歳月
母は厳しい人だった。出汁の取り方や食材の切り方はもちろんのこと、盛り付けから食卓に並べる時の適切な温度まで。
いちいちうるさいばかりで褒めてもらえたことなんて一度もなかった。だから料理上手と言われた時には耳を疑ったものだ。
「ああ、美味しい。やっぱりお母さんの味が一番」
時が過ぎ、娘と母の区別もつかなくなった人の手をじっと見る。「あたしなんて、手を焼かれたんだから」厳しいしつけによるものと聞いた火傷の跡は、いまや皺に紛れてほとんど見えない。
正しい伝え方ではなかった。けれど他に方法を知らなかったのだと語るその手をいつまで見つめていられるだろう。
美しい所作は、今のところ何も応えてはくれない。
300文SSでした。お題は「手」。