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12話:中学校入学

誤字報告ありがとうございます。



 「お、おはよう達郎!」


 「ああ……うん、おはよう」


 入学式の日の朝、家から出ると明美が待っていた。

 真新しい制服に身を包み、どこか緊張したような面持ちの明美に対して、俺は困惑していた。


 「一緒に行こうと思って待ってたんだけど、迷惑だった?」   


 「いや、迷惑じゃないよ。ただ、それなら昨日言ってくれたら良かったのに」


 一緒に行きたいんだったら昨日の内に明日一緒に入学式行こうね。くらいは言ってほしい。

 

 「ごめんね……言うの忘れちゃったの」


 そうか、忘れたのかぁ。なら仕方ないな。


 「まあ、なんだ……行くか」


 「う、うん」

 

 とりあえず話を切り上げて、一緒に中学校へ向かう事にした。

 流石にこれ以上、家の前に居たくはなかったから。

 なぜなら……。


 「……」


 日和が玄関のドアを少しだけ開けて此方を覗いているからな。


 小学校と比べても、これから通う事になる中学校への通学時間はそれほど変わっていない。

 ただ丁度正反対の位置にあるために日和とは家を出た時点で別れる事になるというくらいだろう。 

 ふと、隣を歩く明美の姿を見る。

 そしてある一点を見て呟いた。


 「そういえばさ」


 「うん」  


 「昨日、俺がプレゼントした髪留め、早速使ってくれたんだな」


 「う、うん。どうかな?」


 「似合ってるよ。滅茶苦茶可愛いと思う」


 俺が明美に似合うと思って贈呈したのだからこれで似合わないとか言う訳がなかった。

 だが、それを差し引いても髪留めを付けた明美はオシャレに見える。

 

 「ありがとう、昨日も言ったと思うけど大事にするから」

 

 「ん、そうしてもらえると俺も嬉しいよ」


  

 


 中学校に辿りつくと校門は既に開かれており、同じ制服を着た生徒が中に入っていく姿が見える。

 俺と明美もその後に続くように門を潜っていく。

 校舎に入ると目に入るのは生徒達の姿だ。今日は入学式なので新入生以外の生徒は存在しない。

 つまり全員が俺達のような新入生という事になる。

 二度目の経験だからこそある程度リラックスしている俺と違い、明美は少しだけ緊張している面持ちに見えた。

 

 「そこにある掲示板にクラス分けが貼ってるみたいだな」


 「う、うん」


 掲示板の周囲には既に人だかりが出来ていて。同じ小学校出身の者で仲がいい人間同士が同じクラスになれてよかった。別のクラスで残念。などと言った風に喜んだり悲しんだりしているのが目に入ってくる。

 俺もそんな人だかりに混じりながら自分の名前を探そうとするのだが……。


 「あっ!達郎、私と達郎、Aクラスだって!」


 隣に並んで掲示板を見ていた明美が嬉しそうに肩を揺すってくる。

 

 「本当か?」


 明美の言葉に釣られるようにAクラスを確認すると、たしかに下の方に自分の名前があることが確認できた。

 Aクラスか。他に誰か知り合いはいないか同じクラスに連なる名前を確認していると見覚えのある名前が目に入ってくる。



 桐生院 紫雨


 雪城 雪兎



 雪城雪兎とは小学6年生の頃に絡まれていたのを助けた事が切っ掛けであれからも多少の交流を深める程度の仲にはなっていた。

 一緒に遊ぶとまではいかないが、顔見知りより少し上程度の関係が一番近いだろう。

 

 そして紫雨……紫雨は俺が道場をやめた後も紫雨の方から連絡をそれなりにくれるし、何度か遊びに誘われる事もあるのでそれなりに仲はいいだろう。

 小学校ではクラスが別れていたが、中学生になって同じクラスになれたというのは素直に嬉しいと思っている。

 

 そして俺は他のクラスの名前に目を通していく。すると目に入る名前があった。



 堂万 勝重



 どうやら勝重はCクラスのようだ。

 今の所、俺の脅威になっていないがこれから先どうなるか分からない。なので油断は出来ないだろう。


 「達郎、そろそろ教室にいかない?他の皆も移動してるよ?」


 「ん、ああ……そうだな」


 周囲を見ると明美の言葉の通り、確かに人が減っているのが分かった。

 

 「そういえばAクラスには紫雨も居るんだな」


 「あ、うん、そうだね。……紫雨ちゃんも一緒だね」


 ……あれ?おかしいな。明美の反応がどこか暗い気がする。

 普通、昔馴染みと同じクラスになったらもう少し喜んでもいい筈だろう。

 少なくとも、俺は嬉しいと思ったし、そう感じた。

 だが俺の予想とは裏腹に明美の声はどこか硬いのだ。

 隣にいる明美を観察すると眼鏡の奥の双眸が爬虫類のように鋭くなっている。

 しかし、それは一瞬の事で次の瞬間には明美は笑顔を浮かべていた。


 「どうしたの? これからは紫雨ちゃんも一緒なんて本当に楽しみだね!」


 「あ、ああ……そうだな」


 俺が訝しんだからなのか、明美の態度の変わり様に困惑するが、それを口に出すのは憚られた。

 少なくとも、今口に出してわざわざ水を差すような真似をするのは無粋というものだろう。

 一旦、疑問を胸にしまい込むとそのまま周囲を見渡していく、人混みの中で、丁度話題に上がっていた人物を見つけた。

 俺が見つめていると、向こうも視線に気づいたらしく、微笑を浮かべて小さく手をあげたのが分かる。

 そのままこちらに向かって近づいてくる彼女。丁度、明美も気付いたようで満面の笑みを浮かべていた。

 

 「久しぶりだな。達郎、明美」


 「ああ、久しぶり紫雨」


 「うん、久しぶりだね紫雨ちゃん」


 どこか冷たさを感じさせる切れ長の瞳。スっと通った鼻筋、艶めかしさを増した唇。

 制服の上からでも分かる女性らしい起伏。

 あらゆる動作の一つ一つが洗練されており、学校指定の制服も彼女が着ているだけで、それがたとえ凡百なモノあろうともまるで格式のあるモノに思えてしまう程の雰囲気と魅力がある。

 氷のように冷たくて、人形のように整っている。まるでお伽噺に出てくる妖精のようだと誰しもを錯覚させる程の美貌。


 僅かな期間会わなかっただけで紫雨の美貌は更に磨かれているのが分かった。

 発育の方も大分順調なようで、制服越しでもハッキリと分かる程に膨らみがある。

 今の明美より発育は少し上程度だろうか?

 最終的には2人とも似たような体形になったと思うのだが、曖昧だ。

 

 「こうして2人と同じクラスになれたのを嬉しく思うよ」


 久しぶりに会った紫雨は微笑を浮かべて再会を喜んでいる。

 先ほどの怜悧な表情が嘘のような、柔らかな笑みに周囲の視線が紫雨に集中するのが分かった。


 「ああ、俺も嬉しいよ」


 「……うん、私も嬉しい」


 それから俺達はこれから1年間過ごす事になる教室へと向かった。


 1年A組の教室の中に入ると紙で作られた机上名札がそれぞれの机の上に置かれている。

 どうやら五十音順になっているようで、男女分けは特にされていないようだった。

 既にちらほらと席が埋まっているようで、近い席同士の人間が軽い雑談をしている姿が見える。

 中には小学校が同じなのか、席を離れて談笑している姿も目に入る。当然、俺が知ってる人間も何人か存在していた。


 紫雨と明美も自分の名前を確認して席の方へと向かっていく。俺もそれに習うように自分の名前が書かれている札が置かれている席に座るとすぐ後ろから声をかけられた。


 「柳くん!これから1年間よろしくね」


 「ああ、よろしくな。雪城」


 振り返るとそこには中性的な顔立ちの男子が居た。

 男子の制服を着ているから男子なのは間違いない。だが、女子の制服を着ていたら女子にしか見えないだろう。

 雪城雪兎、俺と同じ小学校に通っていたゲーム好きの男子だ。


 「名前を見てもしかしてと思ったんだけど……中学校で柳くんと同じクラスになれて嬉しいよ」


 「ああ、俺も雪城が同じクラスで嬉しいよ」


 「最近、雪菜が家でもよく笑うようになったんだ。日和ちゃんのお蔭だよ」


 「そうか、日和も家では雪菜ちゃんの話をよくしてるよ」


 俺と雪兎の共通の話題といえばお互いの妹が親交を持っているという事だろう。

 元々、日和は雪兎の妹である雪菜ちゃんに対して苦手意識を持っていたようだが、日和の方から雪菜ちゃんに歩み寄ったらしい。

 そして雪菜ちゃんは俺への悪口を謝罪して仲直り。お互いに遊ぶ程度の仲にはなったようだ。

 

 「なあなあ、お前ら仲良さそうだけど同じ小学校から来たのか?」


 「あ、うん、そうだよ」


 「ああ」


 雪兎と会話をしていると見知らぬ男子に話しかけられた。


 「俺の名前は、山本崇って言うんだ。よろしくな!」


 「雪城雪兎だよ。よろしくね」


 「柳達郎だ。よろしく頼む」


 そんな見知らぬ男子を交えて軽い雑談をしていく。

 山本崇は小学生の頃は野球クラブに所属していたらしく、この学校ではバスケ部に入るらしい。

 そこは野球部じゃないんだな……とは思ったが口には出さない事にした。


 「なぁなぁ、雪城と柳は部活は何にするんだ?」


 「僕は、入らないかな」


 「えぇ、なんで入らないんだよ?」


 「だって……部活に入ったらゲームする時間がなくなるから」 


 ゲーム好きな雪兎らしい発言だと思った。

 俺からしてみればゲームをするよりかは勉学なり鍛錬なりに励んだ方が有意義だと思うのだが、口には出さない。

 子供が勉強よりも遊びを優先するのは当然の事だからだ。


 「あーつまんねぇな、雪城、お前絶対損するぞ。何か部活に入っとけって」


 「う、うん、考えとくよ」

 

 「柳は何の部活に入るんだ?」

 

 「どんな部活があるのか分からないし、まだ何とも言えないかな」


 「それならよー運動系の部活に入ろうぜ!俺、小学生の頃ピッチャーやっててさあ」


 そこからは山本崇の独壇場だった。延々と小学生時代の自分の活躍を俺達に語り続けている。

 年齢を考えると仕方のない事かもしれないが、山本崇は我が強そうだ。

 それとデリカシーもあまりないのかもしれない。

 自然と周囲を傷つける発言をするタイプの人間だな。本人に悪意がなさそうなのが質が悪い、だが中学生1年生というのを鑑みるとそれほど珍しくはないだろう。


 山本崇の話を聞き流している最中、ふと他の2人はどうしているのだろうか。そう思って視線を流していく。   

 明美の方は隣の席の女子と楽しそうに会話をしていた。見た目は物静かだが明美は社交性があるために周囲と打ち解けやすいのだろう。

 対して紫雨の方は凄かった。紫雨自身は一人で黙って黒板を眺めているのだが。席が近い男子や女子がひっきりなしに声を掛けているのが見て分かった

 その美貌はやはり目を引くのだろう。周囲の男子が紫雨の事を意識しているのは丸分かりだ。


 山本崇の話に適当に返事をしながら、クラスメイトの観察を続けていく。

 しばらくの間、観察をしていると予鈴と共に担任の先生が教室に入ってきた。

 

 

 それから、担任の先生の自己紹介と前の席から五十音順に一人ずつ自己紹介をしていく。

 それが終わると体育館に向かい、そこで校長の話を聞いた後に教室に戻り、教科書を受け取ったり、諸々の注意事項を終えて入学初日は問題なく終わった。  

 大半の生徒は校門近くに親が迎えにきて一緒に帰ったり、そうじゃない場合は友達同士で帰ったりしているようだ。


 雪兎は母親が迎えに来ているから一緒に帰るらしく、山本は一人でさっさと帰っていった。

 明美と紫雨はいつの間にか教室から姿を消していたので俺も帰ろうと思い手早く教室から出ていく。

 このまま自宅まで走って帰るか、なんて事を考えながら校舎を出ると視界の端に見覚えのある背中が入ってきた。

 あの後姿は紫雨と明美だろうか?

 2人は校舎の外壁を曲がり校舎裏へと消えていくのが分かった。


 「珍しい、こともないか」


 紫雨と明美も幼馴染という間柄だ、中学生になって同じクラスになったからこそ互いに積もる話もあるのだろう。

 そう納得させると、思考を切り替えて俺は考えを巡らせる。

 まだ初日なのでクラスの相関図を掴めていない……が、紫雨と明美がクラスに居るのであれば掌握は容易いだろう。

 2人に協力してもらえればスムーズに進みそうだ。

 このまま小学校と同じようにクラスをコントロールしていき、ゆくゆくは学校全てを掌握するとしよう。 

 そう結論付けると、ふと声が耳に入ってきた。


 「おにいちゃーん!」


 声がした方向に視線を向けると日和が笑顔で手を振っている姿が目に入る。

 そのすぐ傍にはスーツを着た母さんが立っているのが分かった。

 

 それを見て驚かなかったと言えば嘘になる。母さんや日和が入学式にくるのは事前に聞かされていた為に分かっていたからだ。

 だけど入学式からは既に1時間以上の時間が経っていて、俺は2人が既に帰ったものだと思っていたから。

 

 「待っててくれたんだ」


 「当たり前じゃない。一緒に帰りましょう」

  

 そんな俺の言葉に母さんは呆れたように笑う。

 笑いながら鞄からカメラを取り出した。


 「その前に写真撮りましょうね」


 「私もお兄ちゃんと一緒に写りたい!」


 俺の腕を引きながら日和が笑う。

 眩しい笑顔で笑う妹の顔をとても綺麗だと思った。

 

 「はいはい、分かったから、それじゃ達郎と一緒に撮るから並びましょうね」


 「うん!お兄ちゃん!ほら、一緒に撮ろう!」


 「…あ、ああ」


 日和に引っ張られて俺は校門前……学校銘板が記された場所のすぐ隣に立たされる。


 「この場所に立ってー、お兄ちゃんはこうやって、私をぎゅーってしてね」


 「…分かった、こうか?」


 指示に従って俺は日和を背中から抱きしめるように両腕をクロスさせる。

 周囲には俺と同じ新入生が往来を続けていて視線が此方の方に向いている事に気付くと、僅かばかりに羞恥心が浮かんでくる。

 

 「あらあら、これじゃあ誰が主役か分からないわね」


 母さんが困ったような表情でシャッターを切った。

 

 「お兄ちゃん、ずっと一緒だからね!」


 「ああ、そうだな」


 「約束だよ?」


 「約束するよ」


 俺が大きく頷くと、日和は満足気に笑った。 

 その笑顔を見て俺は思った。日和は可愛い。だから幸せになってほしい。

 その為にも、一緒に居るためにも、力を付けなければならない……俺は更に決意を強くした。

 小学生の頃はまだ倫理観が未熟で善悪の区別が朧げな奴らが多かったが、中学生に上がればそれらの分別がついてくる。

 そして明確な悪意を以て、こちらを貶めて謀ろうとする存在が出てくるだろう。

 それが上級生なのか、それとも今後生えてくる下級生なのか分からない。

 果たして俺がそんな奴らに対抗できるのかすらも分からない。

 だからこそ俺は常に己を磨き続けてあらゆる全てを凌駕しなければならないのだ。

 出る杭は打たれる、その言葉は事実だろう。突出した才は潰されやすい。

 だが突き抜けてしまえば逆に潰してくる相手を貫く事だって出来るという事だ。


 そしてこの学校には明確な障害になるであろう存在が居るのだから。


 (本編で達郎を貶めた先輩だけは油断できねぇ)


 そうだ、達郎オレを去勢ATMにして明美と番にさせた先輩という男。

 名前が作中で存在せず、分かっているのはイケメンで筋肉隆々な身体をしているという事だけだ。

 本編だと達郎は抗う事なく、闘う事すらなく全てを受け入れていた。

 だが、俺は違う。


 「産まれた事を後悔させてやる」 


中学生編は巻きでやります!

投稿が少し遅れると思いますが、目安としては1月か遅くても2月までには終わらせられると思います!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 年内最終日の更新ありがとうございました。 やっと中学入学で最強番長への動きが激しくなりそうですね。 来年の更新も楽しみに期待しております。 作者様も良いお年を。
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