10話:頭のいい人との会話は根本的に疲れる
「た……う!……つ……!」
暗闇の中で声が聞こえる、それを自覚すると次いで身体が揺られる感覚がした。同時に何かに触れられた感触もする。
それに呼応するかのように暗闇に埋もれていた意識がゆっくりと浮上していく。
光が目に入ってくる。明るすぎない、落ち着いた色の光に照らされて、目の前の光景が次第に定まって安定していく。
それに伴ってゆらゆらと揺らめく陽炎のようだった、それもはっきりと認識することができた。
「達郎…もうすぐ家に付くからそろそろ起きてくれ」
「―ん、あ」
最初に目に入ったのは少しだけ困ったように、綺麗に整った柳眉を少しだけ垂れ下げて、申し訳なさそうな瞳でこちらを見つめる紫雨の顏だった。
ぼんやりとした思考のまま周囲を見て、自分が車内に居るのだと認識した。そして次に後頭部に感じるクッションとは違う柔らかな感触に、ようやく現状を認識した俺は慌てて身体を起こした。
「すまない。紫雨、どうやら眠ってたようだ」
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。指で眉間を摘まみながら未だに少しだけ朦朧としている意識を強制的に起こしていく。
「いや、謝る必要はない。むしろ気持ちよさそうに眠っていて、起こすのが申し訳ないくらいに思っていた。本当は家についてから起こそうかとも思ったのだが」
「そんな事、全然気にしないでいいぞ。それに謝るのはこっちの方だろう、紫雨に膝枕までしてもらうなんて、むしろ邪魔だったろうに……」
そう、座席のクッションとは違う柔らかな感触の正体は紫雨の膝だった。道場から帰る時に紫雨と一緒に送迎の車に乗り込む所までは覚えている。
おそらく、すぐに眠ってしまったのだろう。
「ふふ、疲れが溜まっていたのか分からんが、私が話しかけても反応がなくてな、訝しんで見てみると目を閉じて静かに微睡んでいたんだ。そしてカーブを曲がるとそのまま私の膝に頭がストンと落ちてきた」
楽しげに喉をくつくつと鳴らしながら紫雨が状況を説明する。紫雨の表情を見ると諧謔に満ちていて、途端に羞恥心が俺に芽生えた。
「そのまま床に落としてくれても良かったんだぞ」
「なに、私も不快に感じなかった。それよりも……だ。私の膝は良く眠れたか?」
「ああ、凄く暖かった。お蔭で目覚めがスッキリしてる」
「……ッ、それは良かった」
素直に感想を告げると、紫雨は僅かに言葉を詰まらせると小さく笑った。
そして窓から映る景色を見ながら呟いた。
「……私と達郎は学校は一緒でもクラスは別だからな、明美は同じクラスなのに私だけ別クラス……道場に行くときくらいしか喋れないから、少しだけ寂しかったんだ」
ちょうど車は信号待ちで、静止した窓から外を見ると見覚えのある景色を背景に行き交う人々の様子が見て取れる。
家族連れや、仕事帰りのサラリーマン、雑多に流れる人の群れ。
紫雨が見ている窓と反対側の窓に視線を移すと今度は小さな垣根を隔てて車が次々と通り過ぎていく。
対照的な早さだった。片方は緩やかな速度なのに対して、もう片側は目で追う事すら困難なほどのスピードだ。気付いたら過ぎ去っている。
「……そうだな」
そんな風景を眺めながら、紫雨の言葉に同意する。
俺と紫雨、そして明美を交えた3人は幼少期、それこそ幼稚園に通っていた頃からの付き合いだ。
昔は何をするにしても3人で遊んでいた。偶に俺の妹である日和を交えた4人で遊んだりした記憶は未だに俺の中で色褪せていない、懐かしい、大切な思い出だ。
そんな中で小学3年生辺りから、俺と明美だけがずっと同じクラスで紫雨だけが別のクラスになり、少しだけ疎遠になっていった。
勿論、それで俺達の関係に何か劇的な変化が起こった訳ではない。顔を合わせれば会話だってするし、遊ぶ事だってある。
だが、それも紫雨が桐生院の娘として、両親から習い事を薦められ、それに時間を取られるようになってからは徐々に噛みあわないようになり、顔を合わせた時に僅かな会話をするだけで一緒に遊ぶことはめっきり減ってしまった。
「この前、日和ちゃんから聞いたんだが、あまり眠ってないようだな」
「ん、ああ~、まあそうかもしれない」
基本俺の毎日は朝起きてランニングをしてそれが終われば学校に行く時間になるまで鍛錬で、学校が終われば鍛錬をして道場に行き。
それが終わって家に帰ったら鍛錬をして勉強をみっちりだ。
今まではそれでも特に問題はなかったのだが……今日、とうとう道場の終わりについ惰眠を貪ってしまった。
それほどまでに疲れが蓄積されていたのだろうか?
……いや、きっと気が緩んでいただけだろう。
だが、そう伝えた所でただの強がりに聞こえるだろうし、素直に認めておこう。
「ちょっと……だけ、疲れが溜まっていたのかもな」
「ふふふ、だから達郎が眠っているのを見た時、衝撃を受けたよ。昔からいつも飄々としていて凛としていて、他人には決して自分の弱さを見せなかった達郎でもそんな事があるのか……といった具合にな」
「過大評価しすぎだ。俺はそんな凄い人間じゃない」
背筋がむず痒い。紫雨が俺の事をそんな風に見ていた事に少しだけ驚いたが、その評価は些か以上に過剰だ。
俺は自分がしたいと思ったからしてるだけで、それを辛いだなんて思った事は一切ない。
鍛錬だって俺の自由意思に基づいて行っているのであって誰かに強要された訳じゃない。
勉強もそうだ。俺が必要だと思うからしているだけにすぎない。
だが、紫雨はそう思っていないようだ。俺の言葉に少しだけ表情を崩して笑った。
「謙遜するな。……と言いたい所だが、私は昔から達郎の事を見ていたんだ、そんな私がずっとそう思っていた。だから今日の出来事に酷く驚いたんだ」
意外だった。紫雨が俺の事をそう評価する事についてじゃない。いや、それも確かに驚くが、それ以上に紫雨がここまで表情を崩せる事に驚いた。
昔から紫雨は態度を表に出す事が少なかった。何があっても、どんな時でも表情を崩さない。
常に毅然とした態度を崩さなかった。確かに俺や明美と遊んでる時に喜怒哀楽を見せる事はあったが、それでもこれほどまでに崩す事はなかった筈だ。
いったい、どういう心境の変化が紫雨に起こったのだろうか?
考えても分からない。想像はできるが、それはあくまでも想像であって決して正しい答えではない。
紫雨本人に直接問いかけるのも、それはそれで無粋だろう。
「……」
紫雨の言葉に少しだけ照れ臭くなった俺は窓の外に意識を向ける。
車はいつの間にか走り出していた。周囲の景色が通り過ぎていく。
あと5つ程の信号を通り過ぎれば俺の家に辿りつくだろう。
「そういえば……達郎はどうして道場に通いたいと思ったんだ?」
沈黙を破ったのは紫雨だった。視線を紫雨に向けると、丁度紫雨も俺の方に視線を向けていた為に交差する。
道場に通いたい理由というのは、一番最初に説明したと思うのだが、紫雨は何故また訊ねてきたのか、それの理由が分からない。
忘れたのだろうか? いや、紫雨は約束事を忘れる人間ではないはずだ。俺と違って彼女は律儀だ。
そうなると……何故だ? 考えても答えが出ない。紫雨と言う人間が分からない。
だが、聞かれたからにはそれに応えるのが筋というものだろう。紫雨には恩がある義理がある。だからそれには応えなければ……。
「えっと、前にも言ったと思うんだけど……強くなりたいから、かな」
「ああ、そうだったな。3年前に私が達郎に訊ねた時も達郎は「強くなりたい。だから俺も紫雨の通う道場に通いたいんだ」と言っていたな」
「……覚えてたんだったら、なんで聞いたんだ?」
やはり紫雨は覚えていたようだ。だとすると何故? そんな疑問が俺の中から溢れてくる。
「ふふ、すまない。何故か無性に懐かしくなってな……確認の為でもある」
「確認?」
オウム返しに呟いた俺の表情をアメジスト色の瞳が捉えて離さない。
ただ俺の目をジッと見つめながら、紫雨の艶のある唇が言葉を放つ。
「ああ、達郎……道場をやめたいんだろう?」
「……知ってたのか」
道場をやめる相談は誰にもしていない、家族にも何も言っていない。
師範には話をしたが、それを話したのも今日が初だ。
にも関わらず、紫雨は既に知っているようだった。
「直接、師範に聞いたんだ。組手が終わった頃に師範と話をしていただろう? それが気になってな……すまない」
紫雨が小さく頭を下げる。
「紫雨が謝る必要はないさ。むしろ、本当は俺の方こそ真っ先に紫雨に相談するべきだった事なんだから、謝るとすれば俺の方だ」
紫雨の口添えがあって、俺はあの道場に入門することができたのだから。
本来ならば俺はあの道場に入門することができなかった。
門下生かあるいはそれに通ずる者の口添えがあって初めてあの道場に通う事ができるのだ。
それは単純にあそこが本家だからに過ぎない。師範と同じ流派を持つ、師範の弟子が道場主を務める所なら比較的誰でも入門することは出来るが、師範に直接教えを乞うには俺にはコネがなかった。
それを紫雨が橋渡しとなってくれたのだ。だから紫雨に対しては感謝こそすれど、邪見にする道理はない。
「強くなれたか?」
紫雨が問いかける。
―なるほど確認とはそういう意味か。
俺は紫雨に対して強くなりたいと言って道場に通う事になった。
そして3年近く道場に通ってやめたいと言う。
その為の確認か。俺が初志貫徹できたのかどうかを問いたいのだろう。
だから、それに対する俺の返答も決まっている。
紫雨の問いかけに対して俺は口角を釣り上げて笑いながら言い放つ。
「あの道場で俺が負けるのは師範くらいだよ」
「そうだな、ふふ、聞くまでもなかったか」
傲慢だと思われるであろう俺の発言を聞いて紫雨は小さく苦笑いした。
「師範が言っていたよ。達郎から道場をやめたいと話をされたと、その話を私に聞かせた時の師範の顏はどこか清々しいものだった。それと同時に師範は達郎の事を天才だと語ったよ」
「なんというか、照れるな」
「初めてお前が組手した時の事を覚えているか?」
紫雨の言葉に小さく頷く。道場に通い初めて少し経った頃、組手の相手として紹介された俺の相手は高校生だった。
実力は門下生の中では中堅程度、体格だって平均的な高校生男子だったが、少なくとも小学3年生と比べるとあまりにも体格に差がありすぎた。
実際に相手の高校生も軽い指導のつもりだったのだろう。全力で来ていいよと笑いながら言っていた覚えがある。
「あの場に居た者は誰一人としてお前が勝つとは思っていなかっただろう。私だってそうだ……あれはあくまで指導の一環である模擬稽古、だから組手の結果にこそ意味などなく、その過程で糧を得るためのモノ、誰もがそう思っていた筈だ」
だが、実際に組手が始まった瞬間。空気が凍り付いたのを覚えている。当時高校生だった相手を当時小学3年生の子供が地面に転がしたのだから。
困惑したような、まるで夢でも見ているかのような顔をした相手を覚えている。
その直後だった、正座をして組手を眺めていた師範が俺の前に立ち、静かに問いかけてきたのは。
「儂はお前にまだ何も教えておらんが……柳、あの技術をどこで学んだ?」
「先生がやっているのを見て覚えました。相手の動きに対しての先生の重心、手の動き、身体の動き、視線の動き。それを参考にやりました」
そう答えた瞬間。師範が目に見えて驚いたような気がする。
師範は枯れ枝のような老人で、どう見ても筋力が足りていないにも関わらず、自分よりも体格が勝る人間を何人も投げ飛ばし、地に転がしていた。
その動きを何度も見て、頭の中で何度も思い返して、家に帰ってから何度も繰り返して、日夜怠る事のない鍛錬の最中でもずっと反芻していた。
あの技の事を、あの術の事を、あの技術の事だけを考え続けた。その成果が今の結果に繋がった。俺にとってはそれだけの事だったのだが、師範にとってはそうではないらしい。
師範はまるで値踏みするかのような視線で俺の体躯を一瞥すると口元を僅かに綻ばせた。
「柳……もう1回、組手やるか?」
「はい!」
そして用意された次の相手はまた別の高校生。今度の相手に油断は無かったと思う。
実力も門下生の中では上澄みの部類。油断はなかった、しかし慢心があったのだろう、所詮は小学生……力で抑えればどうにでもなる。……そんな考えが俺を掴む腕からヒシヒシと感じた。
だからまたしても転がせる事ができた。先ほどよりもあっさりと華麗に身体は宙に舞い地面に転がった。
相手の力を極限まで利用した。柔の技。師匠がよく模擬試合で見せていた基本にして要の技術。
俺はそれをアッサリと再現した。
二度目の結果に組手を眺めていた者達は小さく湧いた。
道場の門下生には女性や子供もそれなりに多くおり、俺が自身よりも遥かに大きな巨体を転がした事で自分も頑張れば同じように出来るのではないかと自信を持つようになった。
拍手が響く中、結果を見届けた師範が嬉しそうに笑った。
「柳、お前さんは伸びるぞ、凄まじいまで才能に溢れておる」
それから俺は師範に目を掛けられるようになり、結果としてより多くの技術を学ぶ機会を得た。
俺が投げ飛ばした高校生もそんな俺を恨むのではなく妬むのでもなく、素直に賞賛の言葉を投げかけてくれた。
それが無性に嬉しかったのを覚えている。
そしてそれから3年が経った。今では同じ道場に通う門下生の中で、俺は小学生ながらに1番強い。
それでも満足はしなかった。ここで満足して技術を磨く事を怠れば、それは慢心に繋がる。慢心すれば足を掬われるようになる。
だから俺はそれでも技術を磨こうと思った、俺に勝てるのは師範しかいない。技術を磨いても磨いても師範はその更に上をいく。
それが楽しかった。だから俺は家に帰って頭を捻りながら更に技術を向上させるように試行錯誤した。
柔と柔のぶつかりあい、技術と技術の化かし合い。
終わらないイタチごっこ。対策と対抗策のぶつかり合いだけど確かに成長を実感できる。
そして俺はとうとう今日になってようやく師匠に勝つ事ができた。
実戦とは違う模擬稽古だけれど、俺は真剣だった。思えば師範も真剣だったのかもしれない。
その結果、とうとう師範の技術を俺が上回る事ができたのだ。
師範は負けたというのにも関わらず、どこか嬉しそうだった。
にも関わらず、俺は師範に対して道場をやめたいと語ったのだ。
不誠実にも程がある。だが、師範は俺の答えを聞いて笑って背中を叩いてくれた。
「ハハハッ!柳、お前ならそう言うと思っておったわ、おしいのう、実におしい、儂がもう少し若ければ、お前さんをもっと繋ぎ止めれたというのにな」
「お主はこれからも強くなるだろう。だが初心を忘れるなよ。何の為に強くなるか、その理由は人によって様々だ。だが原点だけは忘れてはいかんぞ」
そんなやりとりを思い返していると、紫雨もどこか懐かしむように呟いた。
「あの時、私は心の底から震えたよ。まだ数回しか道場で学んでいない達郎が高校生を投げ飛ばしたんだからな」
当時を思い出しているのだろうか? 昔の事を語る紫雨の表情は楽しげだった。
しかし、嬉しそうにしているのも一瞬で紫雨は視線を俯かせると苦々しい表情でポツリと言葉を溢した。
「今だからこそ言うが、私は道場に通うのが苦痛だったんだ」
「え?」
紫雨は一体、何を言ってるんだ。道場に通うのが苦痛だった?
当時の紫雨を思い出す。俺と一緒に道場に通っている時の彼女は楽しそうに見えた。
とてもじゃないが苦痛に思っているようには見えなかった。
「ふふ、達郎でもそんな顏をするんだな」
「あ、ああ、けど意外だな。俺から見た限り、苦痛に思っているようには見えなかったが……」
「そうだな、達郎の言う通りだ。私は楽しかった。そこに嘘はない」
紫雨が何を言いたいのかよく分からない。俺はどちらかといえば地頭の回転は鈍い方だ。それに対して紫雨は回転が早い。
だから話の要領が掴めない。紫雨が俺に何を伝えたいのか分からない。
何が言いたいんだ? 俺はそう言葉を口に出す事ができなかった。
出してしまえば間違いなく、何かが狂ってしまう。そんな確信があったから。
結局、そんな風にモヤモヤを抱えていると紫雨がぽつりと呟いた。
「達郎の家が見えてきたな」
「あ、ああ、そうだ……な」
窓の外を一瞥して振り向いた紫雨が笑う。
結局思考が纏まらない俺は彼女が何を言いたいのか、答えが出ないまま、家に帰る事になった。
別れ際、俺が車から逃げるように降りようとした瞬間、道着の裾を引っ張られた。
振り返ると紫雨の指が俺の裾を掴んでいる。
「あのな、達郎……私は……」
普段の気丈な振る舞いからは想像できない程に弱々しい姿だった。
頬は赤く染まりながら上気して、瞳は潤んでいる。まるで発熱しているかのような姿に、戸惑いを覚えた。
「どうした?」
そんな態度を出さないよう、促すように言葉の続きを催促すると、紫雨の視線が俺の後ろへと向けられる。
何かを見つけたのか瞳が鋭く細められていく。だがそれも一瞬だ。
「いや、やはり別の機会にするとしよう。すまない、達郎、今日は変な所を見せてしまった」
次にはいつも通りの紫雨に戻っていた。その事に俺は内心で安堵する。
紫雨が何を見ていたのか少しだけ気になるが、胸の内に仕舞う事にした。
「ああ、気にするなよ。俺だって眠って悪かった」
「ふふ、また機会があれば膝を貸そうか?」
「その時は頼むよ」
軽く一言、二言の応酬をして、発進する車を見送った。
車が曲がり角を曲がった所で、家の方へと振り返る。
ふと、紫雨が何処を見つめていたのか気になって、丁度見ていたであろう方角へと視線を向けた。
「……明美の家の窓か?」
その先には澤木家が佇んでいた。あの時の紫雨の視線の角度的には2階の窓のあたりだろうか?
カーテンは閉じきられているのが見て分かる。明かりはついていない。あそこの間取りは確か明美の両親の寝室の筈だ。
「虫でも張り付いてたのか?」
少し考えるが、考えるだけ無駄だろう。
「うしっ、帰るか」
すぐに思考を断ち切った俺は柳家の門をくぐると玄関の扉を開けて中に入った。
車内で少しだけ睡眠をとったお蔭か、身体の調子はすこぶるいい。
「ただいまー」
この時、部屋の窓のカーテンが揺れている事に気付かなかったのは僥倖だったのかもしれない。
紫雨に訊ねなかったのは英断だっただろう。
もし紫雨に何を見たのか聞いていたら、彼女ならばきっと一切の淀みがなく素直に教えてくれたに違いない。
「あそこのカーテンの隙間から目が覗いていた」
と
おや?幼馴染たちの様子が?
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