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 白い部屋が、少し揺れている。

 僕はただ、そこに座っているだけ。白い部屋には小さな窓と大きな扉があるけれど僕一人では出れない。

 僕が怪我をしないように、白い部屋はフワフワだった。だから床に座っていてもお尻が痛くない。


 僕は誰かに何かを言われないと動けない、だから『この部屋に居なさい』と言われたからそうしているだけで。

 どうして部屋が少し揺れているのか、僕にはわからないし。興味がなかった。


『三番、気持ち悪くない?』

「はい」


 サンバンと呼ばれるのは、白い服の人たちが僕の周りを囲むようになってからだ。僕はあの人たちと会う前から、あまり名前で呼ばれたことがなかったから。サンバンと呼ばれるのは、別に嫌じゃなかった。

 それに、その言葉にどんな意味があるかわからないから。


 あれ。なんだか揺れが大きく……


 床に座っていた自分がフワッと浮くと同時に、大きな音に僕は目を何度も瞬きをした。白い部屋の窓の位置が移動している……?

 違う、僕が天井に落ちたんだ。

 部屋を何度も見回したけど、白い部屋に声がやってこない。


 誰かの声がなきゃ、僕は何をしていいのかわからないのに……どうすればいいの?


 扉の先を見た……あれ、開いてる?


 僕は、誰かに言われなきゃ。動けないのに。自分で動くのは怖いのに。どうしてか、わからないけど。僕はその扉の向こう側から吹く風に、視線をあげる。


 いいのかな。


 立ち上がって扉に手をかけた。開いたその先は……明るいところだった。

 そういえば外は久しぶりかもしれない。

 白い部屋の先は乾いた風と太陽の光で溢れていた、足の裏がジャリジャリして少し痛い。


 外に出てみると突然声をかけられた。


「なんだこのガキ」


 白い服の人じゃない、見たこともない怖い男の人だった。怖くなって、僕は声が出なくなった。

 しかも一人じゃない、同じぐらい目が怖い人がその人の後ろからやってきて。僕を見て目を細めた。


「コンテナ車の中身はガキだけ?」

「まさかっ、中に金か何かあるだろっ」


 男の人たちは僕を放って、あの部屋の中を見に行った。

 怖い、白い人たちはどこに行ったの?

 どうすればいいの、誰か。


 僕は男の人たちが帰ってくる前に、その部屋から離れようとした。

 怖くて、その場に居たくなかった。もしかしたら別なところに白い人がいるかもしれないから。

 あの男の人たちはきっと、僕のことが嫌いだと思うから。あの目は……僕のお母さんの目を思い出すから嫌だった。


 ジャリジャリとする足の裏を蹴って、僕は走り出した。すぐ息が苦しくなって視線が足元に落ちてしまう。

 そういえば、走るってことも随分久しぶりな気がした。

 そんなことを思い出していたら大きな音がして、体に痛みが走った。痛いと声を上げるよりも先に体が動かなくなった。足がもつれて地面に体がぶつかって、すぐに地面が真っ赤になる。


「うっ」


 痛いところを見てみると、ぽっかりと体に穴が開いていた。そこから血がたくさん、もう何度と見る光景に僕は目を瞑る。


「マジでガキだけ乗せて走ってたのかよ、あの車。せっかくひっくり返したのに、これだけか」

「しかもお前が今撃ったから、完全にガキが使い物にならなくなったな。多少は売れただろうに」


 目を瞑ったら、さっきの男の人たちの声がした。体が寒くて、自分の体温を抱きしめた。ボロボロと流れる涙の方が温かく感じる。

 男の人たちの声が遠くなっていく、僕に興味がなくなったんだと思う。やっぱりお母さんと一緒だ。

 僕は……


 きっとこれも眠いだけで終わっちゃうのかな。僕、もうこんなの嫌だよ。

 痛いのも、寒くなっていくのも。

 もう嫌だ。


 

 

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