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プロローグ

 冷たい。

 息ができない。

 身体が勝手に空気を求めて足掻く、足掻く。

 気道に水が入り込む。

 反射的に咳き込むと余計酸素が奪われた。


 頭が刺すように痛い。

 足と指の先の感覚が、ない。ない。未来がない。希望がない。


 もう死にたい。

 消えたい。



 眼下に広がる川の流れが激しい。昨夜の降雪でまた水量が増したようだ。

 橋の上からでも鋭利な水しぶきと突き刺すような冷たい水流が見て取れる。あるいは感じ取れるといった方が適切か。

 萩原美玖は欄干に両手をかけ、橋の下を覗き込みながら一瞬のうちに想像したのだ。自分の身体が真下の川面に打ち付けられ、荒波に揉まれながら川底に沈んでいくのを。

 それは甘い誘惑のようであり、しかし実際に想像すると、ひどく恐ろしいものでもあった。

「だめだ」

 一人つぶやき、またとぼとぼと歩き出す。美玖はスーツの上に羽織ったコートの襟を立て、その中で小さく息を吐いた。

 かじかんだ手に温かな息がかかる。

 まだ生きている。生きてしまっている。

 3月のある朝、初めて精神科にかかろうというその道中のことである。





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