【声劇台本】冬来たりなば春遠からじ
商用・無償を問わずご自由にお使いください。
報告義務はありませんが、使用の旨ご連絡いただけましたら、喜び勇んで可能な限り拝聴させていただきます。
ご使用の際は次の項目にご留意ください。
【必須事項】
・作品名、作者名、URLの明記
【禁止事項】
・セリフの大幅改変
・過度なアドリブ
・自作発言、転載
・性転換(外部配信しない場合(いわゆる「裏劇」)はこの限りではありません)
【補足】
セリフは、間の取り方・息遣いなどある程度自由に演技ができるよう、可能な限り「!!」などの感情表現を省いてあります。句読点も文章の意味が伝わる最低限にしております。冒頭にある、役柄の性格説明をまずご参照いただき、そこからは自由に演じていただければと思います。
ただし、セリフの内容や大筋は台本に沿っていただくようお願いいたします。
声劇台本【冬来たりなば春遠からじ】
作:久遠
【想定所要時間】約30分
【登場人物】
・一条透 ♂ 10代後半
名門・一条家の跡取り息子だが体が弱いため、あまり外出はしない(させてもらえない)。
穏やかでどことなく気の弱そうな話しかただが、芯は強い。
・リム ♀ 10代後半
レディース「桜華天女」の特攻隊長。バイクを乗りこなし、喧嘩が強い。
雑でガラの悪い口調。素直じゃない性格。
【比率】
♂:♀:不問=1:1:0
一条透 ♂ …
リム ♀ …
**********
(夜、一条邸・透の部屋)
(静かに窓が開き、影が浮かぶ)
リム: よう、病弱野郎。
透: ああ…君か。こんばんは、今日も来てくれてありがとう。面倒かけてごめんね。
リム: まったくだよ。あたしだって暇じゃねぇんだ。
透: そうだね、僕のところに来なくて済むなら、やりたいこと他にたくさんあるよね。
リム: ああ。ここんところまともに集会もできてやしねぇ。けど喧嘩も待っちゃくんねぇしな。
透: それは穏やかじゃないね。
リム: 近いうちに戦争になる。だからお前のツラも見納めだ。今夜はそれを言いに来た。
透: そっか。
リム: それだけか?
透: だって、止めても行くんでしょ? だから止めない。
リム: はっ、分かってんじゃねぇか。
透: やりたいだけやればいい。でも、できる限り…怪我はしてほしくない。
リム: そりゃ無理な相談だな、素手喧嘩が当たり前の世界だ。
透: わかってる、だからできる限りって言ったんだ。
リム: あのなお坊ちゃま。喧嘩ってのは勝たなきゃ意味ねぇんだよ。戦争なんだよ。歯の1・2本、腕の1・2本、くれてやる覚悟が無きゃ単なる足手まといだ。あたしの兵隊にだってそんな腑抜けはいない。
透: 大事な局面なのはわかってる。まして君は特攻隊長だ、ほかの子に弱い姿なんて見せられないよね。それでも、少しでも、君が苦しまないように祈るよ。
君は、僕の命の恩人だから。
リム: 目の前でくたばられちゃ寝覚めが悪ぃからな。それだけだ。
透: もうあれから何か月たったんだろう。あの時に比べたらだいぶ暖かくなってきたよね。
リム: まあ、あの日は真冬だったからな。放置したら凍死確定だったろうよ。
(回想)
(冬、街のはずれ)
リム: あー…たりぃな。クソ寒ぃし…家とかマジ帰りたくねー…
……ん? あれ、透? なんでこんな時間に一人で…?
(透、倒れる)
リム: は!? 嘘だろ? おい、透!!
(リム、透に駆け寄る)
リム: 透! 透!!
透: え……君…
リム: あ、(何かに気づいたように)……目の前で倒れてんじゃねぇよ目障りなんだよ! ふらふらふらふら歩いてたと思ったら何の前触れもなくぶっ倒れやがって! あたしが通りかかってなきゃ一大事だぞテメエ!
オラ学生証出せ持ってんだろ。早くしろ!
透: …お金が欲しいなら、いま、持ってるよ…
リム: カツアゲじゃねぇよ馬鹿かテメエは! いつまたぶっ倒れるかわかんねぇから送ってやるっつってんだよ! 住所書いてあんだろ住所!
(学生証を見て)一条、透。やっぱりお前、一条のお坊ちゃまか。
透: 僕のことを、知ってるの…?
リム: ここらじゃ有名だ、病弱な御曹司ってな。どうせ使用人の目ぇ盗んで抜け出したとかそういうオチだろ?
近くまで連れてくからあとは自力で帰れ。あたしみたいな奴がお前連れて屋敷の近くうろついてたら、下手すりゃ誘拐犯扱いだ。ほら、立てるか?
透: ああ、…じゃあ、せめて、名前を教えて。
リム: あ?
透: あ、…ごめん、嫌なら無理には聞かない…
リム: ……あたしはリム。「桜華天女」ってレディースの特攻隊長だ。
透: レディース…おうかてんにょ…?
リム: ああ。桜に中華の華に天の女で「桜華天女」。ここいらではまあまあ名の知れたチームだ。
透: ごめん、全然知らなかった…有名人なんだね。
リム: 名門・一条家のご子息にゃ縁遠い世界さ。知らなくて当然だ。
その辺にあたしの単車が置いてあるからそれで送る。先に言っとくけどヘルメットは無ぇから死ぬ気で捕まっとけ。
透: 単車?
リム: あー、…バイクだよバイク。そっかパンピーにはこれも伝わんねぇのか。
(回想終了)
(再び、透の部屋)
透: 今思えば、助けてくれたのも君の優しさだと思うんだ。
リム: やめろ鳥肌が立つ。気持ち悪ぃ。
透: その後だって、僕が一条の人間だとわかってても何も要求してこなかったでしょ?
リム: あのな。ガラの悪ぃ連中がみんな性根まで腐ってると思うなよ。
少なくともあたしのダチや兵隊は、行き倒れてる奴がいたら助けるし、恐喝はやらねぇ。ガラが悪ぃのは見た目と言葉遣いであって、実際は義理人情に厚いんだよ。そこらのジジババは身なりだけで人をクズ呼ばわりしてくるけどな。
透: だから、そういうことさ。君は優しい。義理人情に厚い。
リム: 話にならねぇな。
透: 話を切り上げようとするとき、君は照れている。
リム: ぶん殴るぞ。
透: ほんとに感謝してるんだ。あの日僕は正直もう、命とかどうでもいいと思ってた。知っての通り病弱だし、そのうえ一応一条家の跡取りだから、気ままに遊ぶこともできないし、外出も必ずSPが付く。そういう生活にうんざりしてた。
けど、君に助けてもらって、僕のわがままで君がときどきこうして来てくれて、話ができて、今はすごく楽しいんだ。
リム: あたしと話すのが楽しいとか、お前頭沸いてるだろ。
透: …昔は、こんなふうにひとりで時間を過ごすことは少なかったんだ。
いつも一緒に居て、話をしてくれる人がいたから。
リム: 何言いだすかと思えば昔の女の話かよ。
透: そういうのじゃないよ、幼馴染なんだ。
この街には僕の家ともう一つ、大きなお屋敷があるでしょ?
リム: ああ。西園寺財閥の当主が住んでるとこだろ。あたしらの界隈でも有名だ。
毎晩毎晩飽きもせず、金に目の眩んだオッサンとババアばっか入れ代わり立ち代わり出入りしてクソ豪華なパーティーやってさ。あのパンピーを馬鹿にしてる感じがクソくらえだ。
透: (笑って)そう、そこ。…いいなあ、その表現。
リム: 何が。
透: クソ豪華なパーティー。なんだか妙に納得しちゃったよ。
リム: で? その屋敷がどうかしたのかよ。
透: 西園寺家と一条家は昔から親交があったんだ。
ご当主には葉月っていう娘さんがいてね、昔はその子がよくこの屋敷に遊びに来てくれてた。
リム: 一条家の跡継ぎお坊ちゃまと西園寺家のご令嬢か。絵に描いたような取り合わせだな。
透: あの頃の葉月は、すごく大変そうだった。
西園寺家は教育が厳しい家でね。教育というか、まるで軍隊の訓練って感じ。学問や立ち居振る舞いは言うに及ばず、茶道に華道、絵画に舞踊に乗馬、果ては武術に至るまで、ありとあらゆる事柄を叩き込まれるんだ。
それでも人前では葉月は笑顔を絶やさずにいた。小さいころから完璧すぎるくらい完璧だった。
僕も西園寺のお屋敷によく連れていかれてたよ、「葉月さんを見習え」ってね。
リム: へえ、じゃあお前もその軍隊の訓練とやらを受けたことがあんのか。
透: 少しだけね。けど僕は先方にとってはお客様で、しかも一条家の人間だから、やっぱりかなり手加減はされてたみたい。僕にとってはあれでも十分しんどかったけど、
…けど葉月はもっともっとしんどかったんだろうな。
リム: ……。
透: 一回だけ、…葉月が泣いたんだ。
リム: ……。
透: 僕の前でもいつも笑ってた葉月が泣いたときに、僕は初めて葉月が苦しんでたことを知った。
それを僕に見せないように頑張って笑ってたことも、それができないくらい限界だったことも、僕はその時初めて知ったんだ。
リム: …で?
透: え?
リム: お前はそれ見てどう思ったんだよ。
透: ……悔しかった。葉月が苦しんでるのに気づけなかったことも、葉月がつらさを吐き出せる相手として認めてもらえてなかったことも。
リム: ……お前、馬鹿だろ。
透: えっ…
リム: その、葉月? だっけ。そいつ、メンタル強いんだろ? 少なくともお前の見立てでは。
透: う…うん。
リム: だったら、その葉月がお前に弱音吐かなかったのは、お前に心配かけないようにしたんだろ。愚痴る相手として認めてねぇとかじゃなくて、お前のこと大事だったからこそ余計なこと言わなかったんじゃねーか。
透: ……。
リム: まあ、頼りないってのも事実だろうけどな。男ならドンと構えて「俺になんでも言え」って態度でいろよって思うねあたしは。認めてもらえてないーとか情けねえことウジウジ抜かしやがって、お前ほんとにポコチンついてんのかよ。
透: り、リム、…女の子が流石にあの、ぽ、ぽこ、
リム: ああ? ポコチンのひとつやふたつで恥じらってんじゃねえよ乙女か。
透: ひ、ひとつしかついてないよ!
リム: …なあ透。お前ら男が思ってるより、女ってのはメンタル強かったりするんだよ。
まあ例外もあるけど、少なくとも葉月って女は、お前が思うより強いと思うぜ。
お前幼馴染なんだったらあたしに言われる前にそんくらい理解しろ。じゃなきゃギリギリまで耐えたそいつの気持ちが報われねえ。
透: うん、だよね。僕も、ちゃんと葉月を理解したいと思った。
だから彼女が次に来てくれる日を待ってた。
…でも、その日を境に、葉月がここに来ることはぱたりと無くなった。僕が西園寺家に招かれることも無くなった。
パーティーみたいな場所で会うことはあっても、逆にそれ以外では会うことが全く無くなったんだ。
リム: パーティーで見かけるってことは、死んだわけじゃねえんだろ?
だったらチャンスはいくらでもあるさ。お前の根性次第だけどな。
少なくともこれから喧嘩りに行くあたしよりは、生きて会える確率は高いだろ。
透: リム。…君は無事でいて。
リム: まだ言うか。
透: 何度でも言うよ、君は無事でいて。
僕は君と話したい。君と話すのが楽しいんだ。知らない世界を知れるのが楽しい。君の世界は僕にとって、未知との遭遇なんだよ。
君のことをもっと知りたい。君の生きてきた世界の話をもっと聞きたい。
だから、無事でいて。
リム: 手前勝手なことばっか言いやがって。
透: 知らなかった? 僕は自分勝手だよ。僕のために、君に無事でいてほしいんだ。祈るだけならいいでしょ?
リム: ほんと馬鹿じゃねえの。
つーか病弱な金持ちお嬢様を助けるイケメンってのが本来の王道だろうが。なんでレディースの特攻隊長が病弱な御曹司助けるルートになってんだよ逆だろ。あげくデッケェお屋敷から御曹司がヤンキーの無事を祈るとかどんなギャグだよ。
透: リム。
リム: なんだよ。
透: 君が好きだ。
リム: お前、葉月はどうしたんだよ。
透: 僕は、君が、好きなんだ。
リム: ……バーカ。
透: 好き。
リム: ……
透: 好きだ。
リム: ……わかったよしつけぇな!! 無事でいりゃいいんだろ!?
努力はするけど生傷の1~2か所は見逃せ。それ以上は約束できねえ。最大限の譲歩だ。
透: 十分だよ。ありがとう。
もう一回ここに来て、無事な姿を僕に見せて。約束。
リム: チッ…………わかったよ。
あたしはもう行く。こんな甘ったるい空間いつまでもいたら頭が変になりそうだ。
透: うん。…待ってるよ。
(数日後、街のはずれ)
(透の目の前には、道端に倒れているボロボロの女性たちがいる)
透: ああ、ひどい状況だ…女の子同士でも、レディースだとこんな凄絶な喧嘩になるのか…?
リム! リム、近くにいるの!?
(少し離れたところから、血まみれになったリムが歩いてくる)
透: リム!!
リム: …あ…? 透、お前、なんでこんなところに…
透: 使用人たちが騒いでたんだ、この近くでレディース同士の喧嘩があったって…!
騒いでたうちの一人に、チームの子の服を覚えていた者がいて…背中に桜の紋章が書いてあったって聞いたんだ!
リム: 服、背中に紋章……ああ、特服か。よく見てたな、そいつ…
透: リム、約束が違う、今の君はとても無事には見えないよ! 血まみれで、たぶん前歯も腕も、脚だって折れてるだろ!?
リム: 言ったろ…歯の1・2本、腕の1・2本、くれてやる覚悟だって。
まあ相手が武器持ってたってのは、計算外だったけどな…
透: 病院に行こう、リム。
リム: 行かねえよ…まだ終わってない。
透: もう十分だ!! 倒れてる子たちもみんな意識がない。レディースだって人間だ、このままじゃ死んじゃうよ!
君だって、これ以上は、ダメだ!!
リム: うるせぇんだよ…そこに転がってる奴らと同じ目に遭いてえか。
だいいちお前だって、どうせまた屋敷抜け出してきたんだろ…近所で抗争があったって知ってる使用人が、病弱な御曹司に外出を許すとは思えねえもんな。
透: 僕のことはどうでもいい…! 僕がこの後叱られようが軟禁されようが、君を助けたいだけなんだ!!
リム: 話に…ならねえ……
(リム、道路に倒れ、そのまま意識を失う)
透: リム!! …だめだ、僕だけじゃ連れていけない…!
(透、携帯で電話をかける)
透: もしもし、今すぐ僕のいる場所に来てくれ! 場所と状況はわかってるんだろう!? 説教は後で聞く!
病院に運んでほしい人がいるんだ、救急車の手配と、それとは別に僕の主治医を連れてきてくれ!
あ、いや、僕は無事だ、ほかに診てほしい人がいるんだ! 広場の子たちは救急隊に任せて構わない!
ただ…彼女だけは僕の主治医に任せたいんだ、名前は……「西園寺 葉月」!!
(病院、VIPルーム)
(ベッドに横たわるリムと、傍らに透)
リム: …ん…
透: リム!
リム: ……透…? ここどこだ…?
透: 病院だよ。僕の主治医に頼んで個室をもらったんだ。……葉月。
リム: !?
透: 葉月でしょ? 言い出せなくてごめんね、気づいてたよ。
リム: お前…いつから!?
透: 僕を助けてくれた最初の日から。僕の名前を呼んでくれた時から気づいてた。
どんな姿でも変わらない、僕の幼馴染、西園寺 葉月。強くて優しい心を持った、大好きな女の子だ。
リム: チッ、名前呼んだの聞かれてたのかよ…!
透: うん、聞こえてた。すぐにわかったよ、僕を呼ぶ声っていうのかな、…懐かしかった。
けど君は気づかれたくないように見えたから、僕も聞かなかったんだ。
リム: てめえ…長い間あたしのことおちょくってたってことか…?
透: 違う。会うことが無くなったのは何か理由があると思ったから。僕が気付いてるって君が知ったら、もう会いに来てくれなくなると思ったんだ。
君にもう一度会えて僕はすごく嬉しかった。だからこそ黙ってたんだ…ごめん。
リム: ……。
透: リムに出逢って、「桜華天女」ってチーム名を聞いて、そこから僕なりに調べた。
そしたら、君が特攻隊長になったのは、葉月が僕の前に現れなくなって少し経った頃だってことが分かった。
リム: ……。
透: …葉月と会うことが無くなったのは、君が「桜華天女」の一員になったからだよね。特攻隊長のリムと西園寺家の葉月が同一人物だって他人に知られるのは、家にもチームにも良くない。
…あまり聞かれたくないことかもしれないけど…ご両親は、知ってるの?
リム: 知ってる。けど黙認してる。あたしが他の金持ち連中の前でうまく立ち回ってる間は家も何も言わないし、あたしの話題を外に漏らすことも無い。そんな不良娘が一族にいるって外に知られること自体が大恥だからな。
家の体裁があるし、下手に逆らえばあたしは消されると思ったから、大きなパーティーには仕方ないから出席したけどそれ以外は家にもほぼ帰ってなかった。
透: 葉月…
リム: …けどな、透。一つだけ大きな間違いがある。
透: 間違い?
リム: 「桜華天女」の一員になったころから会うことが無くなった、わけじゃない。
順序が逆なんだよ。会うことが無くなったから、「桜華天女」に入ったんだ。
透: え?
リム: ……お前だけが当時のあたしの唯一の味方で、安心できる存在だった。
けど、家の教育にお前が邪魔だと判断した親が、もう透を家に呼ばないって、お前の親に言ったんだ。
あたしは味方を失って、逃げ場がなくなって、ある夜に家を抜け出して街をふらふらしてたら男に絡まれてさ。
そいつら始末してたら「桜華天女」のアタマにスカウトされたってわけ。…もう数年前の話だ。
透: 葉月…
リム: で、特攻隊に放り込まれて、他の連中からソッコー喧嘩売られたんだけどな、あたしさ、実家で武術叩き込まれてただろ? あっさり全員ボコっちまって、あっという間に特攻隊長昇格よ。
あの日は集会の後どうしても家に帰らなきゃなんねえ用事があって、向かってる途中に、ぶっ倒れてるお前見つけたんだ。
透: ……僕は、君の邪魔になったの?
リム: いいや。お前助けてからお前と何度も話す機会があって、そのおかげで吹っ切れた。
あたしは、「桜華天女」を抜けたんだ。
透: えっ!?
リム: 最後の夜に言ったろ? お前のツラも見納めだ、ってさ。あれ、「桜華天女のリム」として会うことはもうないって意味。
ぶっちゃけ昨日も、チームの奴らに伝えに行ったらケジメだっつってリンチされた上に前歯もってかれてさ。その真っただ中に他のチームが殴り込みに来やがってもう大混戦よ。
だからこの怪我は全部、あたしが堅気になった証。お前には理解できないかもしんねぇけど、名誉の負傷だ。
これで「桜華天女」の特攻隊長リムは居なくなった。あたしは、「西園寺 葉月」に戻るよ。
透: 葉月…僕は、君の居場所を奪ってしまったんじゃ…
リム: 居場所なんざ一つありゃいい。お前の言葉が真実なら、あたしはそれを信じるだけだ。
最後の夜に言ってくれた言葉は、「リム」に対してか? それとも「葉月」に対してか?
透: どっちでもない、「君に対して」だ。名前なんてどうでもいい、君が、好きなんだ。
リム: バーカ。
透: 葉月。
リム: ラストの言葉は、あらためて言わなくたってわかってるよ。
どうせこの先も一緒に居るんだから、テキトーなタイミングで聞かせてくれればいい。
透: うん…わかった。
リム: ……いつの間にか随分あったかくなったな。
透: もう春だもん、もうすぐ桜も咲く。新しい門出には相応しい季節だ。
リム: …ああ。
透: 退院したら、お花見に行こう。僕らの家なら敷地内でも十分かもしれないけど、僕は君と出かけたいよ。
リム: 家の奴らにはどう説明するんだ?
透: 僕だって昔とは違う。ちゃんと説明するさ、僕には葉月が必要だって。両方の親に認めてもらって、堂々と遊びに行こう。
リム: それでもSPの二人や三人はつくだろ?
透: それはしょうがないよ、僕らの立場ではね。
だからそのときは、僕がどれだけ葉月のこと好きか、SPにもわかってもらうとしよう。
リム: バカ、お前何するつもりなんだよ!
透: (笑う)
リム: (つられて笑う)
透M: こうして、この街から、桜の紋章を背負った少女が一人消えた。
寒さに凍えて雪に押しつぶされかけていた新緑は、雪解けを待ち春を迎え、より瑞々しく鮮やかな色をもって、今も僕の目を釘付けにしている。…雪解けを待つ間の彼女も僕はとても好きだったから、正直なところ寂しさが少しも無いわけではないけど…全部が一人の彼女だから、この先も僕は自信を持って言える。彼女を、愛している。
リム: …………何書いてんだお前。
透: え!? っと、これはあれだよ、日記! 未来の僕がこれを読んで何度でも、今の気持ちを思い出せるように――
リム: こっ恥ずかしいことポエムみてーに書き残してんじゃねえ!! 今すぐ消せコラ!!
透: 僕の日記をどう書いたって勝手でしょー!! 勝手に見ないでよ葉月のエッチ!!
リム: 何がエッチだふざけんなっつーかそれ普通女の台詞だろバーカバーカ!! もう知るか!!
透: 葉月!!
リム: なんだよ!!
透: 愛してる。
リム: …………バーカ。
ご使用いただきありがとうございました!
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