表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/62

第31話 ヴォルクの怒りと、帰ってきた○○○○


 ――〝追放者を集めた新興ギルドが、アクア・ヒュドラを討伐した〟


 この電撃的なニュースは、あっという間に冒険者界隈に広まった。


 討伐の情報を、冒険者ギルド連盟の本部が大々的に公表したためである。


 勿論、世間的に低ステータスの弱者として見られる追放者の活躍――という部分も注目のポイントではあった。


 だがそれ以上に噂の勢いに拍車をかけたのは、あの大手冒険者ギルド『ヘカトンケイル』のSランクパーティが、討伐されたアクア・ヒュドラに1度惨敗しているという事実。


 『ヘカトンケイル』に属するSランクパーティが逃げ帰ってきた場面を目撃した者たちは、大勢いたのである。


 この一件は世の追放者たちに希望を与え――同時に、『ヘカトンケイル』の名声を地に落としていた。



   ◇ ◇ ◇



「……クレイ、俺の言いたいことはわかるよな?」


 大手冒険者ギルド『ヘカトンケイル』――そのギルドマスターの執務室。


 大きな椅子にどっしりと腰掛けたヴォルク。


 その獅子を彷彿とさせる厳つい顔には、明らかに怒りが見て取れる。


 そんな彼の前には、今にも死にそうなほど青ざめたクレイが佇む。


「アクア・ヒュドラっていやぁ、手強いモンスターってことで有名だ。強敵を相手にすれば苦戦することもあるだろう。仲間が犠牲になることもある。そいつは悲しいことだ」


「は……はい……」


「だがな――相手が強かろうが、仲間がくたばろうが、そんなのは関係ねぇんだよ。俺たち『ヘカトンケイル』に必要なのは強者のみ。相手が強ければ、ただそれ以上に強くなればいいだけの話だ。俺がいつもお前に言って聞かせてたことだよなぁ?」


 ヴォルクは椅子から立ち上がり、クレイの目の前まで歩く。


 ヴォルクの身体はクレイよりも一回り大きく、その身体から放たれる覇気はますますクレイを萎縮させていく。


「ば……挽回の! 挽回のチャンスを下さい! 次こそは必ず、俺が強者であることを証明して――ッ!」


 クレイが言い終えるよりも早く、彼の顔目掛けてヴォルクの鉄拳が飛んだ。


 隆々とした剛腕で殴り飛ばされたクレイは、部屋の壁際まで吹っ飛ぶ。


「ぐ……うぅ……」


「クレイ、俺が何に対してキレてるかわかるか? お前が『ヘカトンケイル』という名前に泥を塗ったことと――なにより、弱者である追放者でも倒せた雑魚なんぞに、お前が負けたことに対してだッ!」


 ヴォルクは初めて、憤怒を露わにする。


 額に幾つもの青筋を立て、その怒声は床や壁すら振動で震えさせる。


「何故だ? どうして負けた? ステータスの低い追放者でも勝てた相手だぞ? お前のせいで、俺たちはとんだ笑い者になっちまった!」


「わ、わかりません……サイラスの盾が、魔術を無力化できなくなっていて……」


「もういい! お前には期待して目をかけてやったのに、がっかりしたぜ。……お前の処分は追って伝える。しばらくは、そのツラを俺に見せるんじゃねぇ!」



   ◇ ◇ ◇



「く、くそぉ……どうしてこんなことに……」


 ヴォルクから事実上の謹慎を言い渡されたクレイ。


 彼は暗い宿部屋の一室で、酒瓶を手に己が不幸を嘆いていた。


 一体なにがいけなかったのか?


 何故、あの時サイラスはウォーター・ブレスを防げなかったのか?


 考えても出ない答えに、クレイの精神はズタズタだった。


「チクショウ……俺は、俺は弱者なんかじゃ……」


「――そうよぉ。あなたは強いわ、クレイ」


 クレイの背後の暗闇、その中から細い腕が伸び、彼をそっと抱擁する。


 死霊使い(ネクロマンサー)のヒルダである。


 彼女は妖艶な唇で、クレイの耳元に囁く。


「あなたは悪くないのよ。それにヴォルク様は、挽回しちゃダメだなんて言ってないんでしょう? あなたは強者だもの、これからいくらでも名誉を取り戻せるわ……」


「だ、だが……サイラスはもういない……神の盾を失った『アイギス』なんて、もう……」


「フフ……なにを言っているの? サイラスなら――ここにいるじゃない」


 彼女が言った――その直後、暗闇の中から歩き出てくる大男の姿。


 全身に着込んだ鎧がガチャガチャとこすれ合い、その手には大きな盾を持っている。


 その姿を、クレイは決して見紛わなかった。


「サ――サイラス!? どうしてここに!? お前、生きて――ッ!」


 彼に駆け寄ろうとしたクレイは、すぐにその足を止める。

 

 ――サイラスの虚ろな瞳には、光がなかった。


 それだけでなく、顔のところどころで肉が崩れ、骨が剥き出しになっている。


 腐敗こそしていないようだが――その様子は、明らかに生者のソレではない。


「ヒ……ルダ……お前まさか……サイラスを、不死者(アンデッド)にしたのか……?」


「ええ、そうよ。私の死霊術で、彼に帰ってきてもらったの。このサイラスなら、以前よりもずっと活躍してくれるはずだわ。ああ……とっても逞しくって、素敵……♪」


 恍惚とした表情でヒルダは語り、醜いサイラスの頭に兜を被せる。


 兜によって顔全体は覆い隠され、これならば一見して不死者(アンデッド)には見えない。


「冒険者が仲間を不死者(アンデッド)にするのは、禁忌中の禁忌だ! こんなのが冒険者ギルドにバレれば、追放じゃ済まないぞ!? 最悪、お、俺たちは……!」


「それじゃあ、クレイは今のままでいいの? ヴォルク様に、また認めてもらいたいと思わない? このサイラスがいれば、あなたも以前のあなたに戻れる。追放者でも倒せたのに、なんてバカにされることもない」


 ヒルダはクレイに寄り添い、彼の顔を自らの胸に抱き寄せる。


「大丈夫よ、大丈夫……。不安にならないで。私があなたの傍にいるもの。これからは……全部あなたの思い通りになるわ……」


「…………ハ……ハハ……アハハハ……!」


 この瞬間、クレイの中でタガが外れる。


 同時に、ヒルダの口元は歪に笑うのだった。


時間がなくて中々感想にお答えできていませんが、全部読ませて頂いております!

書いてくれた皆様、本当にありがとうございます!m(;∇;)m



ブックマーク&評価をお待ちしております!


評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】を押して頂ければ幸いです。


何卒、お願いします……!_(´ω`_)⌒)_ ))

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 仲間がスキルを秘匿したため、自分の能力を勘違いし絶命。 死後も辱めを受ける。 サイラスって二重に犠牲者なのでは。女運がなかったのだ。
[良い点] 題材として、虐げられる立場の人が相手を見返す功績をあげる系の話は好きなので、一気読みさせて頂きました。 [気になる点] ヴォルクについては、主人公のパーティーを侮る感じで怒るよりも、ヴォル…
[良い点] ・読みやすい ・主人公に嫌悪感がない ・今後の展開に期待出来る [気になる点] ライバル役失敗→主役活躍→成り上がりの ワンパターンの繰り返しが通用するのはいつまでか・・ そろそろ起承「転…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ