さぁさぁ、戦をはじめよう
さぁさぁ、戦の準備だ。
隣国との戦。
軍事力は拮抗しお互いに長槍、鉄砲、軍馬、弓と鍛えて互角。
これまでも戦はすまいと話し合いも続けていた。
関所もいつも厳戒態勢。
それが今日、最後の使者が来た。
「――以上により、これ以上の言葉はないと考える。と我が主君からでございます」
「ほぅ。それは、この国に宣戦布告と挑発をしているのか」
「そのような捉え方では天下に悪名を残しまする」
「黙って聞いてりゃあ、いけしゃあしゃあと!」
脇に控えていた松重弘が怒声を使者に浴びせ掴みかかろうとする。
「重ッ! 待てッ!」
「ッ! ――はい」
おとなしく元の位置へ戻ってくれる。
よかった。重弘が暴れ出してしまったらもう手が付けられないからな。
「やれやれです。見境ない配下を持つと苦労しますな」
「ご使者。私を蔑む、悪く言うのは我慢しよう。だが、部下まで悪態をつかれて黙っている私ではないぞ」
重弘は重臣でもあるが一番近くにいていろいろと教えてもらった恩人でもある。
それを悪く言われて我慢できるはずもない!
「その口を閉じてさっさと帰れ!」
「では、失礼いたします」
使者が部屋を退室する。
使者の歩く足音が遠くなったことを確認して、我慢していた配下たちが直に訴えてきた。
「殿! あそこまで言わせて良いのですか!」
「私は悔しくて仕方ありません!」
「奴らに一泡吹かせてやりましょう!」
「戦じゃあ!」
みな熱くなっているな。
もちろん私も堪忍袋の緒が切れかけるくらい不快なことだった。
では、実際に戦をはじめようかとすると準備は整えるのに時間が掛かる。
ここは、まだ結ばれているはずであろう堪忍袋の緒で出陣と叫びたい言葉に糸をかけて冷静に。
「全員聞け!」
その一言で全員が口をつぐみ。
一瞬にしてシンとした空間ができる。
全員が自分を凝視して出陣の大号令を待っていた。
だが、出陣の号令はまだ先だ。
「みな、よく我慢してくれた。だが、まだその時ではない!」
「どう言うことですか!?」
「まずは諸国へ事実を伝えろ。同時に侵攻に備えて防衛体制をしっかり整えて、逐一、報告をするように。つまりは、彼奴等に攻撃させて逆に討伐する!」
「そのような回りくどいやり方をしなくても!」
「意味はあるのだ。実行してほしい」
配下たちは渋々承諾。
配置、使者として各地に飛んだ。
私もちょっと小細工をしよう。
全員が部屋から出て行ったのを確認して。
「いるか?」
「はい」
「使者はどうなった?」
「無事に城を出て国へ足早に帰って行きました」
「そうか。それでは向こうの民たちに流言を頼む」
「はっ、内容は?」
「戦が始まる。と」
「承りました」
これで良し。
軍備、各地へ宣伝、敵への流言。まだ、やることはたくさん。
やるとなったらとことんやってやる。
手段を選ばないとはこのことだな。
この数か月後に大規模な戦が発生。
挑発された国が挑発してきた国に大勝利するという結果になった。