度いい時間帯だ。既にジャージに着替えていた俺は玄関で靴を履いて準備をする。

 いつもならこのまま外へ出るのだが珍しい事に今日は俺一人だけじゃない。


 「珍しいな、日和がランニングに付き合うなんて」

 

 「うん、できるだけお兄ちゃんと一緒に居たいからね」


 「そ、そうか」


 素直に好意をぶつけられると嬉しさよりも照れが出てしまう。  

 そして日和も俺と同じようにジャージに着替えていた。

 俺が黒いジャージなのに対して日和はピンク色だ。実に女の子らしいチョイスと言えるだろう。

 しかし、日和はあまりジャージに着替える事がない。その理由は単純に運動が嫌いだからだ。

 だが、日和もジャージを買っている。その理由は俺とお揃いになりたいという可愛らしい理由からだ。

 

 「久しぶりに着たけどちょっとキツイかな?」


 「普段から着ていたらそういう変化にも気付きやすいんだけどな」


 なるべく日和に視線を向けないように意識しながら、簡潔に言う。

 胸が邪魔でジッパーが上がらないのだ。日和は華奢で小柄な体躯をしている為、服のサイズは基本的にSで充分なのだが、胸が大きい為にSサイズだとどうしても足りなくなってしまう。

 だから当時の俺はMサイズの方を勧めたのだが、丁度店舗の方に在庫がSサイズかLサイズしかなく、試着しても充分に着れる為にSサイズの方を買った結果が今に繋がっている。

 無理やりにジッパーを上げたのはいいが、成長した胸に引っ張られる形で生地が引っ張られてしまい大分キツキツだ。

 

 「うぅぅ、こんな恰好だと恥ずかしくて外に出れないよ、お兄ちゃん」


 「……俺の前のジャージだったら入ると思うけど着るか?」


 丁度、俺がランニングを始めた頃に買ったジャージが部屋にあった筈だ。

 今の俺が着るには小さいが、今の日和のジャージよりかは大きかったと思うので日和でも充分に入るだろう。  


 「え、いいの?」


 日和が顏を上げて嬉しそうに微笑んだ。


 「ああ、けどもし日和が俺のお下がりが嫌なら別の服か……今日は休んで今度の休みにジャージを買ってからでも充分だと思うぞ。朝に走るなんて事はいつでも出来る事なんだしな」


 「お兄ちゃんと今日一緒に走るって事が大事なの! お兄ちゃん!早くジャージ頂戴!」


 俺の言葉に日和は大きく否定したと同時に着ているジャージのジッパーを大きく下げた。

 ジッパーを下ろした結果、色素の薄い染み一つない白い素肌と色気のない無地のブラジャーに包まれた大きな乳房が晒されるが、日和はそれに一切頓着していない。

 

 「はしたない恰好をするなよ……心配になる」


 「お兄ちゃんの前でしかしないから大丈夫!それより早くいこ!時間なくなっちゃうから」

 

 なるべく注視しないよう視線を逸らしながら嗜めるが効果があるようには思えない。

 俺は小さく溜息を吐いてから履いていた靴を脱いだ。

 



 

 「お兄ちゃんに包まれてる感じがする」


 俺の部屋で眠っていた昔のジャージを着た日和の第一声がそれだった。

 低学年の頃に買ったジャージとは言っても男物でしかもサイズは成長を見越して大きめのモノを買ってい為に、日和にとっては少し大きいようだ。

 だがそれでも胸部にはしっかりと膨らみがあるのは流石というべきだろうか。


 「お兄ちゃんの匂いがする」

 

 「それはやめてくれ」


 着ているジャージに鼻を押し付けながら深呼吸をしている日和に懇願する。


 「そろそろ時間も押してるし行こうぜ」


 「うん!そうだね」


 時刻は6時を回っている。俺の言葉に日和は大きく頷いた。

 その表情はいつになくやる気に満ち溢れている。

 まさか日和が此処までランニングに前向きだとはな……俺は少しだけ感慨深くなった。

 


 「ま、まって、お、おにいちゃん、も、もう無理、限界」


 「日和、まだ家を出て10分も経ってないぞ」


 「は、早いよ、も、もう、げ、げんかいなの」


 日和はそう言うと、すぐ傍にある石垣の上に腰を下ろした。

 額には玉のような汗が滲み出ており、既に疲労困憊で息もたえだえで表情は憔悴しきっていた。

 

 それに対して俺の方は汗が少し浮かんでいる程度だ。

 

 「もう少しで河川敷だから、そこまで行ったら折り返しだぞ」


 「む、無理だよ、ぜったい無理、だ、だって河川敷って、まだ半分くらいあるよ?」


 多少、息を整えた事で体力が戻った日和だったが、俺の言葉に一瞬で顔面蒼白となって否定する。

 うーん、いくら運動が嫌いだったと言っても日和は運動神経そのものは良かった筈だ。

 通知表を見た事があるが体育はちゃんと最高評価だった……にも関わらず体力がなさすぎる。

 もしかするとクラスの女子全員が日和並に体力がないのか?


 「しんどかったら、日和は先に帰るか?」


 「い、いやだよ。お、お兄ちゃんと一緒に走りたいの!」


 「ならもう少し頑張れそうか?」


 「む、無理だよ。こ、これ以上走ったら、私死んじゃうよぉ」

 

 ……どうすればいいんだ? 俺は真剣に悩んでいた。

 俺は普段のペースで約10kmの距離を走って大体20分程度だ。

 だが今日は日和が一緒に走りたいと言ってくれたので、少しだけペースを落として日和も付いてこれるような速度で走ったつもりだったにも関わらず、日和は家を出てすぐに体力の限界が来た。

 日和の憔悴しきった様子を見る限り、嘘をついてるようには思えない。

 

 「お、お兄ちゃん、わ、私、も、もう走れないよ」


 その証拠に座っていた石垣から立ち上がった日和の脚はガクガクと震えている。

 まるで産まれたての小鹿のようだ。

 歩くのも覚束ないのか、石垣を支えに必死で立っていた。

 こうしている間にも時間は過ぎ去っていく。その姿を見て俺の腹は決まった。


 「今日は帰るぞ」

 

 「え、け、けど、お兄ちゃん」


 「ほら、俺がおぶるから」


 未だに足腰の震えと闘っている日和に対し俺は背中を向けてそう告げた。

 しばらくの間、日和は俺の背中を前に無言だったが、やがて俺の背に確かな重みが加わった。

 

 「ありがとう、お兄ちゃん」


 すぐ耳元で囁く声が届く。日和の身体は大分熱くなっていた。

 

 「気にするなよ。それじゃあ帰るか」


 「……うん」


 俺は日和をおぶさった状態で走った。

 

 「え、え、お、お兄ちゃん?」


 すぐ近くで日和の驚愕する声が聞こえたが無視して全力で走った。

 もしかすると日和の中では俺が日和とゆっくり歩いて帰路につくと思っていたのかもしれない。

 だが、それだと時間が掛かりすぎてしまう。少なくとも6時30までには家に帰りたいのだ。

 日和を背負ったまま歩いて帰ると下手をすれば7時前になってしまう。そのままシャワーを浴びて朝食を食べて学校へ行く支度をすると大分時間を食ってしまう。

 俺としては多少の余裕が欲しかった。

 すまない日和、許してくれ。出来る限り日和を優先させたいのだが、今は俺の意思を通させてくれ。


 「―――ッ!!――ッ」


 日和が何かを言っているが言葉が耳に入らない。今の俺は全ての意識を走る事に集中させていた。

 背負っている日和の重みが身体に過剰な負荷を与えてくる、いつもより体力の消耗が著しく激しいが、それを無視して脚に力を注ぎ込む。

 

 結果として3分程で家に辿りついた。

 

 玄関の扉を開けて背中から日和を下ろすと日和はぐったりとしていた。

 髪の毛はボサボサになり、顔色は大分悪くなっている。

 そして俺も額を手で軽く拭うと汗がびっちょりとついていた。

 

 「ふぅー、日和、先にシャワー浴びてこいよ」


 「む、むり、お、おにいちゃんが先でいいよ」


 日和は玄関の段差で項垂れたように座っている。

 

 「そうか、なら先に浴びるよ。すぐに出るからそしたら入りな」

 

 「……うん」

 

 時計を見ると時間は6時20分だった。

 丁度いい時間帯だ。

 手早く替えの下着を用意してから、浴室に入りシャワーを浴びる。

 いつもどおりならば汗を流して軽く頭を洗えば終わりなので10分も掛からないのだが今日は日和が控えているから5分程で終わらせよう。

 ……そう思っていたのだが。


 「お兄ちゃん!背中流してあげる!」


 「え、急にどうした」


 何故か俺がシャワーを浴びていると日和が全裸で浴室に入ってきたのだ。

 染み一つない白い肌は薄らと赤く染まっていて豊かに実った乳房は綺麗に形が整っている。

 蝶へと羽化をする最中と言ったところだろうか? 発展途上の肢体はどこか怪しい魅惑を放っているようで、しっかりと男を誘惑する身体付きになっていた。

 それらをバスタオルで隠す事なく、惜しげもなく晒しているのはいくら妹とはいえ、非常に目のやり場に困るものだった。

 発育だけならば、明美や紫雨よりも日和の成長は早い。明美も紫雨も成長すれば魅力的な肢体になるだろうが、日和の方が発育は良かった。

 突然の事態に困惑する俺を他所に日和は身体を寄せると一緒になってシャワーを浴び始める。

 ボサボサだった髪の毛が水を吸って潤いながらも整えられていく。 


 「えへへ、久しぶりにお兄ちゃんと一緒のお風呂だぁ」


 頬をぐりぐりと胸板に押し付けながら、日和はどこから出したのか分からない程の甘い声で呟いた。

 その仕草に女を意識してしまう。血は繋がっているからそういう対象として見る事は出来ないが。

 たとえ身内でも異性は異性だ。だからこそ女体の柔らかさを意識してしまう。

 未だに抱きついている日和の肩を掴んで引き剥がす。


 「そんなに俺と風呂に入りたかったのか?」

 

 「だって、お兄ちゃん中学校に上がってから私に構ってくれないもん」


 少しだけ悲しそうな目をする日和を見て俺の心がチクリと痛んだ。

 しかし、しかしだ。


 「日和……お前、基本俺が家に居る時はずっとベッタリくっついてるだろ。明美が来てる時も明美の部屋に行くときもずーっとくっ付いてるじゃないか」

 

 例外があるとすれば日和が友達と遊ぶ時か母さんと買い物に行くときくらいだろう。

 その例外を除けば基本的に日和は四六時中俺にベッタリと引っ付いている。

 毎日、毎日、飽きもせずにお兄ちゃんお兄ちゃんとまるでペンギンのように俺の後ろを付いてくる。

 たしかに、妹である日和の事は大好きだが、こうまでベッタリだと流石に少々げんなりとする。


 「むー、けどお兄ちゃん、昨日は明美ちゃんと一緒に遊んだんでしょ?」


 「一緒に勉強をしてただけだ。それに日和が友達と遊びに行ったんだからしょうがないだろう」


 「お兄ちゃんが遊びに行かずに俺と一緒に居ろって言ってくれたら私残ったもん」


 日和がどこか不貞腐れたように言う姿を見て、少しだけ思い出した事がある。

 それはこの世界の本編である『僕が気付かない内に大切な家族と幼馴染達が染まって変えられていく~』での日和の事だ。

 主人公である達郎の妹である日和はどこか儚げで依存気質のある少女だった。

 そんな彼女は唯一の身内である兄に対して強く依存していた。 

 産まれてすぐに父を亡くした事で父性愛に飢えていた事も関係しているのだろうが。

 日和にとって兄である達郎は自分に対しては無償の愛情を注ぎ、守ってくれる、そんな対象であったのだ。

  

 最終的には勝重によって齎される快楽と兄の不甲斐なさに失望した事によってその依存対象は勝重に変わってしまったのだが。


 勝重と日和がイチャラブしているのを隠れて見ていた達郎が日和の兄に対して日頃から溜まっている不満と罵声を聞いた事によって達郎は完膚なきまでに心が破壊されてしまう。

 まあ、達郎の自業自得と言えばそうなんだが……流石に見ていて楽しい気持ちにはなれなかった。


 「……そうか」


 それだけ言って日和の頭をそっと撫でながら思考を巡らせてみる。

 そしてある考えに至った。今の日和はもしかすると兄である俺に対して甘えてるのではなく依存してるのではないだろうか?

 依存と甘えの違いがよく分からないが矯正できるのであればきっと早めに行動を起こした方がいいだろう。

 

 「……お兄ちゃんと私はずっと一緒なんだから」


 ─もう手遅れかもしれんが。

この作品の日和は正統派なキモウトなので安心してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 約10kmの距離を20分程度で走るとのことですが、 1万mの世界記録でも26分11秒かかるんですけどそれは・・・
[一言] >キモウト あの女の匂いがする・・・!
[一言] 主人公筋肉がバキバキになっていそうな気がするな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ