第61話 オイラを雇ってくれよ!
7/1書籍版第2巻発売致しました!
それと荒木祐輔先生のコミカライズ版がニコニコ静画とComicWalkerにて連載されております!
7/1現在ではまだ第1話だけですがとても面白く好評のようなので、ぜひ覗いてみてください。
(前回の投稿から随分間が空いてしまいすみません……)
「――へぇ、旦那たちは『追放者ギルド』っていうのか! 追放者の価値を世間に認めさせるギルド……それはつまり、オイラが世界最強だと世界に証明するギルドってことだな!?」
マグナの目がキラキラと輝く。
流石にあのまま冒険者ギルドの中に入っていくのは気不味かったので、俺たちはマグナを連れて次の冒険者ギルドの建物を目指していた。
やはり冒険者に信徒の多いニベル教の街というだけあって、冒険者ギルドの数もそれなりに多い。
これならば、冒険者たちから話を聞くのは難しくないだろう。
まあ、それはそれとして――
「あのねぇ、アタシたちはあくまで、低ステータスの追放者にはちゃんと価値があるって証明するギルドなの。それがどうしてアンタが最強だって証明することになるのよ。ホント調子のいい男なんだから」
マイカが呆れた顔で突っ込みを入れた。
これにはヴィリーネやコレットも苦笑いである。
「それにしてもマグナ、キミはどうしてさっきのパーティから追い出されたんだい? やっぱりステータスが原因なのか?」
「へんっ、バカにすんない。オイラは元々あのパーティで前衛をやれるくらいにはステータスが高かったんだ。本当なら、オイラと喧嘩して勝てる奴なんてこの街に数えるほどしかいねぇよ」
自慢気に鼻の下を擦るマグナ。
……そうなのか?
さっきは思いっきり吹っ飛ばされて建物から出てきた気もするけど……
いや別に疑うつもりじゃないけどさ……
俺と同じことを思ったのか、マイカは訝しそうに見る。
「なんか嘘っぽいわねぇ……。アンタ本当に強いの? 背丈なんてアタシとあんまり変わらないチビ助じゃない」
「な、なにぃ!? 誰がチビだとぉ!? 少なくともお前よりは背が高いだろうが、このドチビ女!」
「ああん? 上等じゃない、やろうっての!?」
「ふ、2人ともちょっと落ち着いて……。それでマグナ、今の言い方だとなにか含みがある感じだったけど……」
俺が聞くと、マグナは肩を落として「はぁ」ため息を吐いた。
「……原因はわからねぇけど、オイラのステータスがどんどん下がっちまってるんだ」
「ステータスが……? それって魔術でデバフをかけられた、とか?」
「知らねぇ、オイラは魔術なんてさっぱりだしよ。ただ……半年くらい前から少しずつ弱くなっていって、今じゃBランク程度のステータスになっちまった。前は喧嘩じゃ負け知らずだったのに、今じゃ格下に負ける始末よ」
ふむ、と俺は考える。
時間をかけて徐々にステータスが低下する――そんなことがあるものなのか?
ステータスを下げるデバフは実際に存在するし、魔術やアイテムで弱体化させることは可能だろう。
しかしそれはあくまで一時的なもの。
そもそも時間をかけてステータスを下げるなんて、即座に効果を発揮してほしい実戦では役に立たない。
「……マイカ、どう思う?」
「どうって聞かれても……アタシだってそんな魔術聞いたことないわよ。ただ――」
「ただ?」
「〝呪術〟――――所謂呪いの類だったらあり得る話かも」
呪い、と聞いてヴィリーネの表情が強張る。
「の、呪いですかぁ……?」
「ああ、安心してヴィリーネ先輩。たぶん先輩が思っているようなモノとは違うから」
「呪術……って、魔術とは違うのか?」
「全然違うわよ! あんな質の悪いモノと魔術を一緒にしないで!」
フシャー!と怒りを露わにするマイカ。
そ、そうなのか……
素人目にはなにが違うかわからないが、どうやら全くの別物らしい。
「魔術っていうのは種類にもよるけど、基本的には魔力を用いて自らを補助する技術と言っていいわ。攻撃・回復・防御など、あくまでも術者に利を招くための技なのよ」
「ということは、呪術は違うと?」
「そう、呪術は使った相手に不幸と厄災を振り撒くモノ。ただ対象者を苦しめることに特化した忌まわしい技……。直接的かつ瞬間的に効果を発揮する魔術が多いのに対して、呪術は間接的で長期的になんらかの現象が持続するパターンが多いみたい」
「つまりマグナは呪術のせいでステータスが下がり続けてる可能性があるってことか……。解除する方法はないのか?」
「難しいわね。アタシは呪術を学んだことなんてないし、発動者以外が術を解くのは現実的じゃないと思う。というか、呪術の効果だってしっかり魔力とトレードオフなのよ? 術者は半年間も魔力を浪費し続けてることになるし……アンタどれだけ恨まれることしたの?」
「オ、オイラはなんもしてねぇよ! いや、そりゃ今まで色んな奴と喧嘩して殴り飛ばしてきたけど……ゴニョニョ……」
「なんでちょっと自信なさ気なのよ……。ま、とにかくアタシにはどうすることもできないわ。――ところで」
マイカは不意にマグナの方を見る。
「アンタ、いつまで付いてくるつもり? なんかいつの間にか仲良くなっちゃったけど」
「なんだよ、オイラが一緒にいたらマズいのか?」
マイカの言葉に対して、ヘラヘラと答えるマグナ。
確かに、さっき助けてからというもの彼は俺たちから一向に離れる気配を見せない。
「オイラも今や立派な追放者だぜ? つれないこと言うなよ」
「そうじゃなくて、アンタこれからどうするつもりなのか聞いてるの。アタシたちも仕事があるんだから」
「仕事って……もしかしてアレか? 最近よく聞く狼男絡みか?」
「!」
――マグナがさらりと放った一言に、俺たちは驚かされる。
俺たちが『追放者ギルド』であると説明は既にしてあるが、どうしてこの街にやってきたのかまでは彼に説明していない。
にも関わらず、マグナはいとも容易く見抜いてみせた。
「……驚いたな、どうしてわかったんだい?」
「旦那ら、この街の冒険者じゃねえだろ。近頃『フランコルシャン』にやって来る冒険者っていえば、狼男の噂を聞きつけた奴ばっかりさ」
「まあ、狼男の件なのは間違いないけど……やっぱり有名になってるんだな」
「アレの首には色んなギルドが懸賞金を掛けてるからな。倒した暁には大金持ち間違いなしよ。……にしても、コイツぁ運がいいや」
俺たちの前を歩いていたマグナはくるりと振り向くと、
「旦那たち、オイラを雇ってくれよ! この街にいる間だけでいいからさ!」